遊郭の廃止と赤線・青線 | C.I.L.

遊郭の廃止と赤線・青線

松沢呉一氏が記事にしているが、先日Twitterで大阪のクラブ摘発問題に関する討論が起きたんだが、その渦中の人間が非公開設定にして逃亡する という 「お約束の展開」 になってしまった。

記名で記事を書いている人間 だってのに情けない。

その一連の問題の中でも、特に売防法・風営法について松沢氏が記事をアップしているのだが (お部屋2305/風営法とダンスホール ) 、どうも今回逃亡した記者は 【○○→遊郭廃止→売春防止法→風営法】 といった歴史の流れを全く知らないで記事を書いてしまった事が発覚した。(○○の部分は後述)

それだったら最初から 「現在の風営法とクラブシーン」 だけに話を絞って書けばいいのに。なんで欲をかいて遊郭廃止だの売防法だのにまで手を広げてしまったのだろうか?

性風俗史については、松沢呉一に限らず、小うるさい学者気質の知識人が多いからヘタ打たない方がいいと思うよ?

というわけで、今回は呉一さんの記事で軽く流されている部分を補足しておく。


☆ 「遊郭廃止は売春防止法の施行によるものだ」 という大嘘
戦後のセックスワークを取り巻く法律の変化を正しく理解するためには、まず 「遊郭とはなんぞや?」 「公娼とはなんぞや?」 「赤線・青線とはなんぞや?」 といった、最低限の基礎知識を知っておかねばならない。

遊郭とは、私がブログで何度か取り上げている 「板橋遊郭」 のような、宿場町時代から営業していた遊女屋のこと。これらはお上の許可を得て営業されており、働いている遊女達は公娼ということになる。対して勝手に売春してる私娼もいたが、これらは取り締まりの対象となり、見つかったら遊郭に送られる(管理下に置かれる) といった処置が取られていた。

またよく言う 「赤線・青線」 というのは、赤線が合法で青が非合法と覚えておけばまず間違いない。警察が地図上の風俗営業が認められている地域を赤い線で囲ったことから赤線という言葉が誕生したと言われているのに対し、青線という単語の誕生には諸説ある。

1.赤線が公の存在だったのに対し、青線は許可を得ていない地下風俗的な扱いだったため、「警察がわざわざ設定していたわけじゃなく、新聞記者らが対比する為に作った造語ではないか?」 といった説。

2.青線とは 「性サービスのない通常の飲食店の営業許可を出している地域を青い線で囲んだって話じゃないか?」 という説。

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※以下の部分はコメント欄で松沢さんからのツッコミが入りました

余談だが、赤線・青線の他に白線(バイセン) や黒線なんて単語もあった。これはアメリカの駐屯兵相手の娼婦・娼館を刺し、白が白人専門で黒が黒人専門だと言われているが、これらは当然 「警察が白い線と黒い線で~」 なんて話ではない。肌の色から生まれた隠語の類だろう。
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さて、肝心の 「遊郭廃止」 についてだが、これは売防法ではなく、GHQの 「公娼廃止令」(1946年) によるものである。それによってそれまでの公娼を管理する法律が廃止され、新たな内容に書き換えられた。(1947年)

売春防止法はこれより10年も後の話なので、「遊郭(=公娼)」 の廃止について語るならば 「公娼廃止令によってなくなった」 と言わねばならない。

ただし、今回槍玉に挙げられているライターのような間違いが横行するのも仕方ないと思える面もある。フォローする訳じゃないが、セックスワークには常に 「表立って語られないゴニョゴニョ……」 が多すぎ、【公娼廃止令→遊郭の廃止→売春防止法の施行】 という流れの中にも、まさに 「それ」 があるのだ。

「それ」 が何かと言うならば、先ほど説明した 「赤線」 である。

公娼廃止令によって遊郭や遊郭街はなくなったが、それによって遊郭だった場所が消え去った訳ではない。それらは 「特殊飲食店の営業許可を得た合法的な店」 や 「特殊飲食店の営業が許される地域」 として、特殊飲食街(=赤線) に名前を変えただけで残り続けたのだ。

この赤線地帯は取り締まりの対象から外され、実質上 「遊郭街がそのまま続いたも同然」 となっていた。しかしそれでは意味がないとなり、今度は売春行為自体を罰する法律が施行された。これが1957年の売春防止法の誕生である。

これによって赤線地帯も消える事となるのだが、刑事処分には1年間の猶予期間があり、1958年4月以降も売春業を営む者には刑事罰が与えられる事となった。

というわけで、売防法によって消えたのは 「赤線」 であって 「遊郭」 ではないという結論になる。



今回はざっくりとした説明だけにとどまったが、「遊郭街」 と 「赤線地帯」 は明確に分けないと時系列がごっちゃになり、またセックスワーク問題特有の隠語やら表面化しないアレやコレといった話題が山積みなので、細かい話だけどキッチリ勉強してから記事を書くべきだと思う。

先にも言ったけど、クラブシーンについて語りたいだけならば、無理に遊郭の時代まで遡ったりしなきゃいいのに。しかも的確なツッコミを入れてくれた相手に対して 「面倒臭いから」 と言ってTwitterを非公開にして逃げるってのはプロとしてどうなんだろう?



■追記
赤線問題について松沢さんが何か面白い資料を見付けているそうなので、後日板橋名物の安酒漬けにして勉強させてもらいます。