dry suit
(これは青だけど、前回着たのは赤で、スパイダーマンっぽかった)

朝から晴れた。
ここんとこずっと雨続きで、私は雨女だと、自他ともに認めていた。
だからこうして突然晴れたりされると、ちょっと戸惑ってしまう。

8月の半ばから初めて3ヶ月。
本当は来週の週末が私にとっては今シーズン最後のスクールだけど、来週も予約に空きがあるかどうか、まだ確認していなかった。
だから、今日が最後かもしれなかった。
フロントでスーツとシューズを借りながら、これで来春までさよならかもしれない、とふと思った。
今日はひとつひとつを大切にしよう。
始めた頃は真夏だったから、シャツと短パンでちょうどよかった。
でも今はもう、長袖に足首まであるドライスーツじゃないと、水が冷たくなってしまった。
そういえば、自分のスーツ姿なんて撮ったことなかったなぁ。
シャワー室のミラーに自分を映してカメラを構えていると、それまで私1人きりだった更衣室に、他のスクール生が入ってきた。
鏡越しに合ったその目には、明らかに警戒の色が漂っていたんで、これこれこういうことで、と弁解してみる。
ふぅやれやれ。

今日はよく晴れた。
けども、その代わりかどうか、風がほとんどなかった。
だから、これまでで一番大きなセイルを準備する。
たとえ風がなくても、やっぱり晴れているのは気持ちがいい。
今日はどういうわけか、波打ち際にはアオサという海藻がわさわさと、みそ汁の具一年分ほど漂っていた。
春にこの砂浜で採れるアサリと一緒に、「浜汁」とか命名しようかしら。

いやーしかし、これほどまで風が出ないとは思いませんでした。
もしかしたら最後かもしれないのになぁ。
首、手首、足首、あらゆる首まであるスーツが、サウナのように暑くて仕方ない。
無風のあまり、海上で立ち往生してみたり、漂うアオサで遊んだりしていた。
そのうちに向きが変わった風が出始めて、少しずつ走れるようになってきた。
耳元で風の音がするほどではない、2、3メートルの風が、私は好きだ。
たぶん、ガンガン走りたい人にはかなり物足りなくて、「風ないっす!」と怒り出す人もいるかもしれないけど、
私はゆ~っくりと、魚が跳ねたりカモが列をなしているのを見たりしながら、太陽を見上げて走るのが大好きだ。
私は速さを競いたいんじゃない、と、つくづく思った。
だから、ひょっとすると、ボートとかのほうが目的に合ってるのかもしれない。

なにもかも最後かもなぁ、と思いながら、道具もいつもより心持ち丁寧にしまった気がする。
けど、あとでフロントに確認したら、来週も空きがあるとのことで、拍子抜けする一方、ホッとした。
帰り道、そこからいつものように40分歩いて最寄り駅まで行こうとしていたら、
もう自分も帰るから、と、同じ方面に帰るベテランサーファーの方が送ってくれた。

「Nさん(インストラクターN氏)って、すごく私にわかりやすい教え方してくれるんですよ」
常々思っていたことを、なんとなく口にしてみた。
すると、サーファーさんは(名前を聞きわすれてしまった)、目をぱちくりさせた。
「え、Nさんが??へぇ~、それって、Nさんもうまくなったってことやわ」
Nさんがうまい?それは誰もが知ってることじゃないですか。
「僕が教えてもらってた頃は、Nさんすんごく人見知りする人やったんよ。
だから、うまい教え方できるってことは、Nさんも変わったんやわ」
なんだか、じんわりと心に効いた。
ああ、あんなに上手に、たしかに言葉少なではあるけども、下手っぴの私にもウィンドのことを好きになれるような教え方をしてくれるNさん、昔はもっと言葉少なだったんだ。
やっぱり、Nさんに「うまくなったね」と言われたいなぁ。
ボートのほうが合ってるかも、ってちょっとでも思ったのを撤回、来期もがんばろう。
そう、思った。