破れたスーツ | 左桜(ささくら) の 小粋な トス

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~ 二十面相が残した 玉虫色の置き手紙 ~

外は大雨。

ホテルの講演会場にて任務を遂行中、忙しさも佳境に入っていた私はフロアのケアの為に一瞬、身をかがめた。 その瞬間…


ビリッ!  寒気がする音…、まさか…まさか…


スーツが破れた!


スーツ

…右足の太ももの脇の辺り。 夢ではなかった。

外の大雨により完全に湿っていたスーツは、皮膚にピッタリくっ付いていた。 更に、私の強烈なスクワットが化学反応を起こし、大きな穿孔を炸裂させたのだ。 湿気から開放された太腿は涼しそうに笑っている …良かったなあ。 …良くねえ!


私の額からは嫌な汗。 今すぐスーツのパンツを履き替えたいが、重要な任務中に抜け出すことは出来ない。 どうする、コマンド? どうする、俺? 私は落ち着く為に深呼吸をした。

覚醒せよ、右脳。 動き出せ、無限の英知。 いつだって道を作るのは、逆境を跳ね返す想像力と創造力。 アイディアを抱えて走れメロス!


しばらくすると、メロスは満身創痍になりながら、アイディアを必死に運んでくれた。


……30m先に、ホッチキス!!


私は無我夢中でホッチキスを手に取り、素早くトイレに駆け込むと、 スーツの大怪我の部分をホッチキスで緊急オペ


講演会は無事終わった。

私も絶体絶命の緊急事態を誰に見つかることもなく、事無きを得た。


雨の中を、風の中を、台風の中を、…ありがとうメロス。