これは、広島原爆投下に
関連する物語である。
この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)/こうの 史代
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物語は、広島、そして、
呉で展開される。

淡々と、日常が語られる。

「冬の記憶」
昭和9年1月

周作とすずとの出会い。

「ばけもの」の登場。

「大潮の頃」
昭和10年8月

鬼いちゃん。

座敷わらし。

「波のうさぎ」
昭和13年2月

水原とのほのかなエピソード。

絵を描くことへの喜び。

という前史的な短編が
3本あり、そのあと、

「この世界の片隅に」
昭和18年12月~昭和21年1月

本編が展開される。

前史は、牧歌的な、
幸福な時代。

そして、本編は、ごくあたりまえのような
毎日を描きつつも、次第に、不穏な
空気が流れだし、いくつかの悲劇を
織りこんでゆく。

一見すると、嫁ぎ先での、
失敗談を中心とした、
つつましく、美しい、
新妻の奮闘記のような体裁。

すずがまた何か、変なことを
するのではないか、と
はらはらしながら読み進める。

不器用でありながら、
その不器用さがかえって、
周作の母や姉たちにも、
慕われ、受け入れられてゆく
さまには、ノスタルジーとして、
昭和初期のよき時代の
物語に私たちは、引き込まれる。

幸せな時代。

しかし、時代は、
不幸な時間を刻みはじめる。

最初のほころびは、
リンという、一人の女性。

知らなければよかったことを
知ってしまう。

しかし、この夫の「前史」については、
静かに、悲しみや苦しみを
湛えるも、むしろ、二人の、
互いに引きあった感情を
より強くさせることとなった。

そして、初恋の相手、水原の登場。

同じように、かろうじて、
いや、むしろ、夫である周作との、
固いきずなが紡がれてゆく。

だが、さらに、悲劇は起こる。

それは、一言でまとめてしまうと、
「戦争」そして「原爆」ということになるが、
大切なのは、そこで生きていた彼らの
日常であり、その人それぞれの生
である。

りんは、大切なものをいくつも失う。

失って、惑い、失って、憂う。

それでも、すずは、ある種の
逞しさを携え、生きる。

本当に、美しい作品である。

拙い感想を書くのが、いやになる。