どうも、おささです。

いつものように映画の感想を・・・と思っていたが、
それどころではないニュースが入ってきた。


声優・永井一郎さんの訃報である。享年82歳。


永井さんは京都大学在籍中に演劇を志し、舞台俳優になるも、
次第に洋画やアニメの吹き替えなど声優としての仕事が増えていった。
戦後の声優業界の草分け的存在であり、業界の父であった。

永井さんは昨日、広島でナレーションの収録を終えた後、
今朝、滞在中のホテルの浴室で倒れているのが発見されたそうである。
夕方に速報が出て以降、ツイッターやブログなど
ネット上では業界関係者や一般のファンに至るまで
永井さんや、彼が演じてきたキャラクターの思い出であふれている。

「機動戦士ガンダム」のナレーションを挙げる者、
「うる星やつら」の錯乱坊を挙げる者、
「YAWARA!」の滋悟郎を挙げる者、
「宇宙戦艦ヤマト」の船医・佐渡酒造を挙げる者
映画「ハリー・ポッター」シリーズのダンブルドア校長、
「ナウシカ」のミト、「ラピュタ」の閣下、
「カリオストロの城」の執事ジョドー・・・
どの作品のどのキャラクターも人々の心に残る当たり役だった。



個人的に記憶に残ってるのは今から25年前、
あるアニメ雑誌に載っていた記事である。


「磯野波平、ただいま年収169万」

声優業界が薄給であることを伝えたオヤジ系雑誌の記事で、
当時の永井さんの年収がその程度だったということである。
「俺は声優である前に俳優だから」という同業者の発言を嫌い、
早くから声優の地位向上を叫んできた一人であった。



そんな永井さんの最大の当たり役は
言うまでもなく国民的アニメ「サザエさん」の磯野波平だろう。
東京・世田谷に住む7人家族の家長として
子供たちを時に
「バッカモーン!」と叱りながら育ててきた。
確かに波平を語る上で「バッカモーン!」という怒鳴り声は欠かせないが、
波平の怒鳴り声はただ単に一時の感情に任せた「怒り」ではなく、
カツオの姑息で卑劣な猿知恵やサザエの粗忽な言動など、
人としての道を踏み外しかねない者への愛を込めた「叱り」であった。



さきほど、ツイッター上で誰かがつぶやいていたが、
永井さんは波平を演じる際にこんなことを心がけていたそうである。
要約すれば、

「波平はずっと53歳。
 (ツイートではそう書いてあったが諸説あって、
  54歳という説が有力である)
 サザエさんの連載が始まった昭和21年では、
 波平は日清戦争の前年、明治26年生まれ。
 アニメの放送が始まった昭和44年では、
 波平は大正5年生まれで、太平洋戦争を経験している。
 だが今の53歳はもう戦後生まれである。 
 この3人の波平は同じ人間とは言えないでしょう。
 波平を特定の時代を経験した人間として演じれば
 どうしても時代の変化と共にズレが生じてくる。
 だから私は「どんな時代にも通用する人間」として
 波平を演じるよう心がけるようになりました。
 どんな時代にも通用する父親像、
 それは理想の父親像ということになりました」

45年の長きにわたり「磯野波平」というキャラクターを
世代を超える普遍的な存在にまで高めた永井さん。
彼はまさに声優業界の父であると同時に、
日本人の理想とする「父」となっていたのではないだろうか。
そして我々は、彼の怒鳴り声を聞くことで
人として、日本人としての「道理」を学んできたのではないだろうか。



永井さんのご冥福を謹んでお祈りいたします。
今日、我々は父親を失った。
我々は、これから誰に叱ってもらえばいいのだろう?




バッカモーン!


いい年して何を言っておる!
今度はお前が若いもんを叱る番だ!しっかりせんか!




はい、そうですね。しっかりします。


合掌。