シーズン1はこちらでどうぞ。


1/3  05:47:12 a.m.



とにかく時間がない。なんせ6分後にはバスが出ちまう。
無理を承知でオレは運転手に言った。
「4分で博多駅のバスセンターまで!」
「何分発なの?」運転手が聞く。
「53分です。」
「信号2つかかったらアウトだよ。いい?」
迷ってるヒマは無い。「とにかくお願いします!」
「よっしゃ!なら後はまかせて支払いの準備でも
 しときんしゃい!」
なんと力強い言葉だろう。あぁ、オレが女なら抱かれてもいい。
そう思わずにはいられぬ程、今のオレは非力だ。
すべてをこの漢(おとこ)に預け、一路博多駅へと向かう。
幸い朝の5時だ。車は少ない。
となれば敵は信号のみ。たのむぜ運ちゃん!



やがて第一関門。大博通りに出る交差点。
案の定ここで1回目のストップ。
が、これは想定の範囲内ってヤツ。
むしろ思ったより早く信号が変わり、左折すれば後は
目的地まではほぼ一直線。
ただ今5:48:27 a.m.。順調だ。
ここまで二人の間に流れていた緊張が少しだけ緩む。


その時だ。


突然横を走っていたセダンが
前に割り込みしかもスピードダウンしやがった。
慌ててブレーキを踏む漢。
思わず左上の取っ手をつかむオレ。
と同時に右レーンを確認し滑らせるように
車体を運ぶ(その間約0.87秒)。
「あの野郎のせいでお客さんとの約束
 守れんようになるとこやったバイ。」
と、事も無げに言ってのけたこの運転手。
あぁ、この漢に求められたなら

いつもはしない事でも
やってしまいそう(/ω\)


そんな事を考えてる間に更にゴールへと近づく二人。
5:49:42a.m.。リミットまで1分強。
残る関門は一つ。博多駅前の信号だ。
この直線へ入った時からオレは両目2.0の俺アイを駆使して
その信号をチェックしていた。
だ。
って事は俺脳の計算だといい感じにに変わるってぇ寸法だ。


しかし、しかしである。

我々がソコに到着しても信号が変わる気配が無い。
おまけに待ちの車が結構詰まっている。
5:50:37a.m.。もはやこれまでか!?
が、さすがそこはオレが身を預けた漢。
迷わず空の左折レーンに入りその時を待った。
「普段はこんな無茶はせんのですがね(笑)」
すぐに信号が変わりいち早くダッシュしたTAXIは
強引に右レーンに入り
約束の時間にオレをゴールへと届けたのだ。
「お釣りはいらないっす!ほんと助かりました!」
これが仕事だから…とでもいうような
優しい微笑みを後に
オレはバスセンターのエスカレーターを駆け上がるのだった。




シーズン3へ続く。