チャップリンの出生をめぐる本日の虚偽報道について | 人間の大野裕之

人間の大野裕之

映画『ミュジコフィリア』『葬式の名人』『太秦ライムライト』脚本・プロデューサー
『チャップリンとヒトラー メディアとイメージの世界大戦』岩波書店 サントリー学芸賞受賞
日本チャップリン協会会長/劇団とっても便利

本日、ロイター発信で以下のような報道が出ました。

「チャプリンの本名や出生は「謎」、英機関が1952年に調査」
http://jp.reuters.com/article/entertainmentNews/idJPTYE81K41I20120217
この記事は、結論としては虚偽報道です。

この記事の意味は、冷戦中の1952年に、チャップリンを共産主義者やユダヤ人に仕立てるためにMI5やFBIが作り上げたデマがファイルされていた、というだけです。
それを事実であるかのように今頃報道しているのは、悪意を感じます。

チャップリンはロンドン生まれで、父親チャールズ・チャップリン・シニア(1863-1901)、祖父はスペンサー・チャップリン(1834-97)、ひいおじいさんはシャドラック・チャップリン2世(1814-92)、そのまた父はシャドラック・チャップリン1世・・・5代さかのぼってもユダヤ人ではありません
。また、フランス系というのも嘘です。ただし、チャップリン本人は4分の1ロマ人(いわゆるジプシー)の血が入っていて、そのことをチャップリン自身はとても誇りにしていました。娘のジョゼフィンさんも「私たちは少しジプシー・ブラッドだから、自由なのよ」と言ってくれたことがあります。

チャップリンの本名はチャールズ・スペンサー・チャップリンJr.1889年4月16日生まれ。
出生地はロンドンです。その証拠に、1889年5月11日の業界紙MAGNETに、「舞台俳優チャップリン父と妻リリー・ハーレー(芸名=本名ハンナ・ヒル)との間に男の子」と記事が出ています。たしかにロンドンで生誕したことが当時報道されています。この当時の記事では4月15日生まれになっていますが、本人は16日にお祝いしていました。

ロイターは、また、「MI5の歴史をまとめているクリストファー・アンドリュー教授は、昨年明らかになった情報を基に、チャプリンがイングランド中部でキャラバン内で生まれた可能性もあると指摘。チャプリンがこの出生について伝える手紙を受け取り、それを鍵をかけた引き出しの中に保管していたという。」と書いていますが、この手紙は研究者なら誰でも知っている存在で、薄気味悪い話の好きなチャップリンは頭のおかしな人からの手紙を保管して楽しんでいただけです(笑)。他にも妙な占い師の手紙からの手紙などもあります。

そもそも、FBIとかMI5って皆が思っているほど優秀ではなく本当に間抜けな組織です。
なんとFBIは、チャップリンの死後、霊媒師を呼んでチャップリンの霊を呼び寄せ、「お前は共産主義者か?」と尋問して、それをファイルにしている!(笑)そんな組織のファイルなんて信じられますか?

ロイターは、「FBIは、チャプリンの本名がイスラエル・ソーンシュタインだった可能性があるとしていた」と報じていますが、これは、まったくの虚偽の名前(わざと東欧ユダヤ人っぽい名前)をでっち上げて、チャップリンを東欧の共産主義者・ユダヤ人であるとでっち上げようと下しただけの話です。
チャップリンの両親の婚姻届が残っており、たしかに父はチャールズ・チャップリン・シニアで、母はハンナ・ヒルです。いずれも、「ソーンシュタイン」などという名字ではなく、上記の通り、5代遡ってもチャップリンです。

いまだ、冷戦期のでっち上げが、このように報道されることに怒りを覚えます。

日本チャップリン協会
大野裕之