法科大学院,定員割れ約9割の衝撃 | 大阪の弁護士 重次直樹のブログ

法科大学院,定員割れ約9割の衝撃

定員割れの法科大学院が86.3%となった。

(募集73校中,63校が定員割れ)

募集停止も加えると,86.5%になる。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/012/siryo/__icsFiles/afieldfile/2012/06/15/1322208_5.pdf


定員に達したのが10校,

入学者1桁が20校である。

・・・すさまじい。


受験者自体が定員に満たない法科大学院も15校ほどあった。

 (受験者→合格者→入学者と,どんどん減る)


減少は激しいが,弁護士の就職難や廃業が増えるにつれ,

今後も減少が加速する可能性が高い。


司法試験の受験要件に法科大学院修了を続け,

合格者2000人を維持すれば,

質の低下と人気凋落が継続して,大混乱が生じると思う。


3,4年前くらいから軒弁や即独の話を聞くようになったが,

実際はそれほど見かけなかった。

今では周囲に沢山いる。


日本では,弁護士以外の法律資格が沢山あり,

メディアが言うほど,法律資格者は少なくない。


アメリカには,税理士・司法書士・行政書士などがなく,

それらも含めて弁護士に計上されている。

トム・クルーズのザ・ファームでは,税理士の仕事がメインだった。


また,司法扶助予算(・・・医療で言えば,健康保険7割といった,自己負担を補う国の予算)は,先進諸外国に比べ,日本は圧倒的に少ない。


均質性の高い国民性からも,相互の常識が通じやすく,訴訟で争うより,話合いなどで円満に解決すること,契約書で細部まで取り決めるより,相互の話合いや信用で取引することが志向されやすい。


司法の機能不全を指摘する向きもあろうが,相互の信用を重んじ,円満解決が志向され,費用報酬を払って弁護士を雇ってまで,細かい契約書を作成したり,争いを継続することは,必ずしも志向されない。


それ自体は,決して悪いことではないだろう。


このような土壌からか,日本経済新聞社が2005年に出版した富裕層研究の書籍には,概要,次の記載がある。


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日本では,イメージと異なり,富裕層(3000万円以上の高額納税者)に弁護士は殆どいない。


1)経営者 33.3%

2)医師 15.4%

3)経営幹部 11.6%

★弁護士 0.4% 

・芸能人1.3%

・スポーツ選手0.9%

・その他38.7%


(2001年度全国高額納税者名簿より)


⇔アメリカでは,弁護士は経営者に次いで高額所得者が多く,医師より多い


【はしがき】

・日本で”お金持ち”とは誰だろうか?・・・やはり医者や弁護士?

・代表的な職業(医者,弁護士,経営者)には,特別な関心を持って分析した。


【分析の結果】

日本の富裕層の代表は経営者と医師,弁護士は労働の対価が高くない

<弁護士>

・現実には労働に見合った対価を得ているとは必ずしもいえない

・法曹界以外の優秀な人材を法曹界にひきつけるほどの強い需要が社会にはないことも暗示


<医師>

・日本では医師という職業は,経済的にかなり恵まれている

・高額納税者調査でも・・・医師は経営者に次いで多かった


(詳しくは「日本のお金持ち研究」日本経済新聞社2005.3橘木・森ご参照)
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出版元の日本経済新聞社は,弁護士増員を主張してきたが,上記の調査結果を把握していたはずだ。


増員や競争のメリットもあるし,必要だとも思う。

需要に対応するための規制緩和も必要だろう。


他方,司法試験の受験資格に法科大学院修了を加えたことは,

自由な試験参加を不可能にした。多様な人材確保の理念を阻害している。

弊害は大きい。


また,前記の日本社会の土壌から,法務ニーズは少なくとも国内には多くない。★文化の異なる海外との関係などで法務ニーズが高まるとは言っても,合格者500人から2000人への増加も,余りに急激である。


★(追記)法文化の異なる海外との関係でのニーズについては、私も否定しない。しかし、海外との関係の仕事の割合は大きくない。そのためだけに、弁護士全体の大増員で対応しても、就職難・人気凋落・定員割れなど、弊害の方が大きそうだ。別資格による対応などは検討できないものか、と思う。


これまで増員を吸収したのが過払い金返還請求訴訟だった。

平成21年の東京地方裁判所における民事訴訟の新規件数約39000件のうち,過半の約22000件が過払い請求訴訟だったと伝えられている。


この過払い訴訟も,平成23年2月の武富士債権届期限を最後に,急速に減少しており,今後,弁護士の就職難に加えて,事務所縮小,リストラ,廃業などが加速するだろう。


このままいくと,法科大学院の希望者が更に減少し,質の低下にも拍車がかかる。下位の法科大学院は募集停止が増え,廃校も進むだろう。


・・・結局,利益を得たのは,司法試験の受験資格を独占する権益を得た上位の法科大学院関係者のみ,といったことになりかねない。


 → 黒猫の分析 法科大学院関係者(1)


法科大学院制度を導入し,弁護士を大増員して競争させれば,質が向上するかのような,大新聞の以前からの論調は,明らかに現実と異なる。

志望者の激減,質の低下を招いた。


法曹界の国際競争力を高めたいのであれば,


司法試験の受験要件から法科大学院を外し,

万人が平等に受験できる制度を復活させるべきだと思う。


また、海外関係の案件の比率は高くない。そのためだけの大増員に合理性は感じられない。


少なくとも、学生が集まらない法科大学院に対する補助金は削減し,

現実に司法を必要とする人のための法律扶助予算など,

必要かつ有用な予算に振り替えるべきではないだろうか。


公正・円滑で質の高い法務サービスのために,法曹教育があり,

法曹教育のために,法科大学院が存在するのであって,

法科大学院のために,司法試験制度や法曹教育が歪められ,

法務サービスの現場が混乱に陥ることがあってはならない。


唯一ないし少数の合格者に、補助金などを使って授業料を全額免除し、人集めの宣伝にするような法科大学院は、(その合格者にとっては良い学校だろうが、)社会全体にとっては、かなり問題だと思う。