第28話. 「差別化」の巻


 

さっそく4月末で生徒数50名にするための戦略レッスンのスタートだ。

 

タヌーキは、チラシの話を始めた。
「そもそもチラシは比較論や。で、2月からのこの時期、塾のチラシがバンバン入るわな?」


その通りだ。地域によっては、その日の折り込みチラシがほとんど塾ということもある。


「ほんで、塾を考えてる保護者なら、いろんな塾のチラシを比較検討するわけや」
「はい、そうですね」

 

「例えばや、10塾のチラシが入ってたとするわな。そのうち、1塾くらいは塾やということさえ気づかれず、そのままスルーや。はい、ここで1塾脱落。たまにあるやろ?塾っぽくないチラシとか、あまりにも地味すぎるチラシが」


まあ、広告戦略もいろいろだろうが、奇抜すぎても良くないのかもしれない。

 

「ほんで、残りの9塾のうち、5塾くらいのチラシはパッと見て、即、ゴミ箱行きや。はい、ここで5塾脱落。明らかに魅力がないもんはすぐに対象外になるわな」
「は、はい……」


「ほんで、ほんで、残りは4塾や。この4塾は、まあとりあずチラシの内容を見てもらえると思うわ。でも、最終的に2つに絞られる。一騎打ちや。ここで圧倒的に勝っていれば単独指名やし、内容に大差がなかったら、両方に問い合わせして両方体験授業を受けてみる……みたいな感じになるわけよ」


確かに、この時期は戦う相手が多くいて、チラシも常に比較される。

言わば、チラシ王者決定戦のトーナメントに勝ち上がれるかどうかと考えることもできるだろう。

 

「う~ん、なかなか過酷な戦いですね……」
「そうやで。それやのに、ジブンのこのチラシは何なんや?だいたい、この『イキイキ、ワクワク』ちゅう無意味なキャッチコピーは何やねん?」


「いやまあ、私、このフレーズが昔から好きで……」
「ジブン、正気か?塾長の個人的好き嫌いでチラシのコピーを作ってどないすんねん!同人誌作ってるんとちゃうねんから!それに、『面倒見が違います!』っていうのも、何やねん!」


「だって、うちの塾の差別化は面倒見なんです。他の塾とはその部分が違うんですよ!」
「でも、チラシに書いてある内容は、他塾と変わらんやん。どこがどう、面倒見が違うねん」

 

「確かにパッと見は変わりませんけど、教室にさえ来てもらえたら大きな違いがあるのは分かってもらえるんです」
「だから、それは来てもらえたらの話やろ?これやったら、来てくれへんで!」

 

それはそうだ。そもそもチラシは「来てもらう」ことがスタートなのに。

「来てもらえたら良さが分かる」なんて、チラシを出す意味がない。

 

「面倒見が違うんやったら、他の塾とどう違うのか、どれくらい違うのかがチラシの中で具体的に分からなあかんやろ?そもそもジブン、全体的に何やらせても抽象的過ぎんねん。それに、システムかて、どこもやってることばかりやん。全然、インパクトも魅力もないがな」

 

しかし、そこまでボロクソに言うか……。


「とにかく作り直しや。こんなチラシを打ってたら、100万円をドブに捨てるだけやで!」
「わ、分かりました。作り直します……」


「ほんじゃ、まず、当たるチラシを作るポイントやけどな、キャッチコピーやレイアウトや中身を考える前に、まずは相手を知るこっちゃ」
「相手というのは競合他塾ですよね?」


「そうや。競合他塾のチラシを見て、その塾がどんな客層をターゲットとしたキャッチコピーにしてるんか、何を狙ってどんな色合いやレイアウトにしてるんか、塾のウリは何なんか、どんな商品があるんか、それを表にしてまとめてみ!」

 

タヌーキがスポーツ新聞を読んでいる間、私は黙々と他塾のチラシ分析を進める。

とりあえず言われるがままに始めた作業だったが、完成に近づくにつれ、だんだんとこれが凄いものだということが分かってきた。

 

「タヌーキさん!これ……凄いですね!一覧にまとめてみると、他塾が何をウリにしていて、どんな商品を揃えているか、傾向がよく分かります」
「そうやろ。で、どないな感じや?」

 

「特にスタディーゴーが強敵ですね。魅力的な商品が打ち出されています」
「確かに、あそこはそこそこやるからな。ええか、忘れんなよ?あそこに勝たへんかったら、絶対にジブンの50名はないで」


スタディーゴー……か。忘れるはずがない。

まあ、個人的恨みなんかより誇りだ。

私は、私の誇りのために、あそこにだけは負けてはいけないのだ。

 

「じゃあ、ええ機会やから、まずは差別化ちゅうことについてまずは考えてみよか?巷では、よく『差別化が重要や』なんてこと言うてるわな?でも皆、そのことがよう分かっとらへん」

 

そうだろうか?差別化がどういうことかぐらい、私にだって分かっているつもりだが……。


「じゃあ、質問するけどな。例えば、A塾はテスト対策を4時間やるとするやろ?差別化を考えると、ジブンとこはどうする?」
「そうですね~。相手が4時間なら、私は6時間くらいはしますよ」


「ほら、やっぱり分かってへんわ。あんな、第三者から見たら4時間も6時間も変わらへん。わしが差別化するんやったら、だいたい次の3つのどれかにするわ。A塾の2倍の8時間やるか、できるようになるまで帰さへんってするか、もしくはテスト対策はしないかや」

「えっ?しない、っていうのもアリですか?」

 

「そうや。差別化ちゅうのは、明らかに違いが分からなあかん。つまり圧倒的な違いがあって、初めて差別化になるんや」

 

なるほど、するとタヌーキとタヌキは差別化できてないってことだな、なんてどうてもいいことを考えつつ、続きに耳を傾ける。

 

「そういう観点で商品は考えるんやで。相手が成績保証をしてへんのやったら、成績保証制度を導入する。相手が20点アップを保証するんやったら、こっちは40点アップを保証する。相手が成績アップ事例を出してへんのやったら、こっちはその事例を出す。相手も実績を出してるんなら、こっちはその上を行って、生徒の写真と直筆コメントを掲載する。そういった目に見えるもん、明らかに違うもんを差別化っていうんや」
「確かにそうですね」


「でも、現実的には、相手だって色々工夫もしてるからな。全てにおいて差別化ができるとは限らへん。それが前に話した『強者の戦略』なんや。相手の優位性を潰すために、相手と同レベルの商品があっても、それはそれでええ。ただ、それでは差別化にはならん」

 

そうか、なるほど。

確かにそれなら、大手に勝てなくても、大手の武器を奪うことはできるかもしれない。

つまり、大手の差別化封じができるということだ。

 

「分かってきたか?つまりチラシのポイントは、相手の優位性を潰し、こちらの差別化をどうアピールするか、この2つが大切なんや。じゃあ早速、ジブンの塾のウリは何なんか?何をもって差別化をはかるんか?それをしっかり考えてみ!ほんで、それをチラシに盛り込む。あとは、キャッチやレイアウトでインパクトを与える。それでトーナメントを勝ち上がれ!」
「はい!頑張ります!」

 

なんだか、私にもできそうな気がしてきたぞ!

まずは個個塾のウリと、どう差別化するかを考えよう。

おっと、その前に『心の手帳』だ。

 

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差別化とは「最低でも相手の2倍やる」か、「そこまでやるの!という異常さを出す」か、「全くやらない」かの、どれか。目に見える形で圧倒的に違うものでなければならない。
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我利勉・37歳。

4月末生徒数50名に向けて、差別化を真剣に考える1月下旬だった。

 

 

 

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オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田でした爆笑

 

 

株式会社WiShipって何もの?