どうも、はちごろうです。

一昨日の日曜日、出だしから電車を1本乗り過ごしてしまい、
結果、観る予定だった作品を変更する羽目に。
結局昨日はそのままいまいちな一日で、
夕方は雨に濡れてしまうわ、ちょっと風邪をひくわで、
なんだかなぁ・・・って感じです。
さて、映画の話。

「伏 鉄砲娘の捕物帳」

宝井馬琴の古典時代小説「南総里見八犬伝」を
直木賞作家・桜庭一樹がリアレンジした作品を
自身初の劇場用アニメ映画化。
黒船来航直後の江戸時代末期の陸奥の山奥。
山で生まれ、一度も山を下りたことのない猟師の娘・浜路は、
育ての親だった祖父を山犬に食い殺され、以来一人で暮らしていた。
ある日、浜路のもとに侍になるため江戸に行った兄・道節から
江戸に来て一緒に暮らさないかと手紙が届く。
決心して初めて山を下りた浜路は、江戸の町のにぎやかさに戸惑う。
その頃、江戸では「伏」と呼ばれる人と犬の血を引く者たちが
人々を襲い、人魂を食らうと恐れられており、
時の将軍・徳川家定は伏狩り令を出していた。
道節は浜路の猟師としての腕を見込んで
一緒に伏狩りをさせるために江戸に呼び寄せたのだった。
兄の住む長屋を探す浜路は、ひょんなことから
犬の面をかぶった青年・信乃と出会うのだが・・・。








タイトルの出し方だけでやな予感


文芸春秋が創立90周年ということで制作された本作。
「里見八犬伝」をリアレンジした人気作家・桜庭一樹の時代小説を
劇場用長編アニメ用にさらにリアレンジしたということなんですが、
これが近年まれにみる出来の悪い脚本でした。
「突っ込みどころ満載」って言い方があるけれど、
もう突っ込みではなく、批判、非難の点ばかりって感じです。
例えばオープニングの、主人公の浜路が山犬を狩るシーン。
このシーン自体は悪い出来ではなかったんですよ。
彼女の猟師としての腕や、身体能力がわかって
良いアクションシーンだったと思います。
だがこのシーンの途中にタイトルが差し込まれていくんだけど、
このタイトルの入れ方がとにかく邪魔。
「伏 鉄砲娘の捕物帳」というタイトルロゴが
本編の最初と、なぜかオープニングの最後にもう一度入るし、
このオープニングだけで作品の出来にやな予感がしました。
そしてオープニング後、浜路は狩った犬の肉で鍋を作るんだけど、
祖父の位牌に話しかけながら元気に食べていたかと思えば、
突然「一人じゃ食いきれないよ」と泣き出すわけです。
この感情の起伏が唐突すぎるんですね。
だから彼女の抱える寂しさが全然伝わってこないし、
その後、兄からの手紙を受け取った彼女が山を下りる決断に
説得力がないというか、感情移入ができないわけです。
ここは一晩寝て、翌朝になってもまだ囲炉裏には冷えた犬鍋が
たくさん残っているって描写にでもしておけば、
画だけでも十分寂しさが伝わったと思うんですけどね。



ここはいつ? ここはどこ?


さて、兄・道節からの手紙を受け取り浜路は江戸にやってくる。
ところがこの江戸の町がどこの国だかわからないくらい、
時代考証もへったくれもないほどの町になってるんですね。
色彩もカラフルになっていて、それはそれで結構なんだけど、
一応この作品の舞台設定は幕末の江戸になってるんだから、
その設定に則って背景美術を作らないとダメ。
もしこのカラフルな城と城下町を生かしたいのなら、
なにも「幕末の江戸」と限定する必要もないわけですよ。
で、町の景色がそんな感じになっているので、
そこで暮らす人々の服装はさらにめちゃくちゃなんですね。
特に女性キャラの衣装、いやそれ以前にキャラデザインがひどい。
例えば主人公の浜路。彼女は猟師なので健康的な感じ。これはいい。
だけど恰好は長そでシャツにゆるめのホットパンツみたいなデザイン。
なんだか今どきの年頃の女子の私服という感じなんですよ。
体つきも結構それなりに出るところが出てて、
なんだか現代劇に出てくる健康的なグラマー女子なんですよ。
そんな見た目の浜路に兄の道節は一緒に町で伏狩りをする際、
若い侍の恰好、つまり男装をさせるんですよ。
もちろん浜路はそれなりに胸もあるので男物の着物を着ていても
胸のふくらみとかで明らかに女だってわかる、
というかそういう風に作画されているわけです。
にもかかわらず道節と吉原に行った浜路は花魁に男と間違われるし、
なによりこの兄妹、一緒に銭湯に行って男湯に入って、
しかも浜路が女であることが他の客にはわからないことになってるんですよ。
もう完全に「男勝り」と「男の子っぽい」をはき違えてるんですよ。
他には浜路が江戸で知り合う瓦版屋の娘・冥土はスカートをはいてるし、
吉原で一番の太夫・凍鶴にいたってはキャミソール着てるんですよ。
そもそも吉原一の花魁ってわりにはキャバ嬢みたいな髪形だし、
もう、時代設定について守る気があるのかないのか、
そこがとにかくはっきりしなくてイライラしてしまいましたね。



一番伝えたかった話はどれだ?


で、肝心の物語なんですが、これがさらにとっちらかってて。
一応物語の本筋は猟師の娘・浜路と青年・信乃の関係が主になるんですが、
まぁ、いちいち説明しなくても浜路がこの信乃という青年に心を寄せる一方、
実は彼が彼女の追う「伏」だってことはなんとなく想像つくと思うんですけど、
本来ならここで浜路の中に葛藤が生まれるところなんだけど、
実は江戸に出てきた時点で浜路の中に「狩り」に対する疑問があって、
彼女自身に「伏」を狩る理由や決意が根本的に乏しいんですね。
だから一番本筋であるこのエピソードがほとんど盛り上がらない。
浜路が信乃のことを「伏」だと気づくシーンにも驚きはないし、
なにより彼女は猟師として獣のにおいをかぎ分けることが出来るのに
なぜか信乃が変身するまで彼が「伏」だと気づかないんですよ。
で、この本筋がしっかり出来ていないにもかかわらず、
浜路が江戸で冥土という瓦版屋の娘と知り合う話とか、
道節となじみの飯屋の女性・船虫との恋愛とか、
本筋と関係のない話を描こうとして、これも中途半端。
なによりこの物語の根本的な謎である「伏が江戸に現れた理由」、
そしてクライマックスではなぜか信乃が家定の命を狙って
江戸城を駆け上っていくんですが、この理由も説明不足。
なんだかもう、何を一番描きたかったのかわからない。
何かを描こうとして結局何も描けなかった感じでしたね。


主要キャストの声優陣は結構アニメファン向けのキャスティングで、
生きのいい若手や中堅が揃っててそこは安心して観てられました。
それが唯一の救いなのがホントに残念。
でも、こういう方が今の若い子は楽しめるのかなぁ。
キャラクターがかわいいとか、好きな声優が出ているとか、
自分自身が楽しみたい部分で満足できれば、
全体的なまとまりは眼中にないんでしょうね、きっと。