『日本ゲーム史における廃墟』 | C.I.L.

『日本ゲーム史における廃墟』

PCのフォルダ整理をしていたら、自分のサイトにアップした記憶のないテキストが出て来た。

「なんだったっけコレ?」 と必死に記憶の糸を辿ったところ、以前テキストサイト時代からの知人であるopi兄さんやトトロ大嶋氏らが 「廃墟DVD」 を発売した際に、記念に寄稿した文章だった。

opi(仕事場)
トトロ大嶋(個人ブログ)
廃墟DVDオフィシャル
追憶の廃墟 THE LOST PLACE(amazon)

<このDVDに収録されている廃墟物件>
・奥多摩ロープウェイ
・ゆうもあ村
・小曲園
・山本園
・軽井沢モーターロッジ

廃墟マニアはこれらの物件名を見ただけで 「有名どころを抑えたなー」 的な感想を持つと思う。しかしこのDVDには取り壊し工事前と工事後の小曲園の様子を収録しており、「廃墟とはいつか無くなるものである」 という美学を理解している人間が撮ったんだと理解してもらえるんじゃないかと。

「どうして廃墟になったのか?」 とか、「ここに住んでた人達はどうなったんだろう?」 といった過去を思う気持ちも大事だが、それと同じくらい 「今ここにある廃墟は1年後にはないかもしれない」 という切なさ、言ってみれば一期一会の感覚も、忘れてはいけない廃墟の魅力なのである。

ついでに言えば、そういう気持ちを持つ人間は廃墟を訪れても絶対に荒らしたり、建物に傷を付けたり、はしゃぎ回ったり、物を盗んだり、事故が起きるような迂闊な行動はしない。それこそが真の廃墟ファンである。

このDVDの撮影の時みたいに撮影許可を取って入る(許可が取れなかったら諦める) 廃墟ファンなどいたとしても少数で、基本的に不法侵入なのだから、せめてその辺の節度は守って欲しいなと。どうせ言ったって無駄だろうから 「不法侵入はやめよう!」 なんて言わないけど、大事な廃墟物件で事件・事故とかマジで勘弁してくれと。

でもねえ、廃墟ってのは実際に行ってみると本当に 「呼ばれる」 感覚が沸き起こるんだよねえ。頭じゃ 「不法侵入イクナイ!」 と思っていても、目の前に広がる圧倒的なまでの非日常的空間を見てしまうと、どうしても理性がすっ飛んでしまう。オレには下手の横好き程度の写真を撮るくらいしか出来ないけど、「今この瞬間を残したい」 という感情が抑えられなくなるんだなあ……。


そんな前置きをしたところで、掘り出したテキストを貼り付けてお手軽更新してみる。


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『日本ゲーム史における廃墟』

2003年に発売された家庭用ゲームに、実在の廃墟や廃屋の映像を取り込み、CG加工を施すことによって、今までに無い臨場感と恐怖感を実現した大ヒットホラーゲームがあった。その名を『SIREN』と言い、ゲームファンだけでなく廃墟マニアの間でも大きな話題となった作品だ。

この作品のおかげで、今では『廃墟とゲーム』と言えば『SIREN』という事になってしまっている感があるのだが、実はそれ以前にも廃墟に重要な意味を持たせたゲームは数多くあった。

この記事ではこうした『日本のゲーム史に登場した“名廃墟”』を紹介していこう。

※ 厳密に言えばRPGなどに出てくるダンジョン(洞窟、塔、ピラミッドなど)は全て廃墟と呼べるのだが、ここではゲーム中でも『廃墟』として登場した場所のみに限定する。


<廃墟になった町>
最も有名な物件は、なんと言っても『ドラゴンクエスト1』に登場した『ドムドーラの町』だろう。朽ちた建物と毒の沼、そしてそこに隠されている最高の防具『ロトの鎧』と、それを守る『悪霊の騎士』という強敵。大ヒットゲームだけに、今でも強く印象に残っていると言う人も多いはず。

実はこの『ドムドーラの町』は、作中で魔物に襲われて廃墟になったという話が語られている事もあり、廃墟マニアが廃墟に求める「廃墟になるまでのプロセス (歴史)」や、廃墟には何かが隠されているかもしれないという「探究心」を満たしている、非常に魅力的な物件なのである。このドラクエ1以降の RPG(ファイナルファンタジーなど)にはお決まりのように「廃墟化する町や城」が登場しており、そういった場所には必ずといってよいほど強敵が潜んでいたり、重要なアイテムが隠されていたりする。そういった意味で『ドムドーラの町』は、ゲームに登場した「実在の廃墟と同様の魅力を兼ね備えた廃墟物件」の先駆者的存在なのだ。


<閉鎖された施設>
『イース1』に登場した『廃坑』などが代表的だろう。以前は鉱山として多くの労働者達がいたはずなのだが、いつからか魔物が徘徊するようになって、今では閉鎖されて誰も近寄らなくなってしまった。そんな背景を持つこの物件は、主人公の周囲のわずかな空間しか見渡せず、実際の廃墟と同様の「暗さ」や「閉鎖感」がよく再現されている。

また『真・女神転生3』に登場した『地下鉄の駅』も、廃墟マニアにとって大変素晴らしい物件である。ここは普段は人で溢れる場所なのだが、後に人の代わりに悪魔が溢れるようになってしまい、巨大な閉鎖空間と化してしまう。そして主人公はそんな危険な線路を歩いて次の目的地を目指すこととなる。ちなみにこの『真・女神転生3』は、全体的に終末感や退廃的なイメージで統一されており、さらに冒険の舞台となる場所がすべて3DCGで描かれているため、全編通して「廃墟探検気分」を思う存分味わうことが出来る逸品である。


<魔物の住みか>
古くは『悪魔城ドラキュラ』の『廃城』であったり『バイオハザード』のステージ全般がこれにあたるのだが、やはり廃墟マニアとしては先にも挙げた『SIREN』の名を出すべきだろう。私自身が『SIREN』の舞台となった場所を訪れたことがあるためか、このゲームを遊んだ時の恐怖感は並大抵ではなかった。特にとある廃村にゾンビが徘徊していたシーンが今も強く印象に残っている。現実世界では夢中でシャッターを切っていた美しい場所だったのに、ゲーム中では死の恐怖に支配された魔界と化しているのだ。この奇妙な感覚はしばらく忘れられそうにない。ちなみに蛇足になるが、この『SIREN』にはTVCMが「怖すぎる」という理由で放送中止になったという逸話がある。ホラーゲームとしては勲章のような伝説だ。


<無人の閉鎖空間>
大ヒットしたサウンドノベル(小説風アドベンチャー)ゲーム『弟切草』の舞台となる『無人の洋館』などが代表的。廃墟的な空間で魔物と戦う、もしくは襲われて逃げるというゲームは数多いのだが、このゲームにはそういった「敵キャラ」は存在せず、「壁から血が出る」「無人のはずなのにどこからか音がする」といった、心理的ホラー描写が主となっている。そういった意味では「廃墟の持つ恐怖感」をもっとも的確に表現しているゲームといえるかもしれない。

またゲームではなくアトラクションになるが、昔から遊園地の名物として認知されている『お化け屋敷』も、分類するならここに入れるべきだろう。極論になるかもしれないが、ボロボロの廃屋に忍び込んで恐怖体験を味わうという『お化け屋敷』の流れを、TV画面で手軽に楽しめるようにしたのが『探索系のホラーゲーム』であり『RPG』なのだ。そういった意味では、実はこの『お化け屋敷』こそ、ゲームと廃墟の橋渡し的な存在なのである。


<遺跡>
知名度だけを考えたら有名どころの『アトランチスの謎』の舞台となる『アトランチス遺跡』を挙げたいところだが、このゲームは遺跡内でダイナマイトを投げて敵や障害物を排除するという、温厚な廃墟マニアとしては我慢ならない物騒な作品のため、この場ではちょっと除外させていただきたい。(破壊衝動を持つ廃墟マニアの願望が現れていると無理矢理にこじつけられなくもないのだが…)


という訳で、少々マイナーになるが日本ファルコム社の隠れた名作『太陽の神殿』を例に挙げたい。この作品はピラミッドや古代遺跡などを舞台にした、超難解推理アドベンチャーゲームである。主人公は失われたマヤ文明の秘密を探るため、メキシコの『チツェン・イツァ遺跡』を探検することになる、というのが大まかなストーリー。プレイヤーは失われた文明に思いを馳せつつ、実在する『チツェン・イツァ遺跡』そのままの配置、外観を再現したマップ内を探検して回るのだ。『遺跡』とは長い時間を経た『廃墟』であるから、これぞまさに「廃墟探検」そのものを表現したゲームだと言えるだろう。

さて、簡単に『日本ゲーム史』に登場した代表的な廃墟を振り返ってみたが、こうしてみると『廃墟』とは実に『ゲーム的』な存在だと理解していただけたと思う。

一見興味のない人間には理解し難いように思える『廃墟』でも、実際に触れてみると思いのほかすんなりと受け入れられてしまう背景は、意外と「予めゲームで予習していたから」という要因によるものなのかもしれない。