どうも、はちごろうです。

今日は朝から雪が降っててホントに寒いですね。
こんなに寒いと人なんか全然歩いてなくて、
夕方になってもお客さんが一人も来ませんでした。
でも不思議なもので大雪が降ると逆にお客さん来るんですよね。
こういう、寒い雨の日ってのが一番ダメみたいです。
さて、映画の話。

「哀しき獣」

初監督作「チェイサー」で一躍名を上げたナ・ホンジン監督の新作。
中国、延辺朝鮮族(韓国系中国人)自治州・延吉。
タクシー運転手をしている朝鮮族の男グナム。
妻は韓国に出稼ぎに行ったきり音信不通。
出国の際の費用6万元が重くのしかかり、
一人娘は田舎の母親の元に預けていた。
グナムは借金を返そうと賭け麻雀に手を出すが失敗。
そんな彼にある日、借金取りが儲け話を持ちかけてきた。
グナムは話を聞きに犬商人を生業とする男ミョンの元に出向いた。
そこで彼は借金の棒引きと引き換えにある人物の殺害を持ちかけられる。
悩むグナムだったが、韓国に行けば妻の消息を探せると考え、
依頼を引き受け、黄海から船で韓国に密入国する。
ターゲットは韓国の体育大学教授キム・スンヒョン。
グナムは彼の出入りするビルを偵察。襲撃の段取りを考える一方、
妻がソウルで水産物流業者と付き合っていることを突き止める。
あと一歩で妻にたどり着くと考えたグナムはミョンに連絡。
帰国の延長を願い出るが、逆に依頼を遂行しないと家族を殺すと脅される。
仕方なく帰国予定の前日、ついに殺害計画を実行に移そうとするが、
スンヒョンはグナムの目の前で二人組の男に殺害されてしまう。
しかもそこに警察が駆けつけ、グナムは殺害の実行犯に間違えられてしまう。
なんとかその場から逃走したグナムだったが、
帰国するために指定された待ち合わせ場所には誰もいなかった。
ミョンにも連絡が付かず、彼は初めて自分がはめられたことを知る。
グナムは警察だけでなく、真犯人に殺害を依頼したバス会社社長テウォン、
そして口封じのためテウォンの手下に襲撃されたミョンにまで追われる中、
ことの全容を知るため奔走するのだった。



僕が映画に「求めない」もの


本作も例によってラジオ番組の映画評論コーナーの課題映画なんですが、
はっきり言ってこの作品は、僕が映画に求めない要素だけで出来ています。
まず「韓国映画」。正直僕は韓国映画が苦手です。
確かに韓国映画でも良い作品はいっぱいあります。
例えば「シュリ」であるとか、「八月のクリスマス」であるとか、
「トンマッコルへようこそ」って作品も結構好きです。
ですが日本人と同じ顔つきでありながら、日本語を喋らないという違和感が
まず僕が韓国映画に二の足を踏む理由の一つです。
次に「流血を伴う暴力描写」。これもダメですね。
確かにヒーローものなんかで敵と戦ったときに血が流れないのは、
逆に不自然だし、むしろ不健全だという主張もわかるんですが、
やっぱり斬ったり斬られたり、撃ったり撃たれたりで
血がドバドバ出てくるシーンはやっぱり見ていて不快です。
それと「コメディ以外の作品に登場するダメ人間」。これも嫌です。
自堕落な人間を愛おしさを込めて笑う映画はまだ許せるんですが、
この作品のように、借金返済のために博打に手を出して自滅するような、
そういう登場人物には感情移入出来ないというか、正直嫌いです。
それと「手持ちカメラとカット割りを多用したアクションシーン」。
最近のアクション映画では大流行していますが、
手ぶれの映像で必ず臨場感が出せると思ったら大間違いで、
経験上、何をやってるのか説明出来ていない方が多い。

・・・・・といったように、僕にとってこの作品は、
本来だったら絶対食指を動かさない類の作品です。
「じゃあ、無理して観るな!」っていう意見が一番正しいんですが、
自分の好きなものばかり観てると意見に偏りが生じてくるので
たまにはいいかと思って観に行ってきました。



そもそも「語る」意欲があるのか?


という事情もあり、期待していない分、評価のハードルは低いです。
(いやむしろ嫌々見てたから、逆に評価のハードルは高かったかも)
しかしながら、やっぱりこの作品には見逃せない問題点が、
自分の苦手意識を差し引いてもいくつかありました。
まず、基本的にこの監督、状況を説明する意欲が低いです。
例えば主人公のグナムのアイデンティティである朝鮮族。
いわゆる中国人と北朝鮮人のハーフってことらしいんですが、
彼らは北朝鮮とロシアに接する中国領にある自治州に住んでいるんだけど
こうした人種が入り組んだ民族の置かれた状況、
つまり残念ながら犯罪の温床になっているということを
あまりきちんと説明してくれないわけです。
だからグナムの置かれた悲惨な日常がいまいち伝わってこない。
ここがしっかり理解できないから、彼が一発逆転を狙って博打に走る心境も、
ただ単にだらしない男にしか見えなくなったように感じました。
で、グナムがさらに借金を重ねる賭け麻雀の描写もあっさりしてるし、
彼が借金取りから脅される描写も全体的に軽いんですよ。
だから請負殺人の依頼を受ける彼の切迫した状況も伝わってこないし、
もっといえば、彼が人を殺すことに対する葛藤も感じられないんですね。
といったように、話のきっかけとなるグナムの状況・心情が
ほとんど伝わってこない時点で「こりゃだめだな」って感じでした。

で、この状況を説明する意欲の欠如は後半、
グナムが逃亡を図りながら全容を解明しようとする過程で
さらに物語を難解にさせてしまっているように感じました。
例えばグナムが殺そうとしたスンヒョンがなぜ殺されたのか?
一応、真犯人である二人組を雇ったテウォンには理由があるんですが、
じゃあ、グナムを送りこんだミョンにはどんな動機があったのか?
彼に殺害の理由が無く、仮に誰かに頼まれたとしたら誰に頼まれたのか?
そしてテウォンの部下たちが大勢でグナムを追うから
あっさり警察にマークされるんだけど、
その警察の捜査の描写も中途半端なままなわけです。
そしてグナムが逃亡の果てに、事件の全容を解明しようと決意するのですが、
実際に彼が決意するシーンが出てくるのは映画も終盤で、
もうどう考えても主人公に全容を解明させる意欲が感じられないわけです。
もしかしたらこの全体的に説明が不足しているのはわざとで、
観客にもグナムと一緒に事件を追わせる気なのかとも思ったんですが、
その割には話が終わった後で残される謎が少なくないんですよ。
こうした説明不足は他にもあるけれど一番致命的だったのは、
グナムが逃亡中、妻が事件に巻き込まれた、
もっといえば殺害された可能性が高まるんですが、
妻かもしれない死体は警察の遺体安置所にある。
確認したいが警察は署まで見に来いという。
ところが次のシーン、それまで見たこともない男が署に現れ、
安置所で妻と目される死体を確認するわけです。
そして、確認した後グナムに電話をかけるんですよ。
どうやらグナムが金でもって急きょ雇った他人らしいんですが、
何の説明もないから「こいつ、誰?」ってなもんですよ。
このシーンが出てくる時点ですでにグナムの敵は山ほど出てきて、
誰が誰の部下なのかで頭が混乱してる最中なので、
このシーンでもうこの作品を理解する意欲は完全になくなりました。



結局、コレがやりたかったのか!


しかし、物語を語る意欲に欠けている反面、
アクションシーンの演出には異様に力が入っているんですよ。
最初にグナムが事件に巻き込まれて警察から逃げるシーンから、
ミョンが出国しようとするグナムを港で追い詰めてから
市内に逃げていくカーチェイスのシーン、
そしてミョン達とテウォンが差し向けた手下たちとのバトルなど、
おそらくこの暴力描写がやりたかっただけなんじゃないか?と思うくらい、
血まみれのアクションシーンのオンパレードでした。
(まぁ、そんな気合の入ったアクションシーンも、
 僕の嫌いな手持ちカメラとカット割りを多用した
 血みどろの殺戮シーンのオンパレードで、正直萎えてしまいましたが)
そして大半のアクションシーンの中心にいるミョンを演じたキム・ユンソク。
彼の存在感は圧倒的で、テウォンの手下たちを切り刻む迫力、
というか目の前のものを全て殺して生きてやろうというオーラは
言ってみればコーエン兄弟のアカデミー受賞作、
「ノーカントリー」の殺し屋アントン・シガー級のものでした。
ただ、ミョンの存在感が圧倒的すぎたため
主人公のグナムが完全にかすんでしまったのも、
「ノーカントリー」と共通するところでしたが。

この作品を観終わってから、一応確認のために
ナ・ホンジン監督の前作「チェイサー」を借りてみたんですが、
これもいろいろ疑問符が付く部分もありましたが
この作品に比べたら話もシンプルで逆にえらい面白かったんですよ。
アクションシーンも移動撮影はしているもののやってることはわかるしね。
主演はこの作品でミョンを演じたキム・ユンソクなんですが、
この作品とはガラッと変わって人情味のある元刑事役で
感情移入もしやすくこっちの方がよっぽど面白かったですよ。
だからこの作品を観るより、まず「チェイサー」を借りるのがおススメです。