イラン問題 | 大野もとひろオフィシャルブログ Powered by Ameba

イラン問題

19日、モスクワで開催されていたイラン問題をめぐるP5+1(米、英、仏、露、中、独、イラン)協議が物別れに終わった。当面は、協議再開の予定はなく、7月3日にイスタンブールにおいて技術会合が開催されることだけが決まっている。

イランの核疑惑をめぐっては、外交的な解決が行われない場合、イスラエルが武力行使を行うのではないかとの見方が強まっており、イスラエル側の要人もただちにとは言わないが、武力行使の可能性を肯定するかのような発言を繰り返している。かりに対イラン武力行使となれば、石油やそれに連動するLNG、LPGといった価格が高騰し、特に3.11後に深刻になっている我が国のエネルギー事情にきわめて深刻な影響が及ぶことになる。昨年の貿易収支悪化の約半分が高騰する化石エネルギー代金であることからみても、このことは明白である。ガソリン価格はここ数ヶ月低下傾向を見せているが、先のOPEC総会においても生産量維持が決定されたとおり、産油国はバーレルあたり90ドル程度をベースとみているのだから、今後のエネルギーを取り巻く環境には注目が必要である。また、対イラン武力行使が行われる場合、「アラブの春」以降、真情の吐露を厭わなくなった中東諸国における民衆の動きに伴う政情の不安定やイランのホルムズ海峡に対する軍事的影響力行使の可能性、それに連動するヒズボッラーの動き等も懸念される。一朝ことあれば、我が国のエネルギー事情にとどまらず、米国が争いに引きずり込まれるリスク、アジア向けの石油供給が不安定化し、世界経済を牽引するアジア経済の影響から経済不安が拡大する懸念等も存在する。

我が国にこれだけの影響が懸念されるにもかかわらず、日本はイラン問題協議に参加できず、限定的な影響力しか行使できない立場にある。米国やEUの対イラン制裁に振り回され、我が国が取り得る外交的手段は、他国の決定した制裁に従うか否かでしかない。イラン協議については、過去10年近く、我が国政府として協議への可能性を探ってきたが、それは実を結んでいないのが実情である。このような中、すでにご報告させていただいたとおり(http://ameblo.jp/oonomotohiro/entry-11218909496.html)、4月初頭には鳩山元総理と共にイランを訪問し、イラン政府に働きかけを行ってきた。イラン政府の有り様をみれば、直接高いレベルに対して国際社会の声を伝えることが必要と考え、イラン協議を継続できるような譲歩とIAEAとの協力を求めてきたのである。

外交においては可能な限り多くのチャンネルを持ち、巧妙に立ち回ることが必要だが、元首相として訪問をした結果、アフマディネジャド大統領にも直接働きかけることができた。5月にフランスのロカール元首相がイランを訪問しても、アフマディネジャド大統領には会えなかったことをみれば、この機会は貴重であった。我々の働きかけが効を奏したからかは不明だが、この訪問の直後にイスタンブールで行われたイラン協議においては、イランはこれまでの立場を大きく変え、協力の可能性を示した。昨年1月の協議においては、制裁の解除がなければ協議もないとの立場を示し、交渉は決裂していたが、この立場を覆し、信頼醸成と核問題および関連施設に関する協議に入ったのである。その後、5月のバグダードにおける協議を経て今回のモスクワでの協議において、イランは再びその立場を硬化させてしまったのだ。

イランの政府の高い立場の人物に対し、協議において字句を弄する余地はなく、事態が深刻であることを伝えることは重要である。特にイスラエルに唯一レバレッジを有する米国の大統領選挙が行われる11月までが一つの山であるとすれば、この時期の交渉決裂はもちろん、好ましくない。イランの石油輸出は急減し、サウジの生産量は81年以来初めて1000万バーレルを超え、各国の対イラン制裁や最悪の事態に対する備えは数ヶ月前よりも整い始めている。しかしながら、それにとどまらない影響の大きさを考えれば、イランの自制と外交の場における問題解決努力の継続は必須である。現時点では、直接イランを訪問することを考えているわけではないが、我が国の国益を正面から考え、この問題については引き続き努力をしていきたい。