第19期麻雀マスターズ覇者。
それはもう遥か彼方の夢物語だとしか思えなかった。

本戦の約240名に入るのが最初の条件クリア。
僕は九州本部の推薦枠になんとか滑り込む形での参戦となった。
ビッグタイトルを獲得するため東京へ来るのはこれで3度目。
新人王、王位戦、そして今回のマスターズ。
新人王は4回戦足切り。王位戦は5回戦足切り。
東京への遠征ではいい結果を残せないままの僕は、今回こそはある程度の結果を残したいなぁなんて考えていた。

九州本部からの参加者は10名。
浜上文吾プロ。安東裕允プロ。ジャガー真鍋プロ。青木胤道プロ。新谷翔平プロ。筒井久美子プロ。高木祐プロ。吉武みゆきプロ。三井聡志プロ。私。
そしてアマチュアの高橋勝さん。歴代王位の羽山真生さん。

浜上p、安東p、高木p、吉武pと一緒に始発の飛行機に乗り当日入り。
新橋へ着き、SL前で前日入り組と合流する。
このSL広場から、早速有名プロが次々と登場する。
王位戦本戦でやってきた時のことを思い出し、その時より少し落ち着いていてほどよい緊張感に包まれている自分を認識。
とにかくやれることをやるしかない。

会場入りすると名札と用紙が配られる。
九州本部は全員「白鷺」という別会場。
本会場の入り口前で九州本部が集まり待機していると、名だたる麻雀プロが次々と通る。
それを見て興奮する高木。そりゃそうだ。
王位戦本戦で味わっているとはいえ、私だって興奮している。

別会場へ入り待機していると、こちらにもまた次々にすごい人が入ってくる。
興奮しつつも、自分に言い聞かせた。
「自分も随分この競技と向き合ってきた。十分戦えるはずだ」
瀬戸熊プロからの大会概要説明が終わり、いざ対局へ。


1回戦
勝又健志プロ(連盟)冨澤直貴プロ(協会)後藤竜也さん(アマ東京代表)
▲15.1 3着

東3局の東家、二五六六七七八666788にツモ6。ドラは字牌。
リャンペーコーの手変わりや広い待ちへの手変わりがどうだとか言う前にリーチしそうなところなのだが、少し迷ってしまった私はダマを選択。
数巡後4をツモ切る時にリーチしたくなるが、あからさますぎてできない。
すぐに7が出て3900。
このアガリ以外は何も出来ず。
ほとんどの局面で受けに回らされ、とことんツモられる。
他家がアガリ続け、放銃なしで19900まで減らされた。


2回戦
沢崎誠プロ(連盟)荒井節子さん(アマ東京代表)松本豊さん(アマ宮崎代表)
+21.6 1着 トータル+6.9

小場が続く。
上から下まで10000点以内のまま、場だけが進んでいく。
南2局 一二三六七①②③11579 ツモ九 ドラ五
打5。2巡後ツモ五、打九リーチ。
9は場に3枚。その内2枚は私が切っている。そして場にソウズが安い。
これが止まったら人間じゃない。
2フーロしてテンパイ気配の沢崎プロが8をツモ切る。
裏が乗って5200。これが勝負の分かれ目だった。


3回戦
中村毅プロ(連盟)三木敏裕プロ(協会)新妻俊哉さん(アマ東京代表)
+24.8 1着 トータル+31.5

よく手が入り、ゲームの軸を取った。
三四五東東東東北北北白発発 ツモ北
マンズは全員乱れ打ちしている激安カラー。場に五が3枚出ている。
下家の三木pが国士していて、結構雰囲気もまずい。あわや大惨事がないとは言い切れない気配なだけに東が打てない。
困っていたところに4枚目の北をツモり救われる。ツモ切り。
次巡ツモ六、打東。上家新妻さんからリーチ。私は現物をツモ切り。
対面の中村pが現物の発を切り、私がポンテンを入れる。
場に1枚切れの白か三の選択に小考。三は安全牌。
しかしあまりのマンズの安さから、打白。その時の形がこれ。
三四五六東東東北北北 ポン発発発
次巡ツモ七もツモ切り。
切る牌がなくなったのかもしれない中村pから三が出て8000。
これはかなり大きなアガリだった。
ていうか国士は何シャンテンだったんだ……読み間違い(笑)


4回戦
優木美智プロ(連盟)西岡慎泰プロ(連盟)山本悠哉さん(アマ東京代表)
+15.0 2着 トータル+46.5

東ラス、親の優木プロから先制リーチ。
私も追いかける。
三四五六七八九九④⑤789 ドラ九
これをツモって裏乗って3000/6000。
次局、またも早い手が入り、メンピンリーチ。三六待ち。
するとすぐに優木プロが追いかけリーチ。
ドラのカン⑤を一発でツモられ裏裏。3000/6000。強し。
優木プロ「さんぜんろくせんの3枚…あっ」
3枚て!(笑)

ここまでの成績でマイナスポイントの人は敗退。
一気に半分くらいになる。
5回戦は本会場での対局となった。


5回戦
犬見武史プロ(連盟)石津寿人プロ(連盟)濱博彰プロ(協会)
+11.3 2着 トータル+57.8 4回戦終了時ボーダー+32.6

誰が何周目をきっちり確認。
これは浜上さんの教え。
誰がポイントを持っていて、誰がデカトップ条件なのかを知れば、おのずとそれぞれの戦い方が浮き彫りになる。
その心理を利用して、うまく戦えたと思う。
でも終始きつい戦いだった。
比較的楽な条件になったと思ったラス前の跳満親かぶりは、本当勘弁してくれと思った。
オーラス、三暗刻ドラドラ④ロンで生き残り確定。


51名に絞られ、更に昨年の決勝進出者3名、鳳凰位、十段位が参入し56名でトーナメント。
九州本部からここに残ったのは、私と浜上副本部長。
一緒にベスト28に行きたい。心から願った。

同じメンツで2回戦打ち、上位2名が次の日のベスト28に進出。
卓組発表を聞いて焦る。
荒プロ、山田ヒロプロ。
卓についた時、今まで保っていたほどよい高揚感は、手に汗が滲み息が詰まりそうな緊張感へと姿を変えていた。

6回戦7回戦
荒正義プロ(連盟)山田ヒロプロ(連盟)床井憲慈さん(ロン2代表)

6回戦終了時
床井さん+29.4
小車+8.2
荒p▲10.9
山田p▲27.7

対局前、浜上さんに「どう戦えばいいでしょうか?」と聞くと「もうぶつかっていくしかないよ」と言ってもらう。
どんなに緊張しようと、いつもの自分らしい麻雀を打たなければならないという思いで等身大の自分をぶつけた。
7回戦、荒pがほぼ確定の位置につけ、私と床井さんの勝負になる。
ラス前の床井さんの親番、テンパイノーテンでなんと二人の点差は0になっていた。
そこへ山田pが絶対高いリーチを打ち、ツモ清一色4000/8000。
この親かぶりで4000差で優位に立つ。

あとは山田pはアガリ続けるのみ。
荒pは無理せず、早く終わらせたい。
私はアガれば確定だが放銃はできない。そして敵が下家である以上、簡単に鳴かせるわけにはいかない。
床井さんは1000/2000ツモか2600直撃か5200出アガリ条件。
自分に軽い手が入って仕掛ければ、おそらく荒pが手伝ってくれるであろうことはわかっていたが、悲しいことに門前手。
だったらできるだけ下家に辛く打ちながら手を進める。
誰も動かず流局気配の中、残りツモ1回のところで山田pが床井さんから仕掛けてテンパイ。
床井さんはノーテンで点差は変わらない。
あえて親に鳴かせて連チャンさせたのならやり手だなぁなどと考える。

次局、やはり門前手。
ピンフ手で仕掛けられそうにない。
山田pリーチ。打てない。当然受ける。
が、床井さんは違った。押す。押す。
頼む、刺さってくれ。そう願った直後、床井さんが親に放銃。2900は3200。
これで7200点差。少し楽になるが、まだわからない。

次局、また門前手。もういや。
絞る。とにかく絞る。
床井さんに高い手が入らないことを願う。
じりじりと巡目が進み、ハイテイ前、私が「カン」と発声した時点で、親のテンパイの可能性は消えたのだそうだ。
リンシャン牌をツモ切り、テンパイノーテンで3000点差埋まるも、なんとかトータル2着でベスト28進出。

「鳴ける牌なかったの?いくらでも鳴かせてあげるのに」
荒pが笑いながら話しかけてくれた。
「なかったんですよ。門前手ばっかり」
そんな会話が荒pとできるだけですごい喜び。

浜上さんはここで奇しくも敗退。
九州本部からは私だけが2日目に行けることとなった。
九州本部で、マスターズ本戦に来たくても来れなかった人。本戦で思うような展開に恵まれず敗退してしまった人。
その人たちの無念を背負って戦うことになった。
悔いの残る対局をすることは絶対に許されないと思った。
すでに、私一人の戦いではなくなっていたのだ。


続く