Chapter45 不動産鑑定評価基準総論 第7章 | 不動産鑑定士&受験生必見!! “不動産鑑定評価基準の解説”

不動産鑑定士&受験生必見!! “不動産鑑定評価基準の解説”

こんにちは、不動産鑑定士の大島です。
これまでの実務経験、講師経験、実務修習指導経験を活かして、不動産鑑定評価基準の解説をしていきます。
初心者でもわかりやすい、目から鱗の解説を目指します。

第1節 価格を求める鑑定評価の手法


不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な手法は、原価法、取引事例比較法及び収益還元法に大別され、このほかこれら三手法の考え方を活用した開発法等の手法がある。


(解説)

不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な手法は、原価法、取引事例比較法、収益還元法の三手法である。また、これら以外でも、開発法、賃料差額還元法、借地権割合法等の手法があり、詳細は各論で説明する。

 

Ⅰ.試算価格を求める場合の一般的留意事項

1.一般的要因と鑑定評価の各手法の適用との関連


価格形成要因のうち一般的要因は、不動産の価格形成全般に影響を与えるものであり、鑑定評価手法の適用における各手順において常に考慮されるべきものであり、価格判定の妥当性を検討するために活用しなければならない。


(解説)

総論第6章で説明したとおり、価格形成要因を分析した結果は、鑑定評価の手法を適用する場合に適切に反映されなければならない。一般的要因、地域要因、個別的要因のそれぞれが各手法の手順のどこで考慮されるのかを把握する必要がある。詳細は、各手法の解説で説明する。ここでは、一般的要因についてのみ言及しているが、地域要因や個別的要因も同様である。

 

2.事例の収集及び選択


鑑定評価の各手法の適用に当たって必要とされる事例には、原価法の適用に当たって必要な建設事例、取引事例比較法の適用に当たって必要な取引事例及び収益還元法の適用に当たって必要な収益事例(以下「取引事例等」という。)がある。取引事例等は、鑑定評価の各手法に即応し、適切にして合理的な計画に基づき、豊富に秩序正しく収集し、選択すべきであり、投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものであってはならない。

取引事例等は、次の要件の全部を備えるもののうちから選択するものとする。

 

(1)次の不動産に係るものであること

① 近隣地域又は同一需給圏内の類似地域若しくは必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域(以下「同一需給圏内の類似地域等」という。)に存する不動産

② 対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等において同一需給圏内に存し対象不動産と代替、競争等の関係が成立していると認められる不動産(以下「同一需給圏内の代替競争不動産」という。)。

(2)取引事例等に係る取引等の事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。

(3)時点修正をすることが可能なものであること。

(4)地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。



① 取引事例等の選択について

ア.必要やむを得ない場合に近隣地域の周辺地域に存する不動産に係るものを選択する場合について

この場合における必要やむを得ない場合とは、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産について収集した取引事例等の大部分が特殊な事情による影響を著しく受けていることその他の特別な事情により当該取引事例等のみによっては鑑定評価を適切に行うことができないと認められる場合をいう。

イ.対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等において同一需給圏内の代替競争不動産に係るものを選択する場合について

この場合における対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等とは、次のような場合として例示される対象不動産の個別性のために近隣地域の制約の程度が著しく小さいと認められるものをいう。

(ア)戸建住宅地域において、近辺で大規模なマンションの開発がみられるとともに、立地に優れ高度利用が可能なことから、マンション適地と認められる大規模な画地が存する場合

(イ)中高層事務所として用途が純化された地域において、交通利便性に優れ広域的な集客力を有するホテルが存する場合

(ウ)住宅地域において、幹線道路に近接して、広域的な商圏を持つ郊外型の大規模小売店舗が存する場合

(エ)中小規模の事務所ビルが集積する地域において、敷地の集約化により完成した卓越した競争力を有する大規模事務所ビルが存する場合

ウ.代替、競争等の関係を判定する際の留意点について

イの場合において選択する同一需給圏内の代替競争不動産に係る取引事例等は、次に掲げる要件に該当するものでなければならない。

(ア)対象不動産との間に用途、規模、品等等からみた類似性が明確に認められること。

(イ)対象不動産の価格形成に関して直接に影響を与えていることが明確に認められること。


(解説)

不動産の鑑定評価を行う場合、資料に基づいてさまざまな判断をしなければならない。そもそも鑑定評価で求める価格は、基本的には正常価格であるが、これは現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値であって客観性を有する価格(誰もが納得する価格)を求めるものである。不動産鑑定士は、豊富な資料に基づいて緻密な計算をし、鑑定評価額を試算して依頼者に提示しなければならない。これにより鑑定評価額に客観性が付与されて、依頼者もなるほどと納得するものである。これが、鑑定評価が資料に基づく判断であると言われる所以で、その資料が豊富にあり、適切な資料を活用することでより客観性が高まり、適正な価格が求まることとなる。つまり、量と質の両方を備えた資料を活用することにより精度の高い鑑定評価が可能となる。

資料についての詳細は、総論第8章で説明するが、資料の種類としては確認資料、要因資料、事例資料等がある。このうち事例資料は、鑑定評価の手法の適用に必要とされるものであり、取引事例(取引価格の事例)、建設事例(建築工事費の事例)、収益事例(純収益の事例)、賃貸事例(賃料の事例)、分譲事例(マンションの取引価格の事例)等がある。これらの事例を取引事例「等」と言うが、鑑定評価の手法毎に必要とされる事例資料は異なるため、適用する手法に必要な取引事例等を収集選択する必要がある。また可能な限り豊富に収集すべきであり、依頼の多い地域などの取引事例等については、案件の都度にわかに収集するのではなく、変化する地域の動向を見失うことのないように日常より計画的に収集していることが望ましく、売買物件の動向、取引の成立状況等についても日常の鑑定評価業務を通じて絶えず注意し、情報を入手するように努める必要がある。

このように、収集した取引事例等から、手法の適用に当たって適切な事例を選択し活用していくこととなるが、次の要件を備えるもののうちから選択すべきである。

 

① 投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものであってはならない

投機的取引とは、転売差益を目的とするような取引であって適正価格を求めようとする鑑定評価に活用する事例としては適切ではなく、このような適正さを欠く要因が内在する場合には取引事例等として採用するには不適切である。投機的取引か否かの判断は、主に取引目的が最終的に利用を前提とするか否かによって行うこととなる。その判断に当たっては、当該取引事例に係る取引事情、取引当事者の属性、取引価格の水準の変動の推移等、各事例に係る個別の分析を行うのみならず、日常の鑑定評価業務を通じて収集される多数の事例の分析・検討を通じて把握される価格水準及びその将来の動向等を踏まえてそれぞれの事例の個別性を吟味しなければならない。

 

② 場所的同一性

採用する取引事例等は、周辺環境等が類似している地域から選択すべきである。この場合に選択すべき地域として最も望ましいのは、言うまでもなく近隣地域(対象不動産の存する地域)である。次に望ましいのが、同一需給圏内の類似地域である。近隣地域とは異なるが、近隣地域の特性と類似する特性を有する地域であるからである。基本的にはこれらの地域から取引事例等を収集すべきであるが、収集した取引事例等の大部分が特殊な事情による影響を著しく受けていること、その他の事情により十分な事例の収集ができない場合がある。このような場合には例外的に近隣地域の周辺の地域から事例を選択することも認められる。ただし、周辺の地域である以上、近隣地域と地域の特性の類似性が低く(あるいは類似性がなく)、その選択の許容性としては、近隣地域と周辺の地域間に価格牽連性が認められることが条件である。〔図表7-3

 

 

例えば、対象不動産が商店街に存する更地(商業地)で、取引事例がその背後に広がっている住宅地の場合をイメージするとよい。近隣地域が商業地域、周辺の地域が住宅地域で類似地域とはならないが、近隣地域の価格水準を100とした場合に、周辺の地域の価格水準が概ね70という価格の牽連関係が客観的に把握できる場合は、周辺の地域の住宅地の取引事例を採用して補正することが可能であるため採用することができるわけである。

また、対象不動産の最有効使用が近隣地域の標準的使用と異なる場合の取引事例の選択については注意が必要である。〔図表7-4〕にあるように具体例を挙げることができるが、いずれも対象不動産の用途が、近隣地域や同一需給圏内の類似地域の特性とは異なることとなる。一つ目の例で説明すると、近隣地域の特性(標準的使用)は戸建住宅地域であり、同一需給圏内の類似地域の特性も戸建住宅地域となる。しかし、対象不動産は規模が大きくその最有効使用がマンションの敷地であれば、典型的な需要者は、マンションの開発を目的とする開発業者となり、対象不動産と代替競争関係の働く不動産も画地規模の大きな土地となる。それ故、戸建住宅地域である近隣地域や同一需給圏内の類似地域には、画地規模の大きな土地が少ないため、適切に事例の収集ができない場合がある。これは、最有効使用が地域の特性の制約下にあるものの、その関連性が希薄であるため、標準的使用と最有効使用が異なることによるものであるが、近隣地域や類似地域はあくまでも近隣地域の特性により把握されるため、最有効使用の用途と近隣地域や類似地域の用途に食い違いが生じるわけである。このような場合には、地域の範囲を柔軟に捉えて、同一需給圏内で異なる地域の特性であってもマンションの素地の取引事例を広く収集して評価に活用すべきである。このような取引事例のことを「代替競争不動産」という。

 

 

同一需給圏内の代替競争不動産に係る取引事例等を選択する場合の代替、競争等の関係の判定は、次に掲げる要件に該当するものでなければならない。

(ア)対象不動産との間に用途、規模、品等等からみた類似性が明確に認められること。

マンション素地であれば、同程度の規模のマンション素地の事例を、ホテルであれば同程度の規模・品等のホテルの事例等を選択しなければならない。

(イ)対象不動産の価格形成に関して直接に影響を与えていることが明確に認められること。

対象不動産と代替競争不動産とが代替競争関係になければならないことは当然であるが、地域の特性の制約が希薄であるため、相互に直接影響を与えているものを選択しなければならない。

なお、いずれの場合であっても、同一需給圏外から取引事例等を採用することは認められていない。これは、総論第6章でも説明したように、同一需給圏外に存する取引事例等は対象不動産と代替競争関係にないので比較対照する事例としては不適切だからである。

 

③ 取引事情の正常性又は正常補正可能性

採用する取引事例等は、現実の市場において取引されたものであり、取引に当たって個別の事情が介在することが少なくない。それ故、採用する取引事例等は、まず特殊な事情が介在していないものが望ましいが、特殊な事情が介在している場合であっても、それを補正することができるものであれば採用することができる。

 

④ 時間的同一性

原則として、採用する取引事例等は、過去に遡ったものとなるため、時点修正をする必要がある。この場合、遡る期間が長ければ鑑定評価の精度を下げてしまうので、できる限り価格時点に近い事例を採用して時点修正を行って活用すべきである。反対に、過去に遡りすぎた古い事例のため、時点修正を適切に施すことができないような場合は、採用する取引事例等としては不適切である。

⑤ 要因比較の可能性

採用した取引事例等は、地域要因の比較や個別的要因の比較を行って評価に反映させていくが、要因の比較ができないような事例は選択すべきではない。例えば、対象不動産が住宅地域に存する場合に、商業地域の事例を選択した場合、居住の快適性という視点で要因比較をすべきであるが、商業地域の取引価格がそもそも収益性という観点で決定されているわけで、この価格を無理やり居住の快適性という視点で捉えても比較できないからである。また、対象不動産が更地である場合に、借地権の取引事例や底地の取引事例を採用しても比較する事例としては不適切である。言い換えると、種別・類型の異なる事例は、原則として地域要因の比較や個別的要因の比較ができないのである。

 

 

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