どうも、はちごろうです。

今回は初めての試みで本の紹介をしたいと思う。




ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50/太田出版

¥1,344
Amazon.co.jp





「ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50
著者:福田里香 (太田出版)



レシピ&評論本「まんがキッチン」などの著作もあるお菓子研究家、
福田里香先生による初の本格的フードエッセイ本である。



ここで、ちょっと思い出してほしいシーンがある。
時代劇などで悪徳商人が手下のチンピラを連れて
借金の取り立てのために貧乏人の家にやってくる。
このとき、家の中にいる貧乏人は何をしているか?



おそらく多くの人の頭の中に浮かんだのは、
病に伏せっている父親に一人娘がおかゆを食べさせている、
なんてシーンではないだろうか?
さて、ここで問題にしたいのは

「なぜ悪党が弱い者の家に行くといつも食事時なのか?」

ということである。


映画や漫画、小説や絵本など、あまたある映像作品には
数えられない程の「食べ物のある風景」が登場する。
だが登場する食べ物はそれぞれそこに存在する意味があり、
物語を説明する上できちんとした役割がある。
そうした「数多くの物語でよく似たフード表現が
慣用句にように繰り返されている」現象を本作では「フード理論」と称し、
本作のタイトルでもある「ゴロツキはいつも食卓を襲う」場面に代表されるように、
食べ物に関する画像が記憶の粗い網目に引っかかり、
おぼろげな印象だけが残存する現象を「ステレオタイプフード」と呼び、
その表現に隠された意味を説明していくのがこの本なのである。


本作で著者の福田先生は物語上における食べ物の使い方に関し、
「フード三原則」と称する基本的なパターンがあると説明する。



1.善人は、フードをおいしそうに食べる

物語の中で登場人物がごちそうを美味しそうに食べたとする。
人間の欲求の中でも一番基本的な欲求である「食欲」。
それを充たす「食事」という行為は、
言い換えれば人間にとって一番無防備な瞬間だと言ってもいい。
そんな一番無防備な瞬間を見せるということは、
その登場人物の素の部分を見せたことに等しく、
読者や観客はその登場人物に親近感を持ち、信頼を寄せる。
本作ではまさにこれを「腹の底を見せる」行為と表現している。



2.正体不明者は、フードを食べない

1とは逆に、得体のしれない人物は食べ物を口にしない。
例えば時代劇で悪代官と越後屋が料理屋の二階で悪だくみ、なんてシーン。
二人の密談が終わった後、越後屋が気を利かせて料理を運ばせる。
せっせと酒を注ぐ越後屋とその酒を飲む悪代官の部屋の隅、
もしくは窓のところに、肌身離さず刀を持ちながら
二人のやり取りなど気にしてませんって風情で用心棒が座ってる、
なんてことが少なくありませんが、
このとき、この用心棒は越後屋に酒を勧められても
「いや、結構」と言うか、もしくは無言でその申し出を受け流す。
こうした、大勢の集まる食事の席で食べ物を口にしない人物、
それはまさに「自分の腹の底を見せない人間」であり、
読者や観客はこの人物に警戒感や不信感を感じるのである。



3.悪人は、フードを粗末に扱う

誰かが精魂こめて作った食べ物や料理に対して、
食べないだけならまだしも、それをぞんざいに弄んだとしたら?
例えばレストランで出された豪華なデザートで
煙草の火を揉み消すような行為をする登場人物をどう思うか?
こんな人物はどう見ても善人には見えない。
これほどの非常識、かつ非道徳的な行為でなくても
例えば大量の食べ物を独り占めにしたり、誰かの食べ物を横取りしたり、
食べ物を捨てるなんて行為もまた、読者や観客に不快感を与えるのである。



本作はこうした「フード三原則」にのっとり
物語の中に登場する食べ物のもつ意味や、
その食べ物が物語のなかでどう機能しているのかを解き明かしていく。



・なぜ越後屋は賄賂を菓子折りの中に隠すのか?
・なぜ失恋をした者は好物をやけ食いするのか?
・遅刻しそうな女子学生はなぜ食パンを口にくわえているのか?
・カーチェイス中の車が露店、それも果物屋に突っ込む理由とは?
・パーティーのシーンでシャンペンタワーが登場する理由は?
・ホテルやレストランで追跡劇があると、なぜ厨房に逃げ込むのか?



といった、誰でも一度は目にしたことのあるシーンに隠された、
「ステレオタイプフード」の真相が紹介されているのが本作である。
これを読めば、映画や小説の見方が確実に変わってきますよ。




「ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50

福田里香さんの本で、太田出版から1280円+税で発売中です。


ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50/太田出版

¥1,344
Amazon.co.jp