TPPをめぐる日米交渉で、豚肉の関税を維持することを合意したようですが税負担割合では激しく対立しているようです。この豚肉の関税は差額関税と言われているものです。実は、この制度は結構とんでもないものになっています。

 

豚肉の差額関税の制度では、基準輸入価格というものが設定されており、現行では1キロ当たり40990銭になっています。基準輸入価格より安い輸入豚肉は、基準輸入価格との差額を関税として徴収します。従って、1キロ300円の輸入豚肉は10990銭の関税、1キロ200円だと20990銭となり、安い肉の方が関税は高くなります。基準輸入価格より高い豚肉には、一律で4.3%の関税がかけられます。 

 

輸入業者にしてみれば、基準輸入価格より安い肉を輸入すると、必ず40990銭を支払うことになります。そうすると、安い肉を出来るだけ基準輸入価格に近づければ差額関税が少なくなります。そのため、ペーパーカンパニーを迂回させて、安い肉を輸入するときに基準輸入価格に近づければ、差額分の利益を得ることが出来てしまいます。


外国産豚肉で需要が高いのは、モモや肩肉などの低価格部位です。これらの肉の多くは、ハムやソーセージに加工されます。加工メーカーは、安い豚肉を輸入しようとしても最低でも基準輸入価格の値段になってしまいます。

 

そこで、安い部位にヒレなどの高い部位を混ぜて輸入して、輸入価格を基準輸入価格に近づけます。同じ1キロ40990銭で、安い部位の肉に加えて高い部位の肉を輸入することができます。それにより、ハムやソーセージに高い部位の肉が使われれば、品質が上がり消費者にとってはありがたいのですが、そうはなりません。 

 

加工メーカーは高い部位の肉を売れば、より利益が出ることになります。加工メーカーが必要なのは安い部位の肉ですので、高い部位の肉はある程度安く売っても売れ残るよりは利益が出ます。その結果、高い部位の肉は市場の相場よりも安く売られることが多くなります。

 

一方、国産豚肉で需要が高いのは、トンカツやヒレカツ用のヒレとロースの高級な部位です。ところが、加工メーカーが安い部位と抱き合わせで輸入した高い部位の肉が安売りされるので、国内の養豚業者の市場を奪うことになっています。

 

また、ハムやソーセージなどの豚肉加工品には10%の関税しか掛かりません。上記のように、1キロ200円の豚肉を輸入すると、20990銭の関税が掛かり、100%を越える関税が掛かっていることになります。国内の加工メーカーは、材料の豚肉に非常に高い関税がかかってしまい、外国メーカーに比べて価格面でかなり不利な状況になってしまいます。 


 

消費者は本来より高い豚肉や、豚肉を使ったハムやソーセージなどの製品を買わされることになっています。保護しているはずの国内養豚業者を苦しめることになっていますし、加工メーカーも高い材料を買わされて外国メーカーよりも不利な条件になっています。この差額関税制度の恩恵にあずかっているのは、輸入業者や外国の養豚業者や加工メーカーです。そのために、アメリカはこの差額関税制度の維持を容認していることが予想されます。日本の国益を考えれば、こんな変な制度は早く止めて、輸入価格を標準として関税を課す従価税にするべきです。


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