愛の国から幸福へ | 神社仏閣旅歩き そして時には食べ歩き

神社仏閣旅歩き そして時には食べ歩き

還暦を過ぎて体にトラブルが出始めて、ランニングを楽しめなくなりました。近ごろはウォーキングに軸足を移して道内の神社仏閣を巡り、御朱印を拝受したり霊場巡礼を楽しんでいます。いつかは四国八十八ヶ所巡礼や熊野詣をすることが夢です。by おがまん@小笠原章仁

 ♪幸福行きを二枚ください 今度の汽車で出発します


 芹洋子さんが歌った、愛の国から幸福へ。この曲は、1974年のヒット曲だ。


 ちょうどその頃、一大ブームとなった幸福駅。なんでも、あるテレビ番組で紹介されたことがきっかけだったらしい。


 当時の国鉄広尾線。帯広から広尾までの84kmを結ぶ路線だったが、そこに愛国駅と幸福駅があった。


 そのテレビ番組で紹介されて以来、爆発的な人気となり、全国から観光客が訪れるようになった。愛国から幸福行き切符も、ピークの年には300万枚も売れたとか。しかし慢性的な赤字路線だったため、JRの分割民営化を前にして国鉄広尾線は廃止となり、愛国駅も幸福駅も廃止された。


 しかしどちらの駅も、周辺整備されて現在も残っており、いまだに多くの観光客が訪れている。


 その幸福駅まで、我が家から20数キロ。帯広に着任したときから、いつかは走って幸福へ行こうと思っていた。


 その日が、ついに訪れたのだ。


 午前9時過ぎ、自宅をスタートする。お供はもちろん、NIKE+とipod。でもipodは6時間しかバッテリーがもたない。いちおうサブとして、フォアアスリートも持っていく。


 国道236号に出て、そのまま広尾に向かって走る。ときおりipodでペースを確認しながら走るのだが、おおむねキロ6分15秒前後のペースを刻んでいた。決して無理をしているわけじゃない。自然体で楽に走ってこのペース。練習内容を変えたおかげで、スピードが身についてきたようだ。サロマでもこの走りができれば・・・と、都合のいいことを考える。


 徐々に郊外に向かい、景色も単調さを増してくる。それに加えて、直線路が多い。延々と続く道。いったいどこまで続くのだろうと、気持ちも滅入ってくる。郊外に出てからは信号もない。序盤は体力的にも問題はないから、特に休憩もとらずに走り続ける。


 そのうち、川西の集落に到着する。景色にも変化が現れ、ちょっとホッとする。ここからは札内川にかかる橋を渡ると、間もなく愛国駅だ。全行程50kmを予定しているうち、約4分の1。ただそれにしては、ダメージがちょっと大きいかも。ちょびっと不安になった。


 やがて愛国駅に到着して、ここで一休みとする。


愛国駅


 愛国駅は、現在は交通記念館として利用されていた。駅舎内には当時の資料なども展示されており、ホームには、かつて広尾線を走っていた9600形蒸気機関車も展示されている。


愛国駅SL


 駅の向かって右手には広場が設けられており、そこには愛国から幸福行き切符のモニュメントもあった。


切符モニュメント


 駅前にある小さなみやげ物店には、愛国から幸福行き切符のレプリカも売られていた。かつては私も本物を持っていたはずなのだが、今ではどこへ行ったやら(だから幸せが逃げていくんだな)。せっかくなので、家族の分、4枚を買っていく。ケース入りのものもあったのだが、個人的には切符そのままのものをほしかったので、これを買った。


幸福行き切符


 ここではけっこう休んでしまい、慌てて幸福を目指して走り出す。


 ここから幸福までは地図で見ると11kmくらい。一気に行くつもりだったのだが、愛国と幸福のほぼ中間に位置する大正に到着すると、気まぐれで旧大正駅も見に行ってしまった。このあたり、そろそろ休む口実がほしくなっていたのかもしれない。


 それから再び幸福駅を目指して走り出す。1kmがだんだん長く感じ始めるようになる。ipodを確認すると、6分30秒から40秒くらいのタイムにもなっている。まずいなぁ。せめて往路はペースを落とさずにいきたかったのに・・・。


 大正の市街地のはずれにコンビニがあった。走っている反対側の歩道だったのと、大正駅で休憩した直後だったので通過したのだが、通過したとたんに腹が減ってきた。しかし見渡す限り、店はない。幸福駅の売店に食べ物があるだろうか・・・。


 幸福駅のかなり手前から、オレンジ色のディーゼルカーが見えてくる。おかげで元気が出た。あそこまで行けば休むことができる。もしかしたらメシにありつけるかもしれない。すでにダメージを感じ始めていた私だった。


 ようやく幸福駅に到着。本当は、ここまで3時間と予定していたのだけど、すでに3時間は回っている。愛国で油を売りすぎたか?それともペースが落ちすぎている?


幸福駅


 愛国にもけっこう観光客が訪れていて驚いたが、ここ幸福駅はさすがに愛国よりも人が多い。駅前の売店も何軒か出ている。


 駅というより小屋と言った方がいいくらい小さな駅である。そしてその中には、びっしりと名刺などが貼られている。失敗した。私も何か持って来ればよかった。


幸福駅待合室


 ホームにはキハ22が2台置かれている。懐かしい・・・。私が高校生の頃、汽車通のときに利用していたのがキハ22だった。中に入って、感慨に耽っていた。


キハ22


 愛国駅も大正駅も、付近に集落があった。しかしここ幸福駅は、周囲に集落らしい集落は見あたらない。どうしてここに駅があったのだろう?と思うほどだ。


 でも幸福って、案外こういうのどかな雰囲気の中にあるのかもしれないね。


 しかし今の私は幸福とは言い難い。右膝が時々痛み出しているし、なにより腹が減っている。売店は土産物ばかりで、食べ物は売っていそうにない。仕方がない。大正のコンビニまで走るしかない。私は足を引きずりながら走り出した。


 幸福駅前でipodをチェックすると、24.5kmとのことだった。愛国駅だ、大正駅だと寄り道をしてもこの距離。復路はさらにどこかに寄り道をしないと、家に到着しても50kmに届いていないかもしれない。さて、どうしよう・・・。


 右膝の痛みが治まったと思ったら、今度は左膝を別の痛みが襲う。さらに両方の太股がパンパンに張り、熱を帯びているようにも感じる。こうなってくると、じりじりと照りつける太陽までもがうっとうしく感じる。


 来た道を戻る。1度走った道ではあるが、反対方向へ向かうため景色が違うことだけは助かっている。


 幸福から大正までは約5~6km。大正のコンビニまで、店は何もないことはわかっている。あそこのコンビニまで頑張ろう。そうすれば、休むこともできるし、腹ごしらえもできる。


 それにしても、せっかくリュックも背負って走っているというのに、どうしてあらかじめコンビニにでも寄って食料を買っておかなかったのだろう。ロングを走るときは、いつでもエネルギー補給をできるように、持って走らなきゃだめだよな・・・。


 自分の感覚としては、ヨロヨロになっている。ペースもかなり落ちているだろう。そう思いながらipodを確認すると、意外と6分40秒台か50秒台と告げられることが多い。この走りで7分を切れるなら、サロマに向けては好材料かもしれない。


 ようやく大正に到着する。すぐに車道を横断していきたいところだが、少しでも距離を稼がなきゃならないので、横断歩道の所まで行って、そこを渡り、コンビにまで戻る。


 腹が減っているので何でも食べたいかと思いきや、やはり揚げ物類などは食べたくない。ちゃんと体が必要なものを欲しているようだ。


 そんな私の心を引きつけたのは、水ようかんだった。しかし、スイーツはあとにしよう。まずは食事からだ。


 結局私が選んだのは、冷やしたぬきうどん。うどんの炭水化物と、めんつゆの塩分が、私をとらえて離さなかった。それだけでは物足りなく感じて、もうひとつ追加したのが焼きおにぎり。これが美味しそうで・・・。私は店の横に腰を下ろして、これらを食べ始めた。


 ここまで約31km。予定では、残り19km。先日走ったハーフマラソンより短いじゃないか。そう言い聞かせて、気持ちを奮い立たせようとする。


 空腹が治まったので、走り出す。しかしどうも胃がもたれている。しまった!食べ過ぎたか?しかも、こんな胃が弱っているようなときに、焼きおにぎりはまずかったかも?ただでさえ苦しい走りなのに、その苦しみを増すようなことをしてしまった。


 次なる目的地は愛国駅だ。この間も5~6kmくらい。往路ならば大した距離ではなかったのだが、復路ではかなりつらい。それでもipodが7分台を告げると、危機感から自然とペースがあがるようで、すぐにまた6分40秒~50秒台に復帰した。


 残り距離が少しずつ減っていくこと。それだけを楽しみに走り続けていた。


 ヘロヘロになって愛国駅到着。往路ではあんなに元気だったのに・・・。ベンチに腰を下ろし、しばし休憩する。 ipodは走行距離を36.5kmと告げている。あと13kmあまり・・・2回くらい休憩が必要かもしれない。


 一息ついてまた走り出す。しばらくは畑を見ながら走る。休みたいけど、休む場所もない。仕方がないから走る。


 往路は幸福へ向かって走った。しかし今は幸福からどんどん遠ざかっている。ということは、これは不幸への道か・・・。つまらないことを考えている自分に、まだ余裕があるじゃねえかとひとりでつっこみを入れた。


 徐々に建物が現れ始める。郊外の住宅地に到達した。はるかかなたには、コンビニも見える。そこを次の休憩場所と決めて、必死に走った。


 コンビニではドリンクを補給して休憩する。アイスにも目が行ったが、それは次の休憩で食べることに決めた。ここまでの距離は43km。愛国駅から一気に6.5kmも走ってこれた。これであと1回休憩すれば、なんとか最後までいけるだろう。最後まで走りきったご褒美は、もちろんサッポロクラシックだ!私は走り出した。


 このあたりから信号が増えてくる。どうしても信号待ちをしなければならないときがある。ところが、いったん立ち止まってしまうと、その一瞬で筋肉が固まってしまうようで、そのあと走るのが非常につらい。そこで私は、信号に引っかかったときは反対側の歩道に渡り、さらに青に変わるまでチョロチョロ走っていることにする。こうすればストップアンドゴーのつらさも解消され、わずかずつでも走行距離を稼ぐことができる。


 徐々に信号が増えてくる。皮肉なことに、私はすべての信号に引っかかるようになっていた。もうちょっと速く走れれば通過できるのに、目前で信号が変わってしまう。しかし止まることはできない。


 徐々に残り距離が少なくなってくる。そうなると、少しでも早く走り終えたくなる。もう1回の休憩をパスして、このまま一気にゴールを目指そう。休憩すると、そこから走り出すときにまたつらい思いをするし。


 残り距離が少なくなるにつれて、私は元気が出てきた。


 もう少し・・・あと少し・・・。


 47km・・・48km・・・49km・・・そして・・・。


 ipodは50kmに到達したことを告げた。


 もういいよ、やめよう。でも自宅まではまだ距離がある。歩くとかえってつらくなる。まだまだ走り続けるしかない。


 無事に自宅の前に到着して、ワークアウトを終了したとき、距離は51.9kmと告げていた。


 冬からの練習量を見ると、30km走すらほとんどしていない。そんな状況でいきなりの50km走は無謀かとも思ったが、どうしてもこの時期にやってみたかったのと、幸福駅に行きたかったのとで強行することにした。しかも自分の外堀を先に埋めてしまうといういつものパターンで、早くから「幸福ラン」宣言をした。そしてどうにか成し遂げることができて、本当によかった。


 帰宅後、水光園に行ってゆっくりと温泉につかり、帰りにサッポロクラシックの500ml缶を買い、美味しいビールを飲んだ。ipodに表示された消費カロリーは、3,800kcal。まあ、これくらいは大丈夫でしょう。


 一夜明けて、ロボットになっている(笑)。ダメージはかなり大きい。5月3日には、フルマラソンを走るというのに・・・。筋肉痛のピークは明日だよな・・・。考えただけでも恐ろしい・・・。


 最後に、幸福駅情報をひとつ。


 幸福駅では、愛する2人がウェディング体験をしながら素敵な思い出作りをできる、幸福駅ハッピーセレモニー が行われています。


 今年は4月27日から9月30日までの10時から16時(受付は15時まで)。所要時間は30分程度で、料金は2人1組3,000円(税込、記念証・貸衣装代含む。靴は持参のこと)となっています。


 いかがですか?愛の聖地で、幸福の鐘を鳴らしてみませんか?