日本のベンチャーが育たない原因の一つに、ベンチャーを育成する側の人間の、組織人事に関する無知があると私は思っている。

例えば、おバカなベンチャーキャピタリストのストックフレーズは「ベンチャーは社長の能力で決まる」である。通常これは、非常に限定的に、ビジネスモデルの構想力やカリスマ性、トップ営業の力などを意味しているが、会社を大きくしていくために共に組織を支えるコア人材をスカウトする人脈と魅力、人材に十二分に力を発揮させ、オーバー・アチーブを引き出すリーダーとしての構え、それらを持続的成長へと繋げていくための仕組みづくりのセンスなどは、通常そこに含まれていない。

だが実証的には、極論してしまえば、前者のビジネスモデルの構想力、カリスマ性、トップ営業力などは「あれば尚良し」という程度のファクターだと私は考えている。

ビジネスモデルは確かに大切だけれども、1999年の新興株式市場の開設後に限っても、上場を果たしたベンチャーで、その後も順調に成長を続け、今日の日本を牽引するようになった企業の内、特段ユニークなビジネスモデルのおかげでそこに至ったという例は殆どないと思う。

例えば楽天グループの入り口はインターネットショッピングモールだが、これは当時既に大手商社も手掛けていて、苦戦をしていたビジネスモデルを、料金設定から見直し、地を這うようなマーケティング展開でブレイクさせたものだ。辺境のこの国で、GoogleやFacebookのような既成のものとは全く違った雄大な「物語」を持ったビジネスモデルが生まれる可能性は低い。借り物のビジネスモデルでも、それを磨き上げていく人材力、オーバー・アチーブを引き出し成長ビジネスにしていく組織力、確固たる事業システムを確立し、水平展開していくセンスの方がはるかに重要なのは歴史が証明している。

カリスマ性や神業的なトップ営業力が、本当に企業家に必要なものかどうかについても、私は懐疑的である。リクルートグループは多くの企業家を輩出し、その内20~30人は日本を代表するような経営者と言って良いであろうが、私が垣間見たそれらの内の数人についてレビューしてみても、決してカリスマ性があるとか、神業的なトップ営業力があるというような人は多くない。

但し彼らの多くが、情理を尽くして人材を集め、任せ、束ねる、しなやかな人であったのは、間違いないと思う。意外にも誰から見ても「天才」と思えるようなリクルートOB・OGは、「企業家」ではなく「タレント(ビジネス、文化、教育などの分野で)」の道を選択した。それと対照的に、「企業家」になって成功した人の多くは、オープンマインドのずば抜けた努力家(ある意味それは「努力することの天才」と言えるかもしれないが…)である。

こうして見てくれば、ベンチャーと言えども、いやベンチャーだからこそ、人事上手な経営者、組織づくりに手腕を発揮する企業家が大切だとわかるはずだ。

それらを軽視した経営者でも、一時の栄華を極めた人はいるが、今も生き延びる人は残念がら皆無に近い。この事実にベンチャー育成セクターの人々はもう少し自覚的であるべきだと私は思う。


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