「なんという苛立ち、なんという怒り、なんという絶望!!!」
「イドメネオ」が傑作と、ぼくが自信をもって言えるのはこのエレットラの存在が大きい。すべてのオペラの登場人物の中でも5本の指に入るほど好きなのがこのエレットラです。
エレットラの多くの音楽は、血を沸き立たせるほどの興奮を味わうことが出来る、しかしそれまで敬遠されていたデモーニッシュの極みでございます。
なぜそういう音楽になったのか、それはこのオペラを見るだけではなかなかわかりづらいと思います。
「おーずいぶん派手に激怒するなこの人、嫉妬深いんだなぁ、ぽりぽり」
で終わってほしくない、なぜなら
愛しているから!!!おれ、エレットラを愛しているからーー!!!
告白も済んだし、先に進みます。
このエレットラ、実は「イドメネオ」とは別の有名な物語の主人公でございます。
オペラではリヒャルト・シュトラウスが「エレクトラ」という作品を作っております。
例えるなら、仮面ライダーがどうしても勝てない相手が出てきたら、ゴレンジャーが出てきて一緒に戦う、みたいな感じです。ね、わくわくするでしょう?
そもそも本当はエレットラはクレタ島には行かないのです。
彼女は、トロイ戦争のギリシャ勢の総大将アガメムノンの娘でございます。
今日はその話でございます。
トロイ戦争の10年の間に、アガメムノンの妻クリュさん(本当はクリュタイムネーストラーという長い名前ですが、面倒くさいのでクリュさんにします)は浮気相手が出来ます。
そしてクリュさんは浮気相手に、戦争を終え帰ってきた夫アガメムノンを殺させます。
愛する父アガメムノンを殺されたエレットラは、灼熱のような怒りと復讐心を心に秘め、母と浮気相手を殺す機会を待つのです。
ある日、エレットラが父の墓へ行くと、母クリュに国を追放されたエレットラの弟、オレステと再会します。
そしてエレットラはそのオレステに、命乞いをする実の母クリュと浮気相手を殺させるのです。
オレステは自分が殺した母の亡霊を見るようになり、精神が崩壊します。
一方、エレットラはオレステの親友と結婚することになります。(シュトラウスの「エレクトラ」ではオレステと同じように精神が崩壊して動かなくなる。また余談ですが、オレステを主人公にしたタニェフ作曲の「オレステア」というオペラもあります。観たこたぁないけどね♪)
先ほど、クリュさんに浮気相手が出来、夫アガメムノンを殺させた、と簡単に書きましたがこれにも理由があります。
トロイ戦争に向かう出発の日、千隻の船を用意したにもかかわらず風がピタッと止んでしまうのです。それから何日たっても風は吹かない。そこでアガメムノンは娘、イフィジェニアを神のお告げ通り、生贄に捧げます。
そのことで恨みを募らせたことが、クリュさんがアガメムノンを殺害させた動機なのです。
要するに、家族の中で憎しみの連鎖が生まれてしまったのです。
さて、モーツァルトの「イドメネオ」では、エレットラが母クリュを、弟オレステに殺させたまさにそのすぐ後、クレタ島に逃げてきたという設定になっておりますので、ようやくここから本編に入ります!!
つづく