大平貴之のブログ
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秋月電子の店員拘束事件(?)に思う事

世の大半の人には「秋月電子」って何?ってとこだと思うんですが、技術者特に電子技術者なら知らない者はいない。いや秋月の名を知らずに電子技術者を名乗るなくらいの存在の秋葉原の電子部品専門店です。
殆どの技術者はここで安くて他では手に入らないユニークな部品やキットを買って組み立て、技術者として育ちました。日本を支えた主要産業が電子産業ならこの店は事実上日本を育てた立役者と言ってもいい。
文化勲章を受章させるべきとまじめに思ってます。(本当に受賞したら
色々面倒なので受賞しないほうがいいけど(苦笑))

さてここで起きた問題は、ある女性客が、回路の作り方を店員に尋ねたけど対応が不満だった。2-3時間粘った。店の対応が失礼だったとネットに拡散した事に端を発します。

ネットで炎上しまして、ほとんどはこの女性客を非難する内容なんですが僕はここにちょっと待てよと思ったわけです。秋月は技術者の巣窟です。そしてTHE秋葉原です。電気の知識がある者だけが立ち入れる店なんです。僕も高校時代電気回路の知識が乏しい当時に秋葉原の部品屋に行き(秋月じゃないけど)「もっと電気を勉強してから来い」と言われたのを思い出します。アキバの部品屋の店員に愛想なんてありません。最初は面食らいますがそういう場所なんです。電気知識ある者だけが恩恵にあずかれる街だったんです。そしてそこは僕の認識する限り女っ気ゼロの、男の惑星だった。僕の青春時代そのものでもありました。

そこに女性客が乱入して騒ぎを起こした(女性の方ごめんなさい。でもそういう認識します)。店員の対応がなってないと。当然、秋葉原の掟を知る者たちは怒るわけです。「こいつ何言ってんだ?」と。
けれど女性客にとっては、部品の使い方が分からない客に対して丁寧に対応するのが当然なのです。それがお金をもらってサービスをする者の当然の態度だと考えているんです。レストランやブティック、ホテル。皆そうだった。だから秋月にだってそれを当然期待するわけです。
ところが秋月の店員は、もっと勉強してきてくださいという。何を言うのか客に対して?と思うわけです。この感じ方も間違っていない。

これは文化の衝突なわけです。もう一つ言えば、秋月電子は部品屋の中では稀なほど対応サービスが行き届いた店です。まがりなりにも技術的な質問に答える店員がいます。ある程度の会話ができる客には相当丁寧に答えてくれます。これは多くの方が賛同されると思います。
千石や若松などの他の部品屋ではそうはいきません。裏返すとだからこそ秋月で問題が起きたわけです。秋月電子は本来部品屋にはないサービスを提供した。だからこそ女性客は混乱したとも言えます。サービスがあるのに、女性客が当然と考える水準と違っていたからです。

 

男女の対比でくくることは不適切な面もあるかもしれませんが、僕は女性には女性へ然るべき対応が必要なんじゃないかと最近よく思うわけです。男女平等とは言いますが、何もかもイコールではなく、それは欧米ではレディーファーストと言う所の、女性をお姫様として丁重に遇する態度が男性には当然期待される。それは自然な事だと思います。僕はこの問題ではずいぶん悩んできました。以前、電車で女性部下を立たせて男性上司が座る話をしたら欧米ではありえない怒鳴られるぞと言われた。欧米が全て正しいわけじゃないけど、僕自身、部下といえど女性を立たせ男である自分が座るのは気分のいいもんじゃない。たぶん本能に反しているわけです。何はともあれ、男女を全く同じものとして扱う事は無理があるのは確かなようです。

このお客の怒りも、そのような違和感から出た気がするのです。そしてそれは恐らくは正しい。

 

「ここは一見さんお断り。シロウトの来る場所じゃねえ!」
こうしたある種のマッチョイズムへのノスタルジーの感情はどこにでもあって僕にもある。でもこうした古きマッチョイズムが随所の文化の衝突の中で非難を浴び、変化を求められている。ああ、これはある種の黒船です。
男女が古き伝統で棲み分けていた時代からフラットな時代になる中で、ここ、古い伝統文化、男の惑星の最後の牙城として象徴的だった秋月電子にもついにこの波が訪れた。だからこそ僕はここに敏感に反応するわけです。
文化混合の潮流の中で、秋月電子は、秋葉原は今までの姿でいられるのでしょうか?いるべきでしょうか?そして変化に飲み込まれた先には何が待っている?これから徐々に問われていくことになると思います。僕個人の願望はおいといたとしても。
皆さんはどうお感じになりますか?

プラネタリウムクリエーターが下町ロケット「佃製作所」を徹底検証(中編)

下町ロケットの序盤では、ライバルの大手企業との間で熾烈な特許紛争が描かれています。私も仕事上、特許を出願して権利化したり、他社と特許権をめぐる攻防も本作ほど熾烈ではありませんが、経験したことがありますので、この特許をめぐる一連の攻防は特に興味深く感じました。

作中では、ライバル企業が、佃製作所のアイディアを盗んだ上で逆に特許侵害だと訴えてきました。そんな事は本当にあるのでしょうか?

結論からいうと、あります


何故最初に発案した側が訴えられなければならないのか?その理由も作中で説明されているとおり、佃製作所は基本的なアイディアを特許として出願し登録されましたが、それを改良するアイディアは出願していませんでした。ライバルの中島工業はそこにつけこみ改良するアイディアで特許を出願したのです。特許出願は、アイディアに新規性があれば、たとえ他人の特許利用を前提としたものでも権利にする事ができます。ですから佃製作所がもし改良を加えた製品を出して、それが中島工業の出願内容に触れるものであれば、中島工業の特許に抵触する事になってしまうのです。繰り返しますがこの点は作中でも丁寧に説明されています。
中島工業が、ただ改良特許(改良発明)を持っているだけならそれで終わるのですが、中島工業がその改良発明を製品化していた場合は、それは佃製作所の基本特許にも抵触することになります。作中ではその点を突いて佃製作所が逆提訴し、結果勝訴(に近い和解)に至ったのでした。
特許侵害は、侵害された側が侵害されたと提訴しなければ成立しません。しかもその侵害の証明は厄介で時間とお金もかかります。本来は特許権のもとでは大企業も中小企業も対等のはずですが、訴訟を勝ち抜ける体力の大小は、訴訟の結果や、そもそも提訴できるか否かにもかかってくるのが現実です。だから中島工業は、自分たちが佃の特許を侵害していることは自覚しながらも、力の劣る佃製作所には自分たちを提訴する力はないと踏んで、改良発明の特許について提訴し、その結果予想外の返り討ちにあって自滅したというわけです。

とまあ、ここも作中の描写の通り。細かい説明不足はありますが、基本的には特許法をほぼ正確に描写しているといえます。
しかし、帝国重工からロケット用バルブの特許買取を打診されるくだりから、少し現実を端折っているなと思う点が出てきます。

帝国重工は開発したバルブの特許を出願したら、佃製作所に先を越されていた事が発覚したため、佃に特許買取の交渉をするわけですが、本来こういう場合、まず大企業側がする事は、特許の無効事由を探すことです。特許は出願したら必ず通るとは限らず、新規性(今までに同じアイディアが公然と知られていないこと)、進歩性(そのアイディアが今までにない優れた効果を齎すこと)が認められないといけません。その審査は特許庁の審査官が行うのですが、審査官も人の子です。特に新規性については、業界紙その他を調べてチェックはしますが、それでも見落とすこともあります。そして重要なことは、一度審査を通って登録された特許でも、後になって実は同様のアイディアが公然と知りえる形で公開されていた(公知)であることが発覚すると、その特許は取り消されてしまうのです。公知というのは、書籍や雑誌、学会誌など、不特定多数に公開されている情報、最近はインターネットの記述なども含まれます。審査官が全世界にわたって100%の審査を行うことは不可能なため、実は先行するアイディアがたとえば海外の小国のローカル誌などに掲載されていたとしても見落とされるということはよくあります。しかしこれは黙っていても発覚することはまずなく、誰かが、この特許は先行事例があり無効である(無効事由)事を証明し、特許庁に特許の取り消しを申請しなければなりません。これを無効審判請求といいます。

企業が他社から特許侵害の訴えを起こされた場合、最初にたいてい無効事由を調べます。そこで無効事由が見つかれば、逆に無効審判請求を起こし、特許を消滅させることを試みるのです。一説には、特許侵害訴訟の中で、およそ半分はこの無効審判請求により特許権が消滅し、原告が敗北するそうです。原告にとっては、侵害品の差し止めや賠償金取得ができないだけでなく、特許自体を消滅させられてしまうので、第三者による実施も防げなくなってしまい、ダメージが大きくなります。ですから、たいてい訴えられた側(実はいきなり訴えることは少なく、警告書を送る事からはじめる)は、無効事由を示した上で、自分だけに無償か格安で許諾してくれたら無効審判請求はしないでおく、などといって取引を持ちかけたりします。うーん、オトナの世界ですね(笑)

そんなことなら審査官がもっとシッカリ調べろよ、といいたくもなりますが、これだけ全世界に情報網が発達し、何億人もの人間が日々アイディアを出しているのですから、それにも限界があります。ですからこういう制度が設けられているわけです。

話がややこしくなりましたが、そのようなわけで本来、帝国重工がまずすることは、佃の特許の無効事由を調べることだと思います。そもそも佃製作所自身が、帝国重工のバルブが特許侵害している事に気づいていないのですから、帝国重工は余裕を持ってこれを行うことができます。そして次に佃製作所に対して無効事由を示し、無効審判請求を起こせばあなたの特許は消滅する。それをされたくなければ特許権を格安で譲るか実施許諾をして欲しい、と交渉を持ちかけるのです。勿論、無効事由が全く見つからない優れた特許であればそれは難しくなるわけですが・・いきなり20億円で買取を打診するのは本来なら早計すぎるなと思いました。

勿論ドラマですからそこまで細かく描いていたら話がややこしくなりすぎ、作品として価値が台無しです。本作では、有力な特許事務所が監修しているようですね。
それもあって、ドラマとしての面白さを保ちながら特許の描写も出来る限り正確にしているという印象を持ちました。

そのような次第で、本当はこれを後編にするつもりだったのですが、特許の説明だけで随分長くなりました。(実はこの説明でもまだだいぶ端折っています)、もし興味を持たれ、これ以上知りたい方は特許の入門書をごらんになることをお勧めします。

それでは、続きはまた次の機会にします。

プラネタリウムクリエーターが下町ロケット「佃製作所」を徹底検証(前編)

皆さん、昨年末にTBS系で放送された連続ドラマ「下町ロケット」はごらんになりましたか?

技術者を主役に中小企業の奮闘を描くという異色の内容に、普段ドラマを見ない40代以上の男性の視聴者を多く集めたそうです。多くの反響を集めながら、一部では本作で描かれる佃製作所の有り方について議論も飛び交っているようです。果たしてこのような会社は実在するのか?実在するとしたらそのあり方は?
放送終了したドラマで今更感もありますが、自ら技術開発を生業とし、中小企業を経営する一人として興味が沸いたので独断と偏見で論証してみました。

1.当社と佃製作所との共通点と相違点
舞台となる佃製作所は、中小企業といっても従業員200名程。一方私の経営する大平技研(14名)に比べると1桁の規模差があります。当社は大まかなグループ分けはありますが部課は存在せず部課長といった役職もありません。それに比べると大企業には及ばずとも組織ツリーが存在しているのが見受けられます。製造業という共通点はありますが、当社の場合は研究開発や設計製造が主体ではありますが、公共施設向けやイベント向けの一品物が主です。その一方でイベント企画や公演等、表に出て直接お客様に触れる仕事も多いです。そして会社規模の割には知名度が高い。一方佃製作所はエンジンという中間製品製造に特化していて、これをある程度量産して製品メーカーに卸す業態が殆どのようです。つまり一般ユーザーに触れる機会はほとんどないものと考えられます。より町工場らしいといえるでしょう。

2.佃社長の人柄
技術者出身ならではの、良くも悪くも経営や利益よりも技術開発を優先しがちなタイプ。これは私自身含め、技術系ベンチャー経営者ではありがちなタイプだと思います。ただし阿部寛演じる佃社長は技術だけに興味を持ち対人関係を苦手とする、いわゆるオタク型というより、社員との和や団結を重視する体育会系の気質も併せ持っているようですね。研究者には比較的稀なタイプですが、技術者の中には割りとよく見かけるタイプだと思います。

3.社員に徹夜残業させる佃製作所はブラックか?
さて、この辺から本題です。劇中しばしば描かれる徹夜シーンに、ブラック企業では?との声もしばしば見かけます。しかし私は、徹夜残業=ブラックと判断するのはやや早計だと思います。何をもってブラックとするかにもよりますが、ポイントは2つです。

a)残業手当は支給されているか?
b)徹夜残業は強制か?


この2点それぞれを論証してみます。
まずa)の残業手当ですが、劇中ではこれについて全く触れられていません。ですが、劇中では社員たちの会社に対する様々な不満が描かれているので、本来出るべき手当てが支給されていなければ当然それにも言及があるはず。となると一応この問題はクリアされていると見たほうがよさそうです。

続いてb)です。劇中では、社員たちは社長に共感し自ら進んで徹夜残業を引き受けているように描かれています。なのでブラックではない・・と言い切れるかは微妙です。確かに大半は進んで徹夜しているのかもしれませんが、200名もいれば、中には不本意な者もいる可能性は決して否定できません。そして大半が進んで徹夜しているからこそ、少数派の徹夜したくない派は、それを言い出すこともできずに嫌々徹夜している可能性もありそうです。

現実の企業経営ではこれは重要なポイントです。社員の不満は常に社長や経営陣の耳に入るとは限りません。少数派だからこそ見えにくい。そして少数派だからこそ声を上げにくく、その分不満は深刻なレベルに達しやすいのです。もし、その不満がある日爆発すれば、社内の和を乱したり、最悪は行政の介入や風評などの社会的なペナルティを受ける可能性だってあります。これが会社運営の難しく恐ろしいところでもあります。

皆で目標に一丸となって進むこと自体は悪くないと私は思っています。しかし同時に、サイレントマイノリティの声にならない声をどうやって聞き分けるか?も大いに考慮すべきところなのです。

4.佃製作所の一番ヤバかった点
ドラマを見ていて、私が経営者視点で一番気になったシーンは、実は主力商品の開発を担当する真野という若手技術者に、社長の夢である水素エンジン開発を命じるシーンでした。真野は主力商品の開発で手一杯であることを理由に難色を示します。しかし佃社長ら経営陣はそれを聞き入れず、それも大事だがこっちもやれと、ほぼ一方的に水素エンジン開発を指示するのです。はっきり言ってこれはまずいです。少なくとも私の感覚ではありえない。

従業員はあらかじめ定められた業務に携わっています。それには然るべき計画も立てられているはずです。突発自体で追加業務を頼まねばならないことは、あります。そしてそれを優先しなければならない場合もあります。会社を取り巻く状況が動く以上、業務の急な変更はあって然るべきなのです。だから水素エンジン開発を指示する事自体は必ずしも間違っていません。

しかし問題は、現業との両立を無理強いしたことです。真野は闇雲に拒否しているのではなく、現業が佳境なため、両立が出来ないとアラームをたてているのです。むしろこういう時に無理だとハッキリ言ってくれる従業員のほうが稀で、大半はそれを言い出せず、問題を発生させてしまう事も少なくありません。

したがって、上司や社長は、労務状況の管理を普段から慎重に行い、もし意見を言われたならば、それは貴重なものだと受け止めて真摯に耳を傾ける必要があります。劇中であれば、少なくとも本当に両立できないかを検証した上、無理があるのなら、その解決策、例えば主力商品の開発スケジュールの見直しや新たな人員配置など、代替案を検討、提案しながら本人を説得すべきでした。
 ここで無理を通せば、本人を過重労働に追い込み、労働コンプライアンス上の問題が発生するだけではありません。現行商品か水素エンジンのいずれか、場合によっては双方の開発に問題が発生する恐れがあります。特に現行商品の品質に問題を出せば、それこそ会社を窮地に立たせかねません。しかもそれが本人の責任ではなく、経営陣の無理強いが原因においてです。こういう無理強いをすれば、言い方は悪いですが、社員は逆に、経営陣に責任を負わせながら、中途半端な仕事をする事も可能になってしまうのです。
色々な意味でこれはヤバイ、と強く思いました。

5.信じあうのがメインバンクとの関係か?
本作ではメインバンクが、理解のない薄情な存在として描かれています。佃製作所の研究開発を道楽やガラクタ呼ばわりする銀行担当者の態度は明らかに非礼かつ非常識。この点は銀行側に大いに非があります。私はこのような非礼な行員に合った事はありませんが、それほど多くの銀行と付き合った経験があるわけではないので、そういう行員がいるのかどうかも判りません。もし実在したらどうでしょうか?このような無礼な態度を取れば当然客離れを起こしますし、万一明るみになれば銀行そのものの予測しがたいイメージダウンに繋がるリスクがあるでしょう。特殊な事情でその企業との関係を切るため、わざと怒らせる戦略も論理的にはあるのかもしれませんが、いずれにしても銀行にとってリスクが高すぎるやり方だと思います。

とはいえ、形勢逆転後の佃社長の態度もまた疑問があるのです。佃社長は、良いときも悪いときも信じあっていくのがメインバンクとの関係だと説きます。しかしこれは筋違いだと私は思います なぜなら佃製作所がそうであるように、銀行もまた利益追求をする営利企業であり、当然、融資のリスク判断をする権利もあるからです。特に金融業界においては、安易に相手を信じて杜撰な審査の融資を重ねた結果、不良債権を膨らせた悪夢もあるのです。銀行が融資判断を慎重にするのは当然であり、いかなる理由でも難しいと判断されたならばそれを飲むしかない。佃社長のすべきことは、融資を見送った銀行を道義的に責めるのではなく、銀行にとって融資をするメリットを明快にプレゼンすることだったのではないでしょうか。

如何だったでしょうか?
今回はこの辺にして、残りは後編に続きます。
特許紛争のリアリティ、帝国重工・財前部長との関係、後編に登場するサヤマ製作所との関係などにメスを当てていきます。

こうご期待!



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