$圏外の日乘-原始の骨
(2008/嵯峨静江訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2009.9.15)

たった一片の骨から
年齢、性別、外見、体格、病歴、死亡時期
などを割り出し、事件解決に貢献する
スケルトン探偵ギデオン・オリヴァー
シリーズ第15作目です。

ネアンデルタール人と
現生人類(ホモ・サピエンス)との
交差を示唆する化石が発見されてから5年後、
それを記念するイベントが
ジブラルタル市で行なわれることになり、
ギデオンもゲストの一人として招かれます。

ところが着いた途端に、ギデオンは
何者かに命を狙われるはめになります。
それも何度も。

いったい誰が、何のために命を狙うのか。

そのうちに、イベント関係者の一人で、
化石発見に功績のあった
アマチュア考古学者が
タバコ火の不始末で火事を起こし、
死ぬという事件が起こります。

事件に不審なものを感じたギデオンは、
知りあいの警部に頼み、
焼死体の検死に臨むのですが……。

ネアンデルタール人は、現在では
人間の祖先であるホモ・サピエンスとは
別系統の人類だと確定されているようです。

ただ、学会では論争が続いているのでしょう。
本書では、現生人類の女性の化石と
ネアンデルタール人の特製を有する子供の化石が
まるで一緒に埋葬されたかのように
同じ場所で発見されたことから、
両者の交流を示す世紀の発見として話題となり、
女性の化石をジブラルタル・ガール、
子供の化石をジブラルタル・ボーイ、
母子あわせてファースト・ファミリーと呼ばれている
という状況が設定されています。

小説の冒頭に、
ジブラルタルでの発見の疑惑を暴く!
なんていう記事が掲げられています。
その記事の中では、
ギデオンがその暴露講演を行なうと報道され、
ピルトダウン事件より衝撃的だ、
というギデオンの談話が引用されている。

ピルトダウン事件というのは、
日本でも数年前に話題になった
(2000年に発覚、て、
 もう、そんなに経ったのか……)
〈神の手〉事件みたいなものだと
思ってください。

そんな記事が出た後に
ギデオンが狙われるわけですから、
その理由は、おおよそ見当がつくでしょう。
犯人でありうるメンバーも、限定されています。
犯人当てミステリを読み慣れている人なら、
100ページも読まない内に
犯人の当たりをつけると思います。

でも、そんなことは分かっていても、
見当がついても、
面白いんですね、これ。

それは、ギデオンの行動が
いちいち納得がいくからです。
手がかりや証拠、推理に基づいてストーリーが進む。
だから、思わせぶりなやりとりの後、
実はこうだった、といわれても、腹が立たない。

専門的な知識も出て来ますけど、
それを知らなくても楽しめます。
むしろトリヴィアルな楽しみを得られます。

典型的なウェルメード・ミステリですが、
派手な題材を扱わず、登場人物も奇矯ではなく、
残虐シーンもなく、程よいユーモアで味つけされ、
でも読んでいて飽きさせないのは、
なかなかの技量だと思いました。

てか、このシリーズを読むのは
初めてじゃないんで、その技量のほどは
分かってたことなんですけどねf(^^;

通な感想をいいますと、
これって往年のイギリスのミステリ作家
パトリシア・モイーズを
連想させるところがあります。

アガサ・クリスティーを連想させるところも
ありますが、
クリスティーの名前をあげるだけじゃあ、
「通」っぽくないでしょ(藁

ミステリ・マニアの読者には
物足りないかもしれません。
マニアじゃない読者には、
これはオススメです。

マニアはマニアなりに、
ニヤリとさせられるところもある、
と思いますが、
作者が意識してか、せずにか、
マニア目線で書いてないところが、
好感度、大なのです。