520日の朝日新聞朝刊に、福島第一原発の政府事故調査委員会の調査報告書を入手したという記事が1面に出ていました。「所長命令に違反 原発撤退」「政府事故調の『吉田調書』入手」「福島第一の所員9割」という見出しが付いていました。 

 

記事の中身を読んでいくと、東日本大震災4日後の315日朝に多くの所員が吉田氏の命令に違反していたなど、次のようなことが書かれていました。

 

・吉田氏の待機命令に違反して、第一原発の所員が福島第二原発へ撤退していた。

 

・福島第二原発へ撤退していたのは所員の9割にあたる約650人だった。

 

・所員の撤退後、放射線量は急上昇して、事故対応が不十分になった可能性がある。

 

・吉田氏は、高線量の場所から一時退避し、すぐに戻れる第一原発構内での待機を命令した。

 

・第二原発から第一原発に戻るには時間がかかり、9割の所員がすぐに戻れない場所にいた。

 

・過酷事故発生時の東電の内規に違反する可能性がある。

 

・「本当は私、第二行けと行ってないんですよ」「第一の所内で線量が低いようなところで退避して次の指示を待てと言ったつもりなんです」(吉田氏の発言)

 

・吉田氏は公開を覚悟して証言をした。

 

これを読んでいた朝日新聞の読者は「日本人も韓国人と同じじゃないか」と言っているのを私は聞きました。韓国人と同じというのは、旅客船沈没事故で船長を始め船員の多くが乗客を救助することなく自分達だけ先に逃げだしたことと、東電の原発作業員が命令に反して放射線量の少ない原発に退避したことを指しています。

 

上記のような記事の内容を読めば、福島第一原発の所員のほとんどが命令に違反して、より安全な第二原発に逃げたと理解してしまいます。しかし、朝日新聞のことなので何か裏があるのではないかと、私は思っていました。

 

 

その後、ある方から門田隆将氏のブログを教えていただき、その内容を読んでみると、この記事がとんでもないものであることを知りました。


門田氏は、吉田氏をはじめ、当時の菅直人首相や原子力災害現地対策本部長であった池田元久経産副大臣、斑目春樹原子力安全委員会委員長、吉田氏の部下であった現場のプラントエンジニアなど100名近い人にインタビューし、「死の淵を見た男吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」を書いています。門田氏は、福島第一原発の事故に関係した多くの人の話を聞いており、当時の様子は吉田氏を含む多くの関係者から話を聞いて、現場がどのような様子だったのかを把握している人物です。

 

以下のようなことが、門田氏のブログに記述されていました。

 

・第一原発の免震重要棟にいた所員や協力企業の人達は約700名いた。
 

700名の中には総務・人事・広報など事故対応する現場以外の人が多く含まれていた。

 

・現場以外の人には女性も少なくなかった。

 

・免震重要棟にいたのは第一原発で最も安全だったからである。

 

・外の大気は放射能に汚染されており、外に出るのは危険だった。


・吉田氏は現場以外の人をいかに脱出させるかを悩んでいた。

 

・大きな衝撃音と共に2号機の圧力抑制室の圧力がゼロになり、吉田氏は「各班は最少人数を残して退避」と言った。

 

・免震重要棟は2号機の近くで危ないから、そこから離れて線量が落ち着いているところに一度退避するように吉田氏は指示した。

 

・第一原発には安全な場所がなくなっていた。

 

・吉田氏は第二原発に行くなとは指示していない。

 

・吉田氏は第二原発に行けとは指示しなかったが、第二原発に行ったことはより安全なので良かったと述べている。

 

・吉田氏は「部下たちは凄まじい闘いをして立派だった」と述べている。

 

・吉田氏は政府事故調に対して率直に証言したが、時間の経過に伴う記憶の薄れや、大混乱の中でのことなので記憶の混同などもあり、事実誤認もあるかもしれないと述べている。

 

・吉田氏は話の内容があたかも事実として一人歩きしてしまうことを懸念して第三者への公表を拒絶していた。

 

詳しくは門田氏のブログで読むことができますので、詳細をしりたい方はこちら を読んでください。

 

結論としては、福島第二原発の所員は吉田氏の命令に違反はしておらず、調査報告書の公表については拒んでいたというのが事実です。朝日新聞の記事の内容とは正反対です。恐らく吉田氏が存命であれば、朝日新聞はあのような記事は書けなかったでしょう。

 

あの記事は、死を覚悟して壮絶な闘いに挑んで最悪の事態を防いだ多くの福島第二原発の所員を侮辱し不当に貶めるものです。事実とは正反対の悪辣な捏造記事と言えるでしょう。

 

今回の件で再確認したのは、朝日新聞にはジャーナリズムが皆無であり、最低の人間が記事を書いているということです。また、普段から朝日新聞を読んでいる人は、簡単に騙されてしまうということもよく分かりました。