*2014年11月22日、出身について追補しました。
*2014年6月16日、出身について追補しました。
*2013年6月27日、6月2日若干追補しました。


*2013年6月20日横浜市瀬谷区で女子大学生が刺されて死亡する事件がありました。当事件に関係して「田園調布学園大学」で検索してこのページにたどり着いた方もいらっしゃると思いますが、ここでとりあげている人物の殺人事件は2013年2月に京都で起こったものであり、関係がありません(2013年6月22日追補)

***

ちょっと気になって調べているうちに、???となってしまい、整理する意味もこめて、ここにまとめておきたいのは、2013年2月に京都で起こった殺人の容疑者となっている西川克己氏の職歴についてである。


この事件については、今のところサンケイ新聞がもっとも詳しく追いかけていると思われる。

【衝撃事件の核心】殺人翌日に入籍した25歳・元風俗嬢と55歳・元教授…面妖「歳の差婚」の真相(産経新聞)

事件自体は、2012年2月13日に、京都市南区吉祥院東砂ノ町のマンションの一室で、住人の清水大士(38歳、職業不詳)氏が刺殺された、というもの。

2013年4月5日になり、2人の男女がこの殺人の容疑者として逮捕される。

 西川克己 55歳、東京都豊島区高田、自称研究所研究員
 西川麻衣 25歳、克己の妻、京都府京田辺市河原東久保田、飲食店アルバイト

年齢が離れており、しかも彼らが、事件の翌日(バレンタインデー)に入籍していたことからも、さまざまな憶測が乱れ飛んでいるが、ここではそちらにはあまり興味がない。

気になったのは、この男性の職業である「自称研究所研究員」である。


少しあとで出たサンケイ系列のIZAの記事では、以下のことが、少し書き加えられている。

「逮捕時には、職業を「研究所研究員」と説明していた克己容疑者だが、その後の調べで、実は2月1日、障害者向けの就職支援情報収集会社に契約社員として採用され、契約期間は4月末までの3カ月だったことがわかった。「研究員」に実態がなかったことは、その後、克己容疑者自身も認めたという。」(IZA、2013年4月20日付記事)


なお、すでに彼が利用していたとされるfacebookのデータは見ることができない。

サンケイの記事によれば、以下のような内容であったようである。

「克己容疑者が、掲載を依頼したとみられる各種講演会の講師紹介サイトによると、克己容疑者は中央大法学部卒、明治大大学院法学研究科修了後、埼玉、茨城、群馬の大学や大学院で教授を歴任。現職として、医療福祉研究センター所長、株式会社代表取締役などとしている。
 同サイトで、克己容疑者は「難しい社会保障や社会福祉の制度をわかりやすく、利用しやすく解説して歩く伝道師(社会科学博士)」とPRしていたが、サイト 運営者によると、これまでにサイトを通じて克己容疑者に講演の依頼があったという記録はないという。サイト運営者は「経歴などは自己申告のため、事実かど うか確認するのは難しい」としている。
 一方、克己容疑者が教授として勤務していたと記載していた群馬社会福祉大学大学院(現・群馬医療福 祉大学大学院)は、「同姓同名の教授は平成23年3月末まで在籍していたが、(克己容疑者と)同一人物かどうかはわからない」としている。捜査本部もこれ らのサイトを確認、事実関係について慎重に調べている。」
(以上、4月5日のサンケイの記事より引用

この記事から学歴・職歴を抽出すると、こうなる。

▼サンケイ
・中央大法学部卒
・明治大大学院法学研究科修了
・埼玉の大学で教授
・茨城の大学で教授
・群馬社会福祉大学大学院(現・群馬医療福祉大学大学院)教授(~2012年3月末)
・医療福祉研究センター所長(現職)
・株式会社代表取締役(現職)

ところが、facebookには、以下のような内容が書かれていたという。

「大学卒業後、法律事務所勤務を経て大手家電メーカーに入社。国連や総理府(現、内閣府)でも勤務し、その後大学教授、大学院教授、総長職務代行を歴任-などと紹介。昭和63年には、東京大大学院を修了したとしている。
 しかし捜査の結果、ほとんどが虚偽と判明。経歴詐称を理由に、教授として勤務していた大学を解雇されたこともあったという。」
(以上、4月7日のサンケイの記事より引用

これも、抽出すると、以下のようになる。

▼facebook
・大学卒業
・法律事務所勤務
・大手家電メーカー入社
・国連
・総理府(現、内閣府)
・大学教授
・大学院教授
・総長職務代行
・東京大大学院修了(1988年)

大学卒業、大学教授、大学院教授は、重なっているが、それ以外は大きく異なる。大雑把に言えば、facebookに書かれているそれ以外(国連とか、総理府とか・・・)は虚偽ということだろうか??


ただ、いくつかはっきりしない。

YAHOO知恵袋に「講演会ドットコムというところに書かれていた内容をコピペしていた方がおられるので、元の内容を伺うことができる、そこに書いてあることを項目化すると、下記のようになる。

▼YAHOO知恵袋

現在(2012年または2013年現在)
・山脇学園短期大学 講師
・日本福祉教育専門学校 講師
・介護労働安定センター 講師
・株式会社日本福祉経営 代表取締役 ○ ← 現職

経 歴
1976年 東京都立立川高校卒業 
1981年 中央大学法学部卒業 ○
1986年 明治大学大学院法学研究科修了 ○
1987年  日本社会事業大学研究科卒業
1994年 聖母女子短期大学 講師
1995年 帝京医療福祉研究センター所長、研究所教授  ○ ← 現職
2000年  茨城キリスト教大学 教授  ○ ← 茨城の大学
2001年 社会科学博士
2005年 茨城キリスト教大学 教授退職
2006年 西武文理大学 教授  ○ ← 埼玉の大学
2007年 西武文理大学 教授退職 群馬社会福祉大学大学院 教授
2011年 群馬社会福祉大学大学院 教授退職

サンケイの記事とつきあわせると、「○」のところをサンケイが抜き取ったとみられる。

とりあえずこれが正しい情報であるとすると、facebookの方は、かなり虚偽が加えられているということになる。


まず、ここでかなり驚く。

社会福祉系の大学の先生が、虚偽の肩書きをたくさんつけてfacebookに登録していたということは、すでにこの人に対する信用をかなり失うことになるだろう。

だいたい、本当に大学の先生だったのか?という疑いまで持たざるを得ない。


・・・しかし、少なくとも、本当に大学の先生ではあったようなのだ(あちこちの大学や組織がこうした詐称をしている人に気づかずに次々と採用してきたことに、私は驚きを隠せない。)


確かに、いくつかの研究や大学に関連する「事実」的情報がネットには残されている。


まず、著書として、次のものがある。

▼アマゾン
福祉事業経営特論―福祉マネジメント学への招待/西川 克己
¥2,100
Amazon.co.jp

公的介護保険制度の今日的視点 (社会福祉経営選書)/西川 克己
¥3,059
Amazon.co.jp

「福祉事業経営特論」は、自由国民社から2006年8月に刊行されている。

もう一冊のほうは、小林出版から1996年6月に刊行されている。

これだけみると、やはりふつうの大学の先生であってもおかしくない。

しかし、彼は「ふつう」ではない。


ほか、いくつか、大学関連の情報を整理しておこう。


▼武蔵野大学講師
2006年には武蔵野大学で社会福祉原論を教えていた(→情報はこれ


▼日本社会福祉学会
2009年の10月に行われた日本社会福祉学会  第57回全国大会では、「大正デモクラシーにおける人格労働とその行方-孫田秀春に焦点をあてて―」という自由研究発表を、「(株)日本福祉経営・群馬社会福祉大学大学院院生 安中啓子」とともに、「群馬社会福祉大学大学院教授   西川克己」として行っている。同じく、「日本の労働市場に見た働く女性と企業業績との関係-ダイバーシティ・マネジメントを基軸にして-」という自由研究発表を「(株)日本福祉経営・群馬社会福祉大学大学院 最上寛史」とともに行っている。


▼社会福祉士共通基盤研修
2010年12月には長崎の(社)長崎県社会福祉士会主催による社会福祉士共通基盤研修で、「社会福祉士がとらえる福祉経営」というテーマでセミナーを行っているが、ここでは肩書きは「社会福祉法人清寿会理事長兼統括園長、群馬医療福祉大学大学院教授(社会科学博士)
西川克己)」となっている。


↑ ここには、「社会福祉法人 清寿会」理事長という新たな肩書きが・・・


しかも、この「清寿会」とは、トラブルを起こしているようだ。


清寿会
「大学院を退職後、克己容疑者は、埼玉県内の社会福祉法人の理事長に収まったが、「金遣いが荒いためにトラブルになり、理事会で解任されたと聞いた」と法人関係者は話す。ばらまいた金の使途は分かっていない。」(IZA、2013年4月20日付記事)



かなり整理しないことには、何が本当か何が嘘か、まったく分からない経歴である。

なんというか、ここまでくると、凄い、と感嘆してしまう。


続いて、アマゾンの著者情報に記されているものをまとめると、以下のようになる(年号を西暦にあらためた)。

▼アマゾン
社会科学博士(社会福祉学専攻) ○
1957年 東京都三鷹市生まれ。
 *出身は佐賀県ではないか、というご指摘をいただきました。父方の実家は日立、母方の実家は佐賀。母方の実家に里帰りした際に出産したため、佐賀で生まれ、子供の頃は、三鷹で暮らした、ということのようです
(情報をいただいた方、ありがとうございました)

1981年 中央大学法学部卒業 ◎
1981年 日本ビクター株式会社入社
1983年 日本ビクター株式会社人事部労政課勤務
      明治大学大学院法学研究科公法学専攻入学 ◎
      同大学院修了 ◎
      日本社会事業大学研究科福祉計画専攻卒業 ○
1987年 国際労働機関ILO(本部)職業リハビリテーション部研究員 
1990年 帝京大学講師・研究所助教授・同教授
1997年 帝京学園医療福祉研究センター所長(現職) ◎ ← ただし若干表記が異なる
1999年 (学)敬心学園・日本福祉教育専門学校言語聴覚療法学科講師
2000年 茨城キリスト教大学生活科学部教授(~2005年) ◎
2001年  (社福)東京都社会福祉事業団・東京都社会福祉総合学院福祉経営科研究指導教員
2004年 (財)介護労働安定センター東京支部講師。
2005年 (学)山脇学園短期大学食物科講師
2005年 (学)昌賢学園・群馬社会福祉大学室長・社会福祉学部客員教授 ○
2006年 (学)文理佐藤学園・西武文理大学サービス経営学部教授 ◎


 (◎はすべてに共通、○は一部共通)


こうして比べてみると、大体、みえてくる。


まず、もっとも気になるのは、「帝京学園医療福祉研究センター所長(現職)」である。


若干表記は異なるが、一応これが「現職」とあるので、重要であると思われる。


・・・しかし「帝京大学」に、こういうセンターはない(「帝京学園短期大学」というものは山梨県にあるが)



しかも、あれこれ探してみると、このセンターの名称の前に「(株)」がついているものがあった。


正式名称は以下である。


・株式会社帝京学園医療福祉研究センター



さらに、この住所をみると、


1710033 東京都豊島区高田さんのろくのにじゅうのいちぜろろく 


となっている


この住所、彼の自宅ではないのか? (いちおう個人情報なので、数字は平かなにしておいた)


株式会社日本福祉経営 代表取締役」」というのも「現職」となっていたが、これも調べてみると、上記と同じ住所であった(が、この会社の情報はあまり見当たらない)。


また、同じ住所には総合教育研究所」という名称もある。


さらに、分からないのは、なぜか、twitterでは「教授 西川克己」というアカウントがある。わざわざ「教授」を入れる人も珍しい。


▼twitter
教授 西川克己

さらにさらに、田園調布学園大学というところが文科省に提出した開学時における教員名簿には「福祉サービスの組織と経営」の担当教員(2011年4月より兼任講師)として、彼の名があるが、ここでは学位は、「法学修士」となっている!

田園調布学園大学
法学修士


他のところでは社会科学博士を名乗っていたが、学位も詐称なのだろうか?


また、LinkdeInにも彼の履歴が載っていた。

▼LikedIn
西川 克己
現在 所長(理事長) - 医療福祉研究センター
職歴 研究科専任教授 - 大学院大学 
     1990年4月 – 現在 (23年 3ヶ月)
        学部専任教授 - 大学
     2007年4月 – 2012年3月 (5年)
        国家公務員(出向) - 労働省上級公務員
     2000年4月 – 2012年3月 (12年)
     
1988年4月 – 2000年3月 (12年) ILO国際労働機関
学歴  Harvard Business School
    Doctor of Philosophy (Ph.D.), Social Sciences 2000 – 2003

まず、新たに学歴に「ハーバードビジネススクール」が登場する。

アマゾンでは、「2001年 社会科学博士」となっていたのに、ここでは、2003年に取得したことになっている。つまり、どうやらどちらも「嘘」である。

ついでに言っておけば、2000年からは茨城キリスト教大学生活科学部教授を務めているというのに、どうやったらハーバードと掛け持ちができるのだろう。


職歴のほうも、相変わらず適当である。


まず、「研究科専任教授 - 大学院大学」が「1990年4月 – 現在 (23年 3ヶ月)」となっている。しかしアマゾンでは、「1990年 帝京大学講師・研究所助教授・同教授」となっている。これは「大学院大学」ではない。

「学部専任教授 - 大学」というのは、「2007年4月 – 2012年3月 (5年)」となっているが、これはYAHOO知恵袋によれば、「2007年 群馬社会福祉大学大学院 教授」ということになるのだろうか。しかしここは「大学院教授」であり、しかも2011年退職となっている。もう支離滅裂である。 

続いて、「国家公務員(出向) - 労働省上級公務員」というのは、何に該当するのだろうか。「2000年4月 – 2012年3月 (12年)」となっている。アマゾンにある「2000年 茨城キリスト教大学生活科学部教授(~2005年)」に近いのだろうか。でもここは私大だ・・・。近い所では「2001年  (社福)東京都社会福祉事業団・東京都社会福祉総合学院福祉経営科研究指導教員」だろうか、でもこれは「国家公務員」とは関係ないのだ。

さらに、「ILO国際労働機関」というのがあるが、アマゾンでは、「1987年 国際労働機関ILO(本部)職業リハビリテーション部研究員」となっている。

このことかと思うのだが、年が違っていて「1988年4月 – 2000年3月 (12年)」となっている。

なぜ1年ずれている?


▼公益財団法人 介護労働安定センター 講師
 これは、PDFが見つかった。少なくとも2009年7月に「制度・サービスの理解」の講座の講師をしている。しかし、ここにも妙な履歴がある。

・社会福祉大学教授 ← 一体どこの大学??
社会福祉学博士 ← 社会科学博士ではなかったのか??
・社会福祉主事(全科目主事) ← 初登場、確認とれず
・訪問介護員1級 ← 初登場、確認とれず




謎が尽きず、どんどんと深まるばかりだ。


時間が惜しいので、これ以上詮索はしないが、かなり不思議な履歴である。


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なお、最後に資料として、彼の研究業績(リンク)をまとめておこう。


●論文
介護保険制度とケアマネージャー
聖母女子短期大学 (11) 82-88 1998年

●書籍
社会福祉事業の人事・労務管理論
筒井書房  1999年

日本社会保障の歴史(共著)
学文社  1998年

働く女性のための法律
小林出版  1996年

介護保険実践セミナー
帝京学園出版部  2000年

社会法概説(共著)
小林出版  1996年

●所属学会
日本社会福祉学会、労働法学会、社会保障法学会、全米老年学会、日本地域福祉学会
(所属学会については未確認)


介護関連の記事(リンク)



しかしよくこれだけ詐称しながらも、いろいろな仕事をしてきたな、と感心する。

言い換えれば、採用する側の履歴のチェックがそれだけ甘いということだろうか。