どうも、はちごろうです。


昨日、家族全員バラバラで夕食を取ることになって、
初めてタイ料理に挑戦してみたんですが、
トムヤムクンってコストパフォーマンス悪すぎ!
店で一番値段が高くてあの量は釈然としませんでした。
さて、映画の話。




「夢と狂気の王国」











日本を代表するアニメスタジオ、スタジオジブリに迫るドキュメンタリー。
監督は「エンディングノート」の砂田麻美。
東京三鷹市にあるアニメ制作スタジオ、スタジオジブリ。
本作では、先日引退を発表した宮崎駿監督の引退作、
「風立ちぬ」の制作現場に密着。
その過程で宮崎駿、そして鈴木敏夫プロデューサー、
そして制作現場のスタッフの姿を映し出していく。




映画製作者は映画より面白し



昔から、映画のメイキングっていうのは興味をそそるもので、
最近はDVDの特典映像で収録されるのが当たり前になりましたが、
制作過程そのものが一本の作品になったものも多い。
例えば戦争映画の金字塔「地獄の黙示録」のメイキング
「ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録」であるとか、
テリー・ギリアム監督が企画した映画「ドン・キホーテ」が、
度重なるアクシデントの末に制作中止になる過程に迫った
「ロスト・イン・ラマンチャ」とか秀作もたくさんある。
そうした映画本編だけでなくメイキングにも需要があるのは、
もちろん映画の製作過程そのものが魅力的というのもありますが、
制作している監督やスタッフ自体が魅力的である、
もっといえば作品以上に面白いからというのもあります。
だいたいバラエティ番組に出てくる映画監督ってちょっとヘンでしょ?
例えば先週新作が公開された人気脚本家のあの人とか、
数年前に山岳映画を撮った日本を代表する撮影監督のあの人とか。
もちろん常識人の映画監督もたくさんいますが、
やっぱり常識から外れた思想や思考回路を持ってる人が大半。
ということは、日本を代表するアニメーション作家を二人も擁し、
この30年間、傑作良作を生み出し続けるスタジオジブリの面々が
被写体として面白くないわけがないんですよ。




ジブリという「町工場」に見える「日本の今」



さて、本作ではただいま絶賛公開中の宮崎駿監督の引退作
「風立ちぬ」の製作過程に密着しているんですが、
宮崎監督、そして鈴木敏夫プロデューサーの日常を中心に、
スタジオジブリのメインスタッフの日常風景が映し出されるんですね。
それはまさに「2013年の日本人の縮図」でした。
例えば女性スタッフは多数登場するが男性スタッフの存在感が薄いとか、
昨年の暮れごろの場面では、スタッフが仕事している外から
衆院選に立候補した元総理大臣の街頭演説が聞こえてるとか、
スタジオのあちこちに「NO原発」と描かれたイラストがあるとか。
「いまはNHKだけでなく民放もみんな自主規制が厳しくなってる」と
鈴木プロデューサーと宮崎監督が話しているシーンもあれば、
スタジオのロビーで新聞を見ながら雑談している若手スタッフもいる。
日々、世の中が暗くなっていくことをどこかで実感しながら
それでも目の前の仕事をこなすことで精一杯な姿は、
観客である我々の心境と大差ないものだということを実感するわけです。
その一方で、作中には「職人集団」としての仕事場の風景も描かれてて、
午前中の決まった時間にみんなでラジオ体操をする姿や
作中の登場人物の動きを宮崎監督が作画スタッフに実演する様子。
宮崎監督が配達に来るヤクルトレディと雑談してる姿や、
監督がスタッフと雑談してる隣りの部屋では
鈴木プロデューサーがスタッフと打ち合わせをしてる様子など。
宮崎監督は引退発表の席で自身を「町工場の親父」と評したけれど、
特別なことは何もない、働く人々が日々努力し、悩み、そして笑う、
普通の町工場の風景がそこにはありました。




ジブリを共に作った「あの人」の不在



しかし、本作がスタジオジブリの本質に迫ってるかといえば
明らかに勘所を捉えきれていないという実感があります。
確かにいまのスタジオジブリを支えているのは
宮崎駿と鈴木敏夫のふたりの活躍であることは間違いないし、
多くの観客もジブリと言えばこの二人のことだと考えてるし、
この二人の仕事風景が一番観客の観たいものだというのわかる。
だが作中であるスタッフが証言しているように、
宮崎駿を見出し、久石譲を見出し、そして二人を引き合わせ、
そしてジブリ設立の大事な屋台骨となった重要な人物である
「あの人」についてはほぼ描かれていないのである。
おそらくその人物は撮影に協力することを拒否したんだろうけど、
日本のアニメーションの進化に多大な貢献を果たし、
宮崎駿の創作意欲の源となっているこの人物を語らずして
スタジオジブリの本質に迫れるはずがないわけで、
そこについては不満というか、非常に残念でしたね。


ただ、本作で砂田監督が描こうとしていたものは
単にスタジオジブリの作り出す「夢」のレシピではなく、
「いい仕事を生み出すために必要なもの」といった
もっと普遍的な心構えや考え方だったのではないかと思う。
おそらくそれは、初監督作で高評価を受けつつもまだまだ新人である
砂田監督自身が知りたかったことなのではないかと思うけど、
そういった意味では全ての「職業人」に有益な作品になるとは思います。

ちなみに、砂田監督が迫れなかった「あの人」については
来週みっちり書きたいと思います(笑)



[2013年11月17日 新宿バルト9 5番スクリーン]