転機 | 思い出の彼方

転機

独身でいること
自由気ままな豊かな生活。。。
その一方で、齢を重ねるに連れて
誰もいない部屋へ帰る寂しさも感じていた。
この状況を一番案じていたのは母親だった。

ちょうど二年前
週末を利用して、母親を中華街に連れて行った。
一人暮らしをはじめて、最初の招待だった。
それほど高くないセットメニューを頼んだが
出される料理を食べきれない、そんな状況に
お互い歳をとったのだなぁ、という現実に気付く。
そして、母親の顔に苦労の数と同じか
それより多いであろう皺をみて、ふと涙が浮かんできた。

母は何気ない会話の中に、ひとつのメッセージを込めてきた。

「もう自分自身の幸せを、考えていいんだよ」

周りの人は決して気づくことのない
苦労を共にした親子だけがわかる会話だった。

現実に目を向けたとき、父親の死は
私の最大の心配事がなくなったことを意味していた。
母親は幸い健康で、自立した生計を立てている。

もはや、私の行く手を拒むものは何もなかった。