ギリシャ神話 美しき月の女神セレネの激しくも切ない恋のおはなし | 人魚姫の泡言葉

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「美しき月の女神セレネの恋のお話」

ヒュペリオンとテイアには、太陽神ヘリオスと二人の姉妹がいました。その姉妹の一人、月の女神セレネはひっこみ思案な性格で孤独な女神でした。

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「月の女神セレネ」

太陽神ヘリオスが太陽の戦車に乗って陽を照らしながら西方オケアスの国に沈み火炎車を納めると、兄ヘリオスに替わってセレネは東の空に二頭立て馬車を興し漕ぎ始めます。

何にもとらわれず女神セレネは、人々が寝静まった深夜、一生懸命に働きました。青ざめた冷たい処女神セレネを、神々はからかったり誘惑したりしましたが、彼女は誰にもなびきませんでした。

ある夜、セレネは二頭立て馬車から、何気に地上の平原に目をやりました。セレネの馬車も中天にさしかかっていた時刻です。

草原には羊の群がいて、その群に囲まれたようにして青年が寝入っていました。その寝姿は、遠くから眺めても輝くばかりの美しさを放っていました。

彼に見とれてしまった女神セレネは、もっと良く見たい欲望にかられ馬車を下界へ降ろしました。
近くに降り立った女神は、かすかに寝息をたてて寝ている青年エンデュミオンのその美しい横顔としどけない寝姿に心を奪われてしまいました。



青年に魅了されてしまった女神セレネは、翌日も翌々日も二頭立て馬車を下界に降ろしては、彼の寝顔を見に行くようになりました。そして、それは数日にとどまらず連日連夜続いたのです。

女神セレネは、寝ている美青年エンデュミオンの傍らで寝顔を見れるということだけで幸せでした。
そんな日が続き、知らぬ間に何年かの月日が過ぎ去っていました。

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エンデュミオンに完全に恋してしまったセレネは、寝顔を見るだけでは満足できずになり感情が高ぶるまま眠っている青年に抱擁しキスをしてしまうのでした。そして最後の一線までも超えてしまったのです。

青年エンデュミオンは夢の中に美しい女性が現われては、毎夜毎夜、自分と至福の時を過ごしてるのだと思っていたのです。でも、それが続くものですから不思議に思っていました。

夢でありながらも、彼を見つめる瞳が優しさに満ち溢れてる女性に彼も惹かれていきました。夢の中の女性の美しさは冷たい雰囲気を持っていましたが、瞳はそれはそれは慈愛にあふれ、自分を優しく包み込むような暖かさがありました。

そんな逢瀬を重ねていくうち、彼を常に傍に置きたくなりました。セレネは、エンデュミオンの頬を優しく撫でながら言いました。
「エンデュミオン、大切なエンデュミオン。このまま生きて醜く老いていくのと、永遠に眠り続けて美しく若い姿でいるのと、どちらがいいの?」
「永遠の若さをください」とエンデュミオンは夢うつつに答えました。

ある日、意を決した女神セレネは、全知全能の神ゼウスの元に赴き、エンデュミオンの永遠の命を乞うたのです。こうして羊飼エンデュミオンは眠り続けることで永遠の命を与えられました。

永年の眠りについた美青年エンデュミオンを女神セレネはカリア地方ミレトスの北にそびえるラトモス山の洞窟に運びました。

こうして眠れる美しいエンデュミオンと月の女神セレネは生涯を共にすることになりました。眠れる美しい青年は老いることはありませんでしたが、セレネの愛に応えることは出来ません。夢の中だけの逢瀬となります。
 
それでもセレネは、毎夜、エンデュミオンのもとに通い続け、彼との間に50人の娘たちを生みました。

その後、カリア地方の人々は、エンデュミオンのためにラトモス山に神殿を建てました。こうして、現在でもエンデュミランはラトモス山の洞窟に永遠に眠り続けてると言われています。



 エンデュミオンにとっては、眠りの世界でのみセレネと接触しているという意識の状態は、月を示す、内面に隠された深いところにある世界(潜在意識 フロイト)の状態を表しています。


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  多くの画家が、月の女神セレネとエンデュミオンを描いてますが、私の中でこの絵が最もセレネの気持ちと二人の関係を上手く描けてるように思えます。ジョージ・フレデリック・ワッソ