ありがとう | opium~bassist熊谷元秀のブログ~

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芸術のげの字もない家で育った俺が今
この道にいるのは叔母の影響が大きい。
生涯独身だった叔母は幼い頃よく可愛がってくれた。
コンサート、映画、美術館。
色んなところに連れて行ってもらった。
全部今に繋がっている。
俺の礎を作ってくれた。

何処かへ出掛けると必ず美味しいものを食べさせてくれた。
しかしメニューの選択権は無く彼女のセレクトのみ。
美味しいのだがひとつひとつ薀蓄が多いので静かに食いたい
といつも思っていた。

作るのも好きだったようだ。
色々試しては食べさせられたが凄いのもあったな。
文句を言うとお前の味覚がまだ出来ていないとばかりに
逆襲を食らう。
俺は彼女の作るプリンが好きだった。


10年程前難病である膠原病になりその後癌に侵された。
それからの彼女は病との闘いだった。
人に苦しみを告げず、ずっと一人で闘った。
気付いた時は医者の手に負えないものになっていた。
病床での姿はあの豪快な人とは思えないほど小さかった。
全身に癌が転移していたが意識ははっきりしており弱々しいが
会話は出来た。
「がんばるよ。」「明日には良くなっているから。」


医者がとうとう匙を投げた。
延命措置を取るか否かの選択を迫られた。
それをしたとて治る見込みは無い。
もう充分苦しんだ。

その判断をした後、それが本当に良かったのかどうか分らなくなった。
涙が次から次へと溢れてきて止まらなかった。


「またプリン作ってね。」
「最近腕が落ちたから、帰ったら腕を上げるよ。」

(もう帰れないんだよ。)


昨日昼過ぎだった。
もう涙は出ないと思っていたが。

ありがとう。安らかに。