ファンタジーな出産
さて、鳥が魂を運ぶ動物であるというエピソードは何度か登場しましたね。
こうやって見てみると、どうも鳥が運ぶのは、「死者の魂」なようです。
ホムチワケの魂は死んだ母と一緒にどこかへ飛び去ってしまったと考えられますし、アメノワカヒコの場合は葬儀に鳥たちが集結しました。
でも、生まれてくる魂は何が運んでくれるのでしょう?
欧米ではコウノトリが運んでくれるんでしたね。
つまり、生まれ出ずる魂も、鳥が運んでくる。
でも、日本ではどうやら違ったようです。
日本と言うか、ポリネシアの海の民と言うべきかもしれませんね。
ご存知の通り、日本の歴史をひも解くと大きな文化の流れがあります。
縄文文化と弥生文化。
縄文はポリネシアの人びとが船に乗ってやってきたのが始まりだと言われています。
そして、ポリネシア全般で、赤ん坊が生まれるときに重要視される動物がいるんです。
なんだと思います?
忌部氏の歴史書「古語拾遺」には、ちょっと面白いエピソードが記載されています。
トヨタマヒメが出産するとき、産室のそばではアメノオシヒトが、一生懸命蟹を掃いていた……と言うのです。
なんのために蟹を掃いたのかという説明はありません。
でも、ポリネシアの島々や、一部の沖縄の島では、妊婦の腹の上に蟹を這わせるという習慣が残っているそうです。
そうすると元気な赤ん坊が生まれるとか。
そう。
つまり蟹が、生まれ出ずる魂を運ぶと考えられるんですね。
昔の人は、魂は海からやってきて、空へ飛んで行くと考えていたのかもしれません。
それにしても、出産の現場で蟹を掃く神様ってのはシュールです(笑)
最近は、出産に立ち会う夫も増えているそうで、出産が女性だけの苦しみではなくなっているようですが。
それでも、まったく赤の他人が、病室の外で、必死になって蟹を掃いているってな状況はちょっと変(笑)
でもそういうのが、日本神話のおもしろさだとも思うのです。
(文中、敬称は省略しています)