夏が、はじまった。


梅雨が明けになったかどうかの情報はまだ入ってないのだが、朝起きてそう感じた。雨上がりの空はぐんと高く、大きな夏雲が出ていた。そして、蝉がいっせいに鳴き出した。


 夏といえば、今年で戦後六十年になるそうだ。

 節目の年であることをここで「強調」したいのだろう。天皇が戦没者を弔うためにサイパンを訪れた話や戦争ものの映画の制作発表など、最近、その手のニュースが増えてきたように思う。夏に向けてのイベントのような扱いにならなきゃいいが。


 ところで、詩人の石垣りんさんがお亡くなりになって半年が過ぎた。


「石垣さんの詩は心にぐっとくるから、ぜひ読んだ方がいい」と仲のよい友人に薦められて読むようになったのだが、確かに。いっぺんで好きになってしまった。



    自分の住む所には

    自分の手で表札をかけるに限る


    精神の在り場所も

    ハタから表札をかけられてはならない


    石垣りん

    それでよい。


                          「表札」より一部抜粋




 何より、彼女の作品は私にとってわかりやすかった。

 頭で解釈するのではなく心で感じとる詩であり、人間の本質を突いた詩だったからだと思う。


 石垣さんは、幼い頃に母親を亡くし、その後三人の母親を持ったそうだ。

 十四歳で日本興業銀行に就職し、定年まで勤めあげた。空襲で大変な目にあったり、一家の大黒柱として働かなくてはならなかったことなど、人並みはずれた苦労を背負いながら詩を書き続けた。生涯独身だった。


 厳しい生活を強いられた理由には、時代背景もあったと思う。

 特に、戦争の恐ろしさについて身をもって経験された石垣さんは、これまたわかりやすい言葉で、しかし、絶対あってはならないものとして自らの作品にその思いを託した。


「崖」「弔辞」などの作品は、ぞくっとくるような鋭さである。

 本質を見極める目がなければ、書けない詩だと思う。



    私どもは身につけたものを

    洗っては干し

    洗っては干しました。

    そして少しでも身綺麗に暮らそうといたします。

    ということは

    どうしようもなくまわりを汚してしまう

    生きているいのちの業罪のようなものを

    すすぎ、乾かし、折りたたんでは

    取り出すことでした。

    雨の晴れ間に

    白いものがひるかえっています。

    あれはおこないです。

    ごく日常的なことです。

    あの旗の下にニンゲンとい国があります。

    弱い小さい国です。


                           「洗たく物」より抜粋



『現代誌手帳特集版 石垣りん』は、石垣さんへの追悼の意を込めて編集されたものだ。


 彼女が亡くなられてから、いくつか他にも詩集が発行されているが、この本には、作品だけでなく彼女の肉声が収録されたCDも付いている。また、交流のあった詩人たちが思いおもいに書き綴った詩や文章にも胸を打つものが多かったので取り上げてみた。


※抜粋させていただいた詩について問題がある場合は、恐れ入りますがご一報ください。                        


今日の一冊

石垣りん