asari(この浜にねぇ)

久々2週間ぶりに甲子園浜へ。
遅刻しかけていたので、阪急今津からタクシーを拾う。
「甲子園浜海浜公園まで」
50代前後の運ちゃんは、あぁあそこね、と言わんばかりに両手でセイルを操る格好をした。
「そうそう、まさにそこに行くんです」

運ちゃんはこの辺りでよく釣りをするらしく、甲子園浜の意外な産物を教えてくれた。
あさり。
え、あの砂浜で、あさり??
私が通っているウインドスクールがある場所は、海浜公園と名前がついた埋め立て地。
そこに大量の砂を入れる時に、あさりが混じっていたそうである。
でも、それも随分昔のことだ。
運ちゃんがまだ小さい時から、春になると、粒が大きくて身が締まった良質のあさりが採れていたそうな。
今でも春になると、砂を掘り返せば貝が出てくる。
海水といっしょに持って帰って、暗いところに一晩置いておけば、勝手に砂を吐いてくれる。
まぁ、なんて素敵な(若干セコイ)自給自足。
でも、浜にやってくる鳥の大切な食べ物にもなっているから、取りすぎはいけないんだそう。
毎週浜の水を飲んでる私だ、そこのあさりを食べても死にゃあせん。

よりによって今日も、激しい気象状況だった。
寒いうえに、強風。
これは冬の風ですね、N氏はそう言っていた。
でも、自分でわかっている。
この風にビビってるようじゃ、上手くはならない。
この風に慣れないことには、先には進めない。
以前もこの風向きで流された。
今日はその轍を踏むまいと、走り出す前に風向きをしっかり確認した。
それでも風上から風下に流されるものだ。
だからこそ、はじめの確認ができていなかったら、もうどうしようもないところに行ってしまう。

風があるので、セイルはいつもどおりの大きさのまま。
2週間ブランクがあるにしては、体がついていってる気がしていた。
だから、途中でN氏が「セイルを小さくしましょう」と言ったとき、ガーンと殴られた気がした。
なんで?
「この風にそのセイルでは、落ちたりして時間と体力のロスがもったいないですから」
・・・・ごもっとも。
すごすごと浜にあがり、N氏がサササとセットしてくれた小さめセイルに換える。
なんだか負けを認めるようで悔しいけども、先生が言うんだから本当のことなんだ。
よし、じゃあこれでビューンと走ってやるぞ。
気を取り直して、再度、海へ。
確かに走りやすい。
実は、最初のセイルで耐えられないのは、私がまだフォームを体得できていないから。
つまり、まだまだ風を信じることができていないのだ。
できてるつもりでも、「まだまだ」とダメ出しされる。
まだ、怖がっている。

気付くと、前方にはまた外海が見えてきた。流されかけている。
今日は何がなんでも自力で浜に帰らなければ、と、自分で決めた。
なんとかセイルを上げて、浜のほうへ、浜のほうへ。
砂浜も途切れてしまった岩場の、さらにその外海際に、ようやくたどり着いた。
もうあと数メートル外海側にしか進めていなかったら、もう着く岸はなかった。

今日はさすがに、もう辞めようと思った。
私には向いていないんじゃないか。

「でも上手くなってますよ、走れてたじゃないですか」
あとでN氏は言ってくれた。
今日はお世辞を言う日じゃない。
そして午前のスクール終了後、N氏は、スクール前にある木製の柵をセイルに見立てて、レクチャーしてくれた。
N氏が教えてくれているあいだは、まだできる見込みが一筋くらいはあるのかもしれない。
がんばろう、と思った。
春にはあさりも食べたいし。