8.何度も何度も 諦めかけた夢の途中
広々とした牧場を見ながら走ります。牛を見ながら走る大会は、ほかにもいくつかあります。でも、北海道でも馬産地で行われている大会というと、ほかにはほとんどありません。これだけのサラブレッドを見ながら走れる大会というのは、私も初めてです。
そんな馬を眺めて走っていたせいか、はたまた尿意との戦いが徐々に厳しさを増してきたせいか、8kmの表示も見逃してしまいました。ペースに変化があるのかどうか確認はできませんが、体はまだまだ余裕を持って走っています。体感的にはイーブンペースで走れているはずです。
9kmの表示はしっかりと見つけました。6kmからの3kmはちょうど17分で走れています。キロ5分40秒平均ですから、なかなかのペースで走れています。
10km地点には関門が設定されています。そのタイムは1時間30分。私はここを59分17秒で通過しましたので、まったく問題はありません。この間の1kmは6分03秒かかっていますが、特にペースが落ちたり体がきつくなったりしたという感覚はありません。まだまだ大丈夫です。
スタートロスがあるとはいえ、ここまで1時間をちょっと切るくらいのペース。2時間を切るには、後半かなりペースアップをしなければなりません。ここまできたら、ロングスパートも可能な体調にも思えます。でもここで無理をして故障を悪化させたら元も子もありません。2時間切りを諦めかけました。
でも、私の中に迷う気持ちがあったことはたしかです。知らず知らずのうちに、ペースは若干上がっていました。11kmのラップが5分32秒と、これまでの最速を記録していたことがそれを物語っています。
ところがここで私はまたペースダウンを余儀なくされます。11km地点のすぐ先に、仮設トイレが3台ありました。ここで私は小問題を片付けにかかりました。3台の内、先客がいたのは1台のみ。残りの2台は空いています。
速やかに用を足したいところですが、タイツを履いていて、それが汗で濡れているため、なかなか思うように脱げません。しかも我慢をしていたため、量は多いうえに一気に出てくれません。思った以上に手間取ってしまいました。
トイレを出たときは、3人ほど待っていました。もちろん私だけのせいではないとはいえ、ちょっと申し訳なかったです。
11km地点の通過タイムは1時間04分49秒でした。残り約10kmをほぼ55分、つまりキロ5分半ペースに上げて走って、やっと2時間で走れるというペースでした。ところがこのトイレで大きなロスタイムです。2時間切りはますます遠ざかってしまいました。12km通過ラップは7分42秒です。2時間切りは諦めてイーブンペースで走りきるしかないな、とまた諦めかけました。
青空が広がり、きれいな牧草地が広がる中を気持ちよく走りました。こうして余裕あるペースで走るからこそ、景色も楽しめます。写真を撮りながら走ることもできます。今日はそういう走りをしようと思っていたわけですから、それにタイムまでを要求すると相反する走りとなってしまいます。
ここで放牧されているサラブレッドたち。このあたりの道路を、車が走るのは見たことがあっても、これだけの人が走っている姿を見るのは初めてでしょう。母馬とこの春生まれたばかりの当歳仔と、連れだって私たちを眺めています。普段は馬が走るのを人が見ているわけですが、今日ばかりは逆転しています。まさか勝馬投票券ならぬ、勝人投票券までは発売されていないでしょうが・・・。
こんなときに限って、13km地点の表示を見逃してしまいましたが、どうやら給水所の先が13km地点だったようです。ここでも馬と人の応援があり、給水を取ったりしていたら、距離表示を見落としていました。
ようやく14km地点でラップを確認すると11分24秒でした。これはキロ5分42秒ペースです。イーブンペースを守って走っています。
ここまでで21km/28km。全体の4分の3を走り終えました。あとわずかで終わってしまいます。
でも、体の方はまだ余裕を感じています。腰も悲鳴を上げているわけではありません。最近は練習でもキロ6分を切って走ることはできませんでした。それが今日は、コンスタントに6分を切っているというのに、練習のとき以上に痛みを感じていません。むしろまだまだ余裕を感じています。これもレースの雰囲気に酔ってしまっているからでしょうか。
とはいえ、5分40秒ペースでは、ここから2時間を切ることはできません。残り距離が少なくなるにつれ、僅かな希望がどんどんしぼんでいきます。諦めの気持ちは徐々に大きくなっていきます。
でも足はむしろ軽快に動いているようです。15kmのラップは5分35秒と少し上がりました。ここまでのタイムは1時間29分30秒です。
突然私の頭の中で、数字がぐるぐると動き始めました。(つづく)