「運之丞、湯殿に来てくれぬか?背中を流して欲しいのじゃ。」


時貞から声がかかった。もともと、お父上様から言われてはいたが、身体に触れるなと開口一発に言われてはそうも出来ずにいた。
湯殿の中に入ると、小窓から入る朝日に浮かぶように、時貞が背を向けて立っていた。


「四郎様、背中を塩で磨くのですか?」


そう聞きながら近くに寄ってみれば、木刀で叩かれた場所には大きな打撲痣が出来て、そして、小さな痣が無数に背中にある、いったい何がこんな所に痣を付けたのだろうと訝しみながら、塩を手に取り、背中に擦りつけるようにしていると


「何も聞かぬのか?背中に訳の分からぬ痣があろう。」


「お話になりたくないのならば、聞きませぬ。」


「運之丞・・・お主も入れ。儂の身体を洗い流してくれぬか。佐々木が付けた手垢を、流してもらえぬか・・・。何度流しても、流れた気がせぬのじゃ。」


少し、涙声のようにも聞こえる時貞の顔を見ようと前にまわると、体のあちらこちらに、背中と同じ痣が付けられたいた。木刀の打ち身でない、時貞が経験した陰の行為の痕と理解できた。何よりも驚いたのは、いつも気高く、凛とした時貞が、小さく震えながら、はっきりと大きな目には涙が溜まっていた。


「四郎様の命なれば。」


そう一言返すと、運之丞も裸になり時貞の身体を塩で清めるように擦り上げた。時貞の身体は、その刺激にも反応していた、何も考えないように、いつも一緒に風呂につかって身体を洗いあうような仲の運之丞に変な感情は持っていないはず、しかし、ついさっきまで佐々木に愛撫を受けていた身体には、運之丞の身体を洗う手つきにさえも高ぶってしまうのだ。
運之丞も気が付いていたが、きっとそういう事をしてきたから起こっているのだろう分かっていた、だからこそ、何も言わずにいつものように身体を時貞の身体を洗っていたのだ。
洗い終わり、時貞の身体に湯をかける、塩で擦った身体は赤く染まっていた。刺激に耐えている時貞を垣間見た時、こんなにも艶めいていただろううかと思うほどの表情をしていた。もともと時貞の顔は女のような感じにも見える、思春期の男の身体にその表情は淫らな気持ちにさせるのに十分だった。辛い思いをしてきた時貞にそんなやましい気持ちになっている自分を運之丞は恥じていた。そんな時、


「のう、運之丞。お主、接吻はしたことがあるか・・。」


と運之丞に背を向けたまま聞いてきた。


「いえ・・。まだ・・。」


「儂にしてくれるか・・・。運之丞、お主に頼むのは間違っていると分かっている。じゃが、お主にしか頼めんのじゃ。儂の身体の中まで佐々木は、注ぎ込んでしもうた。そこまでお主に求めるのは無理というものじゃし、儂ももう受け入れられぬ・・・。運之丞頼めるか・・・。」


唖然としていた運之丞であったが、なによりも時貞の頼みである断れるはずがなかった、いや、断る気にもならなかった。佐々木の毒牙を抜く役目なら、体を張ってでもしてもかまわぬと思うのだ。意を決めた運之丞は目の前に立つ時貞の唇に自らの唇を重ねた。
軽く重ねるだけのつもりが、時貞が運之丞の唇を舌で舐める、まるでその誘いに乗るように運之丞も舌を出し時貞の舌と絡めるようにして時貞の口内に舌を差し入れた、中をきれいにするように舌で舐めあげると時貞の口から吐息が零れた。


←14      16→