
(CBS・ソニー 28AH 1578、1983.10.1)
収録楽曲は以下の通り。
●Side A
01.満月の夜 君んちへ行ったよ
(山本みき子/太田裕美/大村雅朗)
02.葉桜のハイウェイ
(山本みき子/板倉文/大村雅朗)
03.お墓通りあたり
(山本みき子/太田裕美/大村雅朗)
04.ガラスの週末
(山本みき子/板倉文/大村雅朗)
05.こ・こ・に・い・る・よ
(山本みき子/太田裕美/大村雅朗)
●Side B
01.移り気なマイ・ボーイ
(山本みき子/太田裕美/大村雅朗)
02.パスしな!
(山本みき子/川島UG/バナナ)
03.ロンリイ・ピーポー III
(下田逸郎/太田裕美/板倉文)
04.ロンリイ・ピーポー II
(下田逸郎/岡本一生・亀井登志夫/大村雅朗)
05.33回転のパーティー
(山本みき子/板倉文/板倉文)
カッコ内は、作詩/作曲/編曲、の順です。
というわけで
前回、書いたような苦労を重ねて聴き終えた
『I do, You do』ですが
「満月の夜……」に匹敵するほど
インパクトのある曲は
ありませんでした。
(個人の印象ですw)
それでも
シングルカットされた
「満月の夜……」のB面である
「お墓通りあたり」とか
「こ・こ・に・い・る・よ」、
「移り気なマイ・ボーイ」、
「パスしな!」など
アメリカ留学前のイメージとは異なる
クセのある曲で
こういうことがやりたかったのか
(「わたしらしく」ということなのか)
とか思ったりしました。
ほとんどの曲を作詩している山本みき子は
銀色夏生[ぎんいろ・なつを]として
知られている方です。
今年に入ってからの、知人とのカラオケで
「満月の夜……」を歌ったときは
山本みき子ではなく
銀色夏生とテロップされてました。
2曲の「ロンリイ・ピーポー」の
詩を書いた下田逸郎は
石川セリが歌い、宍戸留美がカバーした
「セクシィ」の原曲を作って歌った
シンガーソングライターです。
(宍戸留美版の「セクシィ」は
前にこちらでも紹介したことのある
アルバム『女』に入ってます)
「満月の夜……」を始め、何曲かは
太田裕美自身の作曲ですが
太田裕美は留学以前から
自身のアルバムに
自ら作詞作曲した曲を
収録してたみたいですね。
ずっと
いわゆる「アイドル」だと
思っていたので
今回、いろいろと調べて
作詞作曲をやっていたことを知って
ちょっとびっくりでした。
『I do, You do』以前の曲と
聴き比べないと
留学後のテイストが
それまでと違うのかどうか
判断できません。
ただ「満月の夜……」は
それまでにA面カットされた
フォーク・テイストの曲とは違い
インパクトありました。
「満月の夜……」以外は
歌い回しやアレンジに
中華風な雰囲気が感じられるだけに
なんで「満月の夜……」のような
曲ができたのか
ちょっと不思議な気がします。
あと
「こ・こ・に・い・る・よ」の
メロディー・ラインというか
妙に歌い延ばさない歌い方が
ちょっと独特。
これ、カラオケにあったとしても
タイミングが難しそうです(苦笑)
「ロンリイ・ピーポー II 」は
シングルカットされて
「満月の夜……」の前に
リリースされたそうですが
(B面は本アルバムに入っている
「葉桜のハイウェイ」)
歌詞の以下の部分が、ちょっといい。
♪ひとりになりませんか
わたしとふたりで ここからは
ふたりになりませんか
ひとりとひとりで あざやかに
相手の価値観に合わせるというのが
良いと思う人が多いと思いますけど
(自分もそういう傾向あります)
そうじゃなくて
それは一方が相手に合わせるために
無理をしている可能性もあるわけで
それぞれが個性を保ちながら
カップルでいよう、というのが
実にいいなあと思うわけです。
もっとも、双方がそう思ってないと
喧嘩して物別れということに
なりかねませんけどね(苦笑)
先にこちらで紹介した
『ゴールデン☆ベスト 太田裕美』の
ライナーに
デビューから1983年までの
担当ディレクターだった
白川隆三の談話が載っています。
そこで白川は
このアルバムは、
かなり気合いを入れて作りました。
山本みき子(銀色夏生)さんは
“ミキンコ”と呼んでて、
すごくいい作詩家なんだけど、
彼女の世界は超独特で難しい。
ニューヨークで休んで
リフレッシュした感じはあるけど、
気持ち良さの裏にある
日本的な何かというか、
全体として今ひとつ
表現しきれてなかった気がします。(p.27)
と話されてますけど
『I do, You do』のころは
ディレクターは福岡智彦に変わってて
白川はアドバイザーでした。
(ご自身もこのライナーで
そう話してます)
それまで、自分が築き上げたのとは
違う世界を示されて
「やりたい事やったら、
こんなに気持ち良い……。」
とタスキ(オビ)に
謳われているわけですから
内心いろいろ思うところが
あったのかもしれないとも感じられて
素直には頷けない発言(評価)です。
たしかに銀色夏生の歌詞は
「超」とまでいえるかはともかく
独特なものがあります。
でも、「満月の夜……」に関しては
ナンセンスな歌詞を
太田裕美なりに
うまく曲にしてると思いますね。
もっとも当時の、
「アイドル」太田裕美ファンには
どう受けとられたか分かりません。
たまたま塾で採点をやっている人が
当時、太田裕美ファンだった
と聞いてびっくりしたのですが
留学後の曲はちょっと……
と話してましたし。
「雨だれ」以来の
あるいは「木綿のハンカチーフ」以来の
「アイドル」太田裕美ファンには
違和感がある方向だったのかもしれません。
だから、
「木綿のハンカチーフ」の
モチーフを引用したイントロで始まり
「♪心配かけてごめんね」
と歌い出すシングル
「雨の音が聞こえる」(1984)を聴くと
支持を受けずに妥協させられたのかな
と思ってしまいます。
『ゴールデン☆ベスト 太田裕美』では
「満月の夜……」のあとに
「雨の音が聞こえる」が入っているので
余計そういう印象を受けるわけですが。
そんなふうに
妄想w してしまうこともあって
なおさら、今こそ
もっと知られてもいいアルバムだと
思ったりもします。
大人になる、というのとは
別な方向での
脱「アイドル」という路線を
示しているのかなあと
アイドル史に詳しくない素人としては
考えたりもするわけですが、さて。
