デリバティブ倒産 金融ADRと銀行批判 | 大阪の弁護士 重次直樹のブログ

デリバティブ倒産 金融ADRと銀行批判

為替デリバティブ商品の問題点


大手銀行に12年以上勤め、為替デリバティブの実務経験があり商品内容が理解できる者として、近時問題となっている為替デリバティブ商品は、本当にひどい商品だと思う。


・5年、7年、10年といった長期為替オプションの一括契約(リスクヘッジの大原則であるリスク分散を無視した、一時点における巨大ポジション取得)

・巨大なリスクを取る「オプションの売り」ポジションを体力のない中小企業に長期間、大きく持たせる

・コールの買いに対して、プットの売りが数倍のレシオ取引(リスクヘッジなら円安をヘッジするコールの買いを数倍にすべき)

・オプション売りに、更にギャップレートによる拡大リスクを負わせるケース

・解約コストに、銀行の将来利益(デリバティブ契約の終了までに得られる予定だった利益)まで含める厚かましさ

・長期先物予約などシンプルな商品があるのに、分かりにくく複雑な商品を設計して、見えない形で高収益(暴利と言ってよい)を得ようとする顧客軽視と収益至上主義

・日米の国際収支から論理的に円高になりやすい背景があり、現実にも長期的に見て円高トレンドが続いているのに、円高に振れると倒産するほどのリスク商品を、メガバンクが組織的に、知識に乏しい中小企業に売っていること


→ 関係記事

  為替デリバティブ被害のトリック =銀行が輸入中小企業に長期オプション取引を勧めた理由

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早期の支払い停止措置


中小企業側は、契約をしたのだから、判子をついたのだから、と泣き寝入りせず、履行(支払い)の停止や金融ADRの活用などで、デリバティブ倒産を回避し、少しでも有利な条件を追求すべきと思う。


1 履行(支払い)の停止 ( → 当面の出血を停止 ) 

2 金融ADR ( → あっせんや調停による解決条件の確定 )


という対策が、現状では、最も現実的な解決方法だろう。


なるべく早期に、知識ある専門家に相談し、出血の拡大を止めるための履行の停止等の措置を取ることが重要だと思う。ADRでも、未決済分と比較して、既に支払い済の損害金を取り戻すことは困難である傾向が強い。


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訴訟での解決について


訴訟も辞さない姿勢は必要だろう。裁判所の理解も以前より進んできた。残念ながら、現状では、裁判所が為替デリバティブ商品の仕組や内容について、必ずしも充分に理解しているとは考えにくい。訴訟の結果はどの裁判官・裁判体に当たるかにより、大きく異なる危険性がある。大阪では裁判官向けの勉強会を開くなどして対応や理解が進んでいるようだし、この傾向は今後も進むと思われるが、現状では訴訟の結果は読みにくい。


契約書に調印している以上、内容を理解して合意したと推定され、これを覆すところから始める必要があり、中小企業側の立証負担は重く、デリバティブの仕組を知っている裁判官が少ないため、説明や主張に時間がかかり、長期化しやすい。


弁護士も勉強会を開き情報交換を行うなどして、水準が急速に上っているものの、この分野を扱っている弁護士のホームページを見ても、不正確な記載が少なくない。中小企業サイドの弁護士には銀行サイドと異なり、充分な情報や知識が入りにくく、一層の勉強や情報交換が必要だと思う。


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金融ADR 有効性と限界


ところで、デリバティブ倒産は高水準であるが、金融ADRが倒産回避に一定の役割を果たしている。


帝国データバンクによると、昨年11月の円高関連倒産は14件、うち9件がデリバティブ倒産とされ、急増を指摘している。


東商リサーチは11月の円高関連倒産を平成23年では最多の10件とするが、23年1~11月の累計では、22年1~11月対比18.4%減の53件とする。


そして、東商リサーチは、平成23年に入って「通貨デリバティブ損失」倒産が増えない背景の一つには、金融ADR制度(金融分野における裁判外紛争解決制度)の利用による企業の救済申請の急増が大きいと評価している。


http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/2011/1215239_1903.html


 ※東商リサーチは12月の倒産速報を1月13日に発表する予定です


全銀協のADRは、ほとんどの場合、1回勝負であり、書類の作成や期日の準備は入念に行う必要がある。特にリスクヘッジとして機能する商品だったかについては力点を置くべきだ。金融ADRの場合、平均すると解約違約金の半分程度は減額されているようだ。


もっとも、違約金の計算はブラックボックスになっていたり、銀行の将来収益まで違約金に含まれていたりする等、まだまだ問題は尽きない。


銀行や銀行業界は、このような状況を招いたことについて、社会的責任を果たすべきだと思う。銀行がデリバティブ商品で多額の利益を上げ、多数の中小企業が倒産に追い込まれている。円高倒産の多数は、円高で利益を得る筈の輸入企業のデリバティブ倒産であるという状況は、社会的に到底、容認できない。


為替デリバティブを契約している中小企業は、銀行の与信審査に合格できる優良な企業であり、日本経済を支える優良な中小企業が、このような銀行のデリバティブ商品で続々と倒産している実態を許容できる日本人などいないはずだ。


裁判所は、銀行の中小企業に対する法的責任について、商品の性質・内容や取引関係に応じた厳格な認定を行うべきだと思う。


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関連サイト・記事


【金融庁の調査結果】

・中小企業向け為替デリバティブ取引状況(米ドル/円)に関する調査の結果について(速報値):金融庁

  http://www.fsa.go.jp/news/22/ginkou/20110311-2.html


【記事】

・中小企業を襲う「デリバティブ倒産」(日経ビジネスオンライン)

  http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20110324/219135/

・中小企業2万社4万件が購入した「日本経済の地雷原」為替デリバティブ倒産が続出 急がれる政府と銀行の救済措置 (現代ビジネス)

  http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2179

・円高による黒字倒産の原因、『通貨デリバティブ問題』と言う名の悪夢

  http://nihon-jyoho-bunseki.seesaa.net/article/215145444.html
・円高で評価損、中小企業に打撃 為替デリバティブ、倒産が急増 (サンケイビズ)

  http://www.sankeibiz.jp/business/news/111010/bsl1110100501001-n1.htm

・本業黒字、デリバティブで倒産 こんな中小企業が相次いでいる : J-CASTニュース

  http://www.j-cast.com/2011/01/11085053.html?p=all


【データ】

・東京商工リサーチ

  http://www.tsr-net.co.jp/news/index.html

 (23年11月)http://www.tsr-net.co.jp/news/status/monthly/1215230_1592.html


・帝国データバンク

  http://www.tdb.co.jp/report/tosan/index.html

 (23年11月)http://www.tdb.co.jp/report/tosan/syukei/1111.html