
(2009/池田真紀子訳、文藝春秋、2010年10月30日)
今年のディーヴァーの新作は、
リンカーン・ライムものではなく、
人間嘘発見器キャサリン・ダンスが主人公の第2作目。
キャサリン・ダンスものの第1作
『スリーピング・ドール』(2007)については
以前感想をアップしたことがあります。
『ロードサイド・クロス』では、
前作で安楽死した(させられた?)
瀕死の警官の事件が影を落としていますが、
本書単独で読んでも、もちろん楽しめます。
社会時事ネタのブログに
或る不審な交通事故の記事がアップされました。
高校の卒業パーティーの帰りに、
女三人男一人が乗った車が事故を起こし、
後部座席にいた女の子が死んでしまう。
ところが警察は運転していたと思われる若者を
何のおとがめもなく釈放してしまいます。
そのブログで彼は通称「運転手」と名づけられ、
次第に根拠のない誹謗中傷が飛び交うようになります。
そしてそのブログにレスをつけて
「運転手」を中傷した女子高生が、
何者かに車のトランクに閉じこめられ
溺死させられようかという目に遭います。
続いてもう一人、レスで
「運転手」の悪口を書いた女子高生が、
自宅で襲われ、塩酸中毒で瀕死の状態に陥ります。
「運転手」はどうやら
仮想現実とリアルな現実の境界を忘れて、
自分を誹謗中傷した者たちに
復讐し歩いているようなのです。
第二の事件と時を同じくして
現実の「運転手」である少年が失踪します。
そして自分への誹謗中傷を書いた者だけでなく、
ブログの管理人に賛成するような
書き込みをした者にまで被害は広がっていき、
地域は恐怖のどん底に落とされます。
この事件にキャサリン・ダンスが挑むわけです。
タイトルは、道路脇に立てられた
交通事故死者を悼むための十字架と献花が、
まるで犯行予告のように使われていることに拠るものです。
アメリカのネット社会の事情がよく分かる
前半部のストーリーは、背景説明の記述が多く、
なかなか話が進まないという印象ですが、
(日本でのネットいじめの例も出てきます)
ダンスの母親が、前述の安楽死事件で
告訴される事件が突発する中盤あたりから、
リーダビリティは快調になって、
いつものディーヴァー・タッチが楽しめました。
あらかじめ「運転手」が犯人であることが
分かっているかのような書きっぷりなのですが、
今回はサスペンスものかと油断していると、
最後にものすごいウッチャリを食らわせられます。
ただウッチャリを食らわせるだけでなく、
なぜダンスが思いもよらない人物に疑いをかけたのか、
その理由が丁寧に説明されるし、
ちゃんと伏線も張ってある。
今回は、というか今回も、
しつこいくらいに伏線の説明をしていますが、
これって、アメリカが説明責任
アカウンタビリティーということに対して
先進的で敏感な国だからなのかなあ、
と思ってしまいました。
そういうアカウンタビリティー的な姿勢が、本書を
本格ミステリ(謎ときミステリ)として
優れたものに仕上げています。
辻褄が合えば、パズルの絵が完成すれば、
なぜそういうふうにピースを当てはめたのか
という説明がわずかでもいい。
そんなタイプの謎ときミステリとは大違いで、
だからディーヴァーは自分にとっての
お気に入り作家なんだろうと、あらためて思った次第。
プロット的には、ある非常に大きな偶然が
読者をミスリードするように作っている点と、
メインの事件とまったく関係のない
ダンス自身の事件ともいうべきものを加えることで、
ワーカホリック的サスペンスを醸成している点が、
安易といえば安易なのですが、
中盤からの展開は巻を置くあたわず。
2段組500ページをイッキ読みさせる徹夜本です。