どうも、はちごろうです


ただいま、絶賛風邪っぴき中。
咳と鼻水が出る、一般的な風邪の症状。
ここ10年ぐらい、風邪をひくと意味なく不安感が増すという
なんだかわかりづらい症状が出ていたので
今の状態はつらいんだけど逆に安心感がある。
まぁ、そんな状態で映画ハシゴしてたので
自業自得なんですけども。
さて、映画の話。




「ペコロスの母に会いに行く」











岡野雄一原作の同名漫画を映画化。
主演は劇作家でもある岩松了と赤木春恵。
監督はベテラン監督の森崎東。



あらすじ


長崎の小さな広告代理店に勤める岡野ゆういちは、
サラリーマンをするかたわら、「ペコロス岡野」という芸名で
音楽活動や漫画家としても活動していた。
彼は離婚後、男手ひとつで育てた息子のまさきと、
父の死後、認知症を発症した母・光江と暮らしていた。
電話に出たことを途中で忘れる、
ゆういちの帰りを何時間も駐車場で待っている、
汚れた下着をタンスの中に大量にため込むなど、
次第に病状が進行していることをケアマネージャーから指摘され、
ゆういちは光江をグループホームに預けることを決意する。




「大船調」の継承者、森崎東



大手映画雑誌シネマ旬報と映画芸術で
「舟を編む」や「そして父になる」「凶悪」などを抑えて
本年度邦画部門ベストワンに選ばれたということで、
どんなもんかと観に行ってきました。
認知症の母と暮らす初老の息子との日常を
笑いも交えて明るく描いた原作。
それを森崎東監督が映画化したわけですが、
この、森崎東監督という人は元々松竹の専属だった人。
で、昔は各映画会社ごとに作風に特色があり、
松竹という会社は小津安二郎から木下恵介、
そして今週末新作が公開される山田洋次に至るまで、
伝統的に市井の人々の日常のなかにドラマを見出す、
いってみればホームドラマを得意としてきたわけです。
(これを専門用語で松竹の所有していた撮影所にちなんで
 「大船調」と呼ぶ人もいるらしいですが)
そういった意味では「大船調」の継承者である森崎監督が本作を監督したことは、
自身が長崎出身だったことも含めて理にかなった選択だったと思います。




「日常系エッセイマンガ」を映画化する難しさ



で、原作は作者である岡野雄一さん自身の日常を題材にした
いわゆる「日常系エッセイマンガ」なんですが、
この「日常系エッセイマンガ」というのは
明確な起承転結があるわけではないので、
原作の中のエピソードや台詞の取捨選択のセンスが
制作者たちには問われるわけです。
というわけで、映画を観終わった後
わざわざ本屋に行って原作漫画を買って読んだんですが、
結論から言うと、あまりうまいこと脚色出来てなかったという印象です。
一応この作品の原作は表題の「ペコロスの母に会いに行く」の他に
「ペコロスの玉手箱」という作品からも引用していて、
なおかつ現在大手書店に出回っているものは
元々自費出版された「母に会いに行く」の中から
岡野さんの両親のエピソードを中心に再編集されたものらしい。
だから原作と映画を比較するとオリジナルのエピソードが
かなり多めに足されている印象を受けるんです。
しかもその「オリジナル」のエピソードがあまり面白くないというか、
逆に原作の持ち味をダメにしてるような感じもしました。




「お笑い要因」として竹中直人を起用する難しさ



具体的にはどういうところがダメだったかというと、
例えば光江さんが入所したグループホームにいた認知症の女性、
彼女は記憶の退行が進んで自分を女学生だと思ってる。
で、ついには面会に来た息子を変質者だと思いこみ、
これまた担任の先生だと思い込んでるゆういちに助けを求めるんですね。
で、この女性の息子を竹中直人が演じてるんですが、
誰がどう見てもわかるようなカツラをつけてるんですよ。
で、終盤になってこの「カツラをかぶってる」という設定が
良い伏線になるという展開があるんですが、
この一連のエピソードがまるでコントみたいなんですね。
ただでさえオーバーアクションぎみの竹中さんに
カツラをかぶせちゃったらもうそれだけでおかしいのに、
さらに禿げ頭のゆういちさんが彼を気にする目線と、
ヅラを悟られまいとする仕草の応酬をやるもんだから
ドラマなのかコントなのか収拾がつかなくなるんですよ。
かと思えば、先述した終盤の展開のときには
冒頭での過剰な演技を封印して若干重めの芝居をしだすし、
作品の中でのリアリティがもうめちゃくちゃなんですよ。
これは完全に演出のミスだったと思いますね。




「影の中の光」を描くために影を描く必要性



こうした物語や演出のまずさが何で出たかというと、
おそらく「認知症患者のいる日常」を明るく描くという、
本作の良さをことさら強調しようとしたために、
「介護は大変である」という基本的な部分の描写が
非常におろそかになってるんですね。
「巷間伝わっているように認知症の家族の介護は大変だけど、
 それでも悪くない部分もあるんだよ」と伝えるためには
やはり介護の「負の部分」をきちんと描くべきだったですね。
そうしないと「でも悪くない」という言葉に説得力が出ない。
平たく言えばメリハリがないんですよ。


改めて、何で本作がこんなに高評価なのかわかんなかったです。
これだったらむしろ「舟を編む」の方が面白かったです。
実は正月にレンタルして観たんですが
私はこっちの方が良い作品だったと思います。



[2014年1月19日 ユーロスペース 1番スクリーン]