自分にとってのアリス映画の理想は、
というより、ハマり役のアリスが出てくるのは、
実はこの作品だったりします。

$圏外の日乘-ドリームチャイルド
(デックスエンタテインメント DXDS-0006、2005)

1985(昭和60)年製作のイギリス映画です。
監督はギャビン・ミラー。
これが映画監督デビュー作だそうです。

日本公開は1986年で、
配給は松竹と東北新社。
公開されたのはシネマライズ・渋谷。
たぶん単館上映だったかと思います。

当然、観にいきました。

それからソフトになるまでが長かった。
ビデオソフトは出てたかもしれません。
自分はレーザーディスクが出るのを待ってたのですが、
結局ならなかったのかな。
DVDが出た時は、喜び勇んで買いました。

1932年、『不思議の国のアリス』のモデルになった
アリス・ハーグリイブス(旧名アリス・リドル)が、
ルイス・キャロル生誕100周年の行事のために
コロンビア大学から学士号を贈られることになり、
ニューヨークを訪れます(これは実話)。

ルイス・キャロルに本を送られた時は
10歳だったアリスも、
今では80歳の老婦人。
夫はすでになく、息子を戦争で失い、
施設(孤児院?)から引き取った少女を
コンパニオン(話し相手兼世話役)として伴い、
死を間近に迎えての渡米でした
(没年は2年後の1934年)。

その80歳のアリスが、
封印していたドジスン先生への記憶を回復し、
ドジスンの愛情に感謝を捧げる講演を
コロンビア大学で行なうまでの経緯を、
10歳の頃のシーンと、
不思議の国でのシーンとを絡ませながら
描いた映画です。

80歳のアリスを演じたのはコーラル・ブラウン。
俳優ヴィンセント・プライスの
三番目の(最後の)奥さんだそうです。

チャールズ・ドジスン先生こと
ルイス・キャロルを演じたのはイアン・ホルム。
『炎のランナー』のコーチ役で有名だそうですが
(『エイリアン』にも出てるそうです)、
顎が張っていて、キャロルに見えないのが残念(苦笑)

10歳のアリスを演じたのが
アメリア・シャンクリー。
『ドリームチャイルド』の翌年に
テレビドラマ『小公女』でセーラを演じたようですが、
そちらは観ていませんし(ビデオあり)、
それ以外の出演作はないようです。
が、『ドリームチャイルド』1作で、
アリス役者として不滅の金字塔を打ち立てた、
と個人的には思ってます。

とにかくアメリアの演じるアリスが
可愛いの一言に尽きる。
不思議の国のクリーチャーと絡むシーンや、
ドジスンの視線に戸惑いながらも
彼を翻弄する振る舞いは、サイコーです(笑っ

最初に映画を観た時は、
なんで不思議の国の場面だけで
映画にしなかったのかと
不満たらたらでした。

クリーチャーをデザインしたのは、ジム・ヘンソン。
『ダーク・クリスタル』の操演を手がけ、
『ラビリンス/魔王の迷宮』の監督を務めたそうですが、
実は両方とも観ていません(^^;ゞ

しかし、『ドリームチャイルド』で
にせウミガメ、グリフォン、
マッド・ハッター(帽子屋)、三月うさぎ、
ねむりねずみ(最近は「ヤマネ」とも)、
イモムシなどを手がけた手腕だけで、もう充分。
自分にとっては尊敬に値する人です。

それまで観たアリス映画では、
役者が部分的にかぶり物を付けたりして
クリーチャーを演じていたのですが、
『ドリームチャイルド』では、
すべてマペット操演で処理されています。

このマペットの造形が実に素晴しい。
自分はこの映画を観て、
アリス物語のキャラクターは
グロテスクで怖いものでもあることを
初めて意識させられました。
マッド・ティー・パーティーでの帽子屋は
いいのかそれで、と思うくらい、ほんとに怖いです。

今回観直すと、まあ、相変わらず、
80歳のアリスに取り入る新聞記者と
アリスのコンパニオンとの恋愛は邪魔だと思いつつ、
ジャズ・エイジのアメリカの風俗が面白くて、
ついつい観入っちゃいました。

あと、アリス(10歳)の姉ロリーナ
(演じるはイモージェン・ブアマン)が、
実に気配り屋さんで、
いい感じなスタンスであることを
再確認してしまいました。
ロリーナの気配りと
妹イーディス(エマ・キング)の無邪気さと、
その間にあるからこそ映えるアリスの微妙な魅力が
繊細に描かれている感じですね。

今回観直して、その繊細な描写に驚きました。
そのため余計に、新聞記者とコンパニオンの恋愛が
邪魔に思えてくる(藁

新聞記者を演じたピーター・ギャラガーのマスクが
いわゆるソース顔(死語w)で、
しつこすぎるのも難なんですよね~。
この方、この後
『セックスと嘘とビデオテープ』に出て、
次第に売れていくようですが、
とにかく『ドリームチャイルド』の時は、
眉毛が濃くて、しつこい顔の嫌な奴
という印象しか残っていません(苦笑)。

それに比べれば
コンパニオンを演じるニコラ・カウパーは
まだマシなんだけど、観ていると、
こんな不況時代に失業した新聞記者と恋に墜ちて
どうすんだよ~、という思いが抜けない(藁

映画のストーリー的には、
何度観てもそこが気になるんですよね~(^^;ゞ

新聞記者は、
アリス・ハーグリーブスの
マネージメント料もらってるんだけど、
それはアメリカにいる間だけだしさ~。
まあ、アリスがイギリスに帰った後も、
アメリカの権利代行業を務めるのかもしれないけど、
でも2年後にアリスは死ぬしな~とか、
余計なこと考えちゃいます。
そこがこの映画の弱いところだとも思ってます。

ま、そこまで心配する観客は
いないかもしれないけど(藁

こういう若い者たちの恋愛を見て、
80歳になったアリスが
10歳のころのキャロルへの想い
あるいはキャロルからの想いに気づくわけですが、
若い2人の先行きは暗いと観てて思っちゃうんで、
80歳のアリスの想いに説得力が感じられないんですよ。

だから、10歳のアリスの場面だけ、
要するに不思議の国の場面だけで、
アメリアの演技を楽しませて欲しかった
と、観た時は思ったんだけどな~。

とにかく、10歳のアリスを演じるアメリアは、
現実のアリスにそっくりなんで、
不思議の国でもオックスフォードでも違和感なく、
少なくとも自分には違和感がなく、
いまだにこれを超えるアリス役者はいないと思ってます。

$圏外の日乘-ドリームチャイルド(ジャケ裏)

上の写真は、DVDパッケージの裏のものですが、
実際にこういうチャイナな恰好をさせて、
アリスの写真を撮ったりしてるんです、キャロルは。
それを再現しているわけですが、
アメリアの笑顔が実にキュートです。

来年春に公開されるアリス映画では
誰がアリスを演じるのか、まだ知らないですけど、
よっぽどのハマり役じゃないと、
その時点で拒否権発動しそうなのが
怖いですね~(笑っ