読んだ論考
ガン発生率と自然放射線レベル
上野陽里

放射線の人体への影響 低レベル放射線の危険性をめぐる論争
ジョーンズ&サウスウッド編
中央洋書出版
1989年
pp239-251

ひとこと感想

原子力や被曝、放射線など、この界隈の言説はかなりみてきた、と思っていた矢先。まだまだ、骨太の人が見つかる。上野樹里、ではない、上野陽里、である。

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電離放射線の生物効果に関する国際会議、ロンドン、ハマースミス病院、1986年11月にて発表されたもの。

日本国内の各地域における自然放射線の体外被曝線量とガン発生率との相関があるのかどうかを神奈川県、大阪府をサンプルに検証している。

結論は、こうまとめられている。

「ガンの発生率と自然放射線との明らかな相関を、観察した六週間のいずれにおいても得ることができなかった。しかし、いくつかのガンでは、自然放射線との間に有意な関係があるように見える。ごく低線量における線量効果関係は、より高線量率の場合とは異なるのかもしれない。」(251ページ)

▼略歴
上野陽里(UENO Youri, 1929-   )は、東京生まれの放射線生物学者(医学博士)。1986年度までは京都大学医学部実験放射線医学教室、助教授、1987年より京都大学原子炉実験所教授、後に金沢工業大学教授。主著に「放射線基礎医学」(菅原努と共著、金芳堂、1966年初版、1983年改訂5版)がある。

▼長崎原爆松谷訴訟
1996年10月に、上記訴訟において、原爆による放射線の線量評価システムである「DS86」があくまでも推定値にすぎないとする意見書を提出する。その結果、「原爆による放射線の線量評価システムである「DS86」を機械的に適用する限り放射線起因性の認定を導くことに相当の疑問が残ることは否定し難いが、DS86もなお未解明な部分を含む推定値であり、現在も見直しが続けられている。」といった判決文になり、1997年勝訴。

▼科研研究課題一覧
科研のデータベースには、1987-1990年に彼が代表を務めた研究課題がある。

^<10>Bー熱中性子捕捉反応によるがん細胞DNA障害、細胞致死作用の放射化学的研究 (1990年度、がん特別研究)

原子炉中性子核反応によるがん細胞DNA障害、細胞致死作用機構の放射化学的研究 (1989年度、研究種目: がん特別研究)

原子炉中性子核反応によるがん細胞DNA障害、細胞致死作用機構の放射化学的研究 (1988年度、研究種目: がん特別研究)

日本人集団の人体自由水型及組織結合型トリチウム量に関する研究 (1987年度、研究種目: 核融合特別研究)

トリチウム線の線量推定に関する諸問題(1983年度、研究種目:トリチウムの生物(人体)影響に関する総合的研究)

▼戦争体験
「私の15年戦争体験記憶」
「戦争体験の記憶 - 京都大学職員組合、戦争体験の記憶」京大職組OB会、2012年5月7日、8-13ページ
http://files.kyodai-union.gr.jp/doc/OB/sensounokioku/120507book.pdf

▼インタビュー動画
4分45秒あたりから登場している。
https://www.youtube.com/watch?v=MvyQaRfEaXI

▼その他論考
「X線およびトリチウムによるマウス精子の形態学的・組織化学的変化とその保健物理学的利用の可能性について」滝本晃一との共著、保険物理 23, pp317-321, 1988.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps1966/23/4/23_4_317/_pdf

「『往生要集』に記載された生理学解剖学」医学史研究 75、医学史研究会編、1999年9月、pp588-592.


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