その494 | 大鐘 稔彦のブログ

その494

☆二月に入った。一月の最後の日曜は医師会の休日診療所の当番にあたっていて、あたふたと朝食をとって出かけたが、これまでとは様子が違う。駐車場はすでにたくさんの車で埋まっている。はたせるかな、待合室はすでに10人前後の大人や子供でごった返している。普段は看護婦さんがまずお茶を入れてくれるが、そんなゆとりはまるでなさそうでバタバタしている。嫌な予感を覚えながら診察室に向かう。カルテが並んでいる。先週の日曜日も日勤帯(9時から4時半)で53人の患者さんが来て、そのうち半分以上がインフルエンザだった由。私が責を担う阿那賀の診療所ではまだ二人出ただけだからにわかには信じられない思いで椅子に座る。日曜はNHK Eテレ10時半からの将棋トーナメントを楽しみにしている。ポツリポツリと患者さんが来て中断されることもあるが、11時を過ぎればまずゆっくり見れたものだが、この日に限っては、一切途切れることなく、気が付いたら12時を過ぎていて、将棋のことはすっかり失念していたことに思い至った。

 なぜかいつも頼んでいる弁当屋に電話をかけても出ないというので、外の空気を吸いたくなったこともあり、日頃行き付けの「SOLA」さんにあらかじめ注文しておいて車を走らせた。15分で食べ終わり、1時ぎりぎり診療所に戻ると、なんとまたしても10人前後の患者が待ち構えている。4時半を過ぎてもまだ終わらない。「いやー新記録です。59人来ました。うちインフルエンザは30人です」と、事務の原さんが言う。阿那賀診療所の二日分働いた感じだ。

医師会の診療所のこのジューティーは75歳で免除されるようだ。あと一年少々。待ち遠しい。

☆愛犬のジェニファーがいなくなった。休日診療所に出かける前前日、夕方、散歩に連れ出そうとリードをかけようとした一瞬のスキをついて駆け出してしまった。走って追いかけるがものすごい運動量の彼女には追いつけない。どんどん先をいって、ついにここ晴美が丘をぬけ、車道に出てしまった。ジェニファーは車を見ると猛然と向かっていく癖がある。折しも車が二台走ってきた。案の定ジェニファーが走り寄ってまとわりつく。優しいドライバーと見え、二台とも急ブレーキをかけてゆっくりゆっくりジェニファーを避けて迂回してくれていっている。とらえるチャンスだと思った瞬間、車が走り出し、ジェニファーも後を追いかけるように走り出した。たちまち50メートル、100メートルと隔たり、ついには姿が見えなくなった。私はもう息が切れてへとへとになっている。あきらめて引き返した。常の散歩道ではないが、何とか思い出して帰ってきてくれることを祈りながら。だが、一抹の不安はぬぐえない。車が結構行き交う道だ。向こう見ずに突進していって轢かれるのではないか、と。首環には私の連絡先を記したカードを括り付けてある。お宅のワンちゃんが車にひかれて死んでいますよ、とどこからか電話がかかってくるのではないか?

 だが、何事もなく一夜が過ぎた。しかし、ジェニファーは帰ってこない。前夜、懐中電灯を手に二度ほど探しに出たが、深夜大声でジェニファー、ジェニファーと呼ぶわけにもいかず、すごすごと引き上げた。

☆翌朝、7時過ぎ、目覚めたところで、何かごそごそと草むらをかき分けるような音が寝室の外でする。すわジェニファーかと起きだしたところへ、ピンポーンとチャイムが鳴った。(この稿続く)