小津安二郎『東京物語』の謎解き

今まで誰も指摘してこなかった、小津作品の「秘密の演出」や「謎」を解明していきます。

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前回まで、

 

『晩春』(1949)や『東京物語』(1953)、『お茶漬けの味』(1952)の、

 

「 逆配膳 」 や 「正配膳 」について述べてきました。

 

 

この 「 逆配膳 」 の発想を、

 

小津監督はどこから得たのでしょうか。

 

その 「 答え 」 は、小津自身の食卓にありそうです。

 

 

小津安二郎は、最愛の母親と二人暮らしでした。

 

とても仲の良い母子だったそうです。

 

 

二人で宴会の余興に、「 座敷遊びの踊り 」 を披露したりします。

 

以下のブログに、その様子が描かれています。

 

  ▼小津安二郎監督のやがて悲しき後ろ姿(3) Yahooブログ「わくわく亭雑記」

  http://blogs.yahoo.co.jp/morioka_hisamoto/7504106.html

 

 

そんな安二郎と母親の食事は、

 

以下のようだったのではないか、と推測できます。

 

 

安二郎が、母親の味噌汁をよそったり。

 

同じ 「 おかず皿 」 に手を伸ばしあったり。

 

 

安二郎と母親の食卓が、「 逆配膳 」 だったのでしょう。

 

 

小津安二郎監督自身が、

 

最愛の母親との 「 楽しい食事 」 のために、

 

「 和食(配膳)の文法 」 を無視していたのです。

 

 

たぶん・・・

 

 

 

 

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小津監督の戦後作品で、

 

「 配膳の確認ができる作品 」 は 5つだけです。

 

 

以下の、正 を付けた5作品。

 

  『晩春』(1949) ⇒ 『宗方姉妹』(1950) ⇒ 『麦秋』(1951) ⇒

 

  『お茶漬けの味』(1952) ⇒ 『東京物語』(1953) ⇒ 『早春』(1956) ⇒

 

  『東京暮色』(1957) ⇒ 『彼岸花』(1958) ⇒ 『お早よう』(1959)

 

 以外の戦後作品は、「 配膳を確認できる食事場面 」 がありません)

 

 

上記から、

 

「 正配膳 」 が現れる 『お茶漬けの味』(1952) には、

 

「 何かの意味 」 がありそうです。

 

 

『お茶漬けの味』 で 夫の茂吉は、

 

「 和食の文法 」 どおり 「 正配膳 」 で食事をします。

 

 

「 着物の袖 」 が 「 味噌汁 」 に触れないように、

 

汁椀の横から箸を伸ばします。

 

茂吉は、

 

新聞を読みながら食事をするので、

 

「 味噌汁は右手側 」 の方が 「 好都合 」 なのかもしれません。

                                                         ↑夫婦の 「 愛情 」 は冷めきっています

 

「 和食(配膳)の文法 」 は守っているのですが、「 つまらなそう 」 な食事ですね。

 

 

一方、

 

『晩春』 の周吉と紀子は

 

「 和食(配膳)の文法 」 は無視しますが、「 楽しそう 」 に食事をします。

二人は  「 同じ皿」 から 「 おかず 」 を取るので、よく右手を伸ばします。

 

二人とも 「 汁椀を左手側 」 に寄せているため、味噌汁を倒すこともありません。

 

だから、「 楽しい食事 」 を続けられます。

 

 

茂吉の食事は、周吉とは対照的です。

 

 

さて、

 

『お茶漬けの味』 のクライマックスは、二人が愛情を温め直し、

 

ともに 「 お茶漬け 」 を啜(すす)る場面でした。

 

 

↓茂吉が、「 着物の袖 」 を押さえています。

                                                             ↑紗子が「 着物の袖 」 を押さえています

 

小津監督が演出で、「 着物の袖 」 に注目させているのです。

 

 

「 愛情 」 を温め直した二人は、

 

互いに 「 手を伸ばす 」 ことが多くなります。

 

 

↓茂吉がご飯をよそい、紗子に手渡します

                                     ↑茂吉が、紗子の手に残った

                                      「糠味噌の匂い」 を嗅ぎます。

 

                 茂吉と紗子は、同じ小鉢から漬物を取ります。

    「 着物の袖 」↑ が食卓に触れています。

 

 

この夫婦が、今後もこんな 「 楽しい食事 」 を続けるなら、

 

「 味噌汁は左手側 」 になるでしょう。

 

 

つまり、

 

「 愛情のある食事 」 が、 「 和食(配膳)の文法 」 を無視させるのです。

 

 

『お茶漬けの味』(1952) 『晩春』(1949)を踏まえ、

 

「 逆配膳 の意味 」 を 「 補足する 」 作品になっていたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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前回述べたように、

 

小津監督は 「 映画の文法 」 を無視します。

 

 

それどころか、

 

「 現実世界の文法 」 さえ無視します。

 

 

『東京物語』(1953)の以下の場面で、

 

左の画像からほんの40秒後に、

 

頭上の窓ガラスが割れているのです。

 

 

それを見やすくするために、手ぬぐいも追加しました。

小津安二郎『東京物語』の謎解き小津安二郎『東京物語』の謎解き

「 窓ガラスの割れ跡 」 が突然現れたり、

 

「手ぬぐい」が現れたりしていますね。

 

 

動画で確認してみましょう。

 

窓ガラスが割れていない場面から始まります。

 

出前が来た後の 43分53秒 あたりに、頭上の窓ガラスが割れています。

 

 

小津監督は、

 

映画への愛情が深いために、

 

「 和食の文法 」 や 「 映画の文法 」 に加え、

 

「 現実世界の文法 」 まで無視してしまうのです。

 

 

 

 

 

 

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『晩春』(1949)の周吉は、

 

「 娘への愛情 」 の方が、 「 和食の作法 」 よりも勝(まさ)っていました。

 

 

だから、

 

味噌汁をよそう時の 「 袖  」 を避けるために、

 

「 ご飯は左、味噌汁は右 」 という 「 和食の作法 」 を無視します。

 

 

この 「 和食の作法 」 を、

 

以下のように読み替えてみます。

 

   和食の作法 ⇒ 和食の文法 ⇒ 映画の文法

 

 

 

小津監督は、

 

「 映画の文法 」 を無視した、と言われています。

 

 

映画の文法を無視し、

 

イマジナリーラインを躊躇なく越えたりします。

 

       【参考】イマジナリーライン(wikipedia)

 

 

周吉は、

 

「 和食の文法 」 よりも  「 娘への愛情 」 の方 が勝(まさ)っていました。

 

 

同じように、

 

小津監督は、

 

 「 映画の文法 」 よりも 「 映画への愛情 」 の方 が勝っていたのです。

 

 

だから、

 

「 映画の文法 」 を無視しました。

 

 

 

紀子との親密さから、

 

「 和食の文法(配膳の文法) 」 を無視する周吉は、

 

とても楽しそうに食事をします。

         ↑「 おかず 」 に 手を伸ばす周吉

 

仲の良い二人は、

 

「 おかずの皿 」 を共有しています。

 

 

これは、

 

「 映画の文法 」 を無視して映画作りを楽しむ、

 

小津監督自身の姿なのです。

 

 

 

            

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( 予定を変え、前回、前々回の補足です )

 

 

『晩春』(1949)の周吉や、

 

『東京物語』(1953)志げは、

 

汁椀の位置を変えて、「 逆配膳 」 にしていました。

 

 

「 着物や浴衣の袖 」 が 「 食卓に触れてしまう 」 ためでしたね。

 

 

では、着物や浴衣姿の人は、

 

いつも 「 逆配膳 」 なのでしょうか。

 

 

もちろん、そんなことはありません。

『お茶漬けの味』(1952)の紗子↑は、

 

右手を伸ばす時に、

 

「 袖 」 を左手で押さえています。

 

 

これが一般的なやりかたでしょう。

 

 

しかし、下の場面の周吉は、

 

左手に 「 汁椀 」 を持っています。

 

 

志げは、左手で 「 袖 」 を押さえることをしません。

 

「 汁椀の位置を変えておく 」 方が 「 実利的 」 だからです。

 

 

そんな理由から、

 

周吉も志げも、

 

「 和食の作法 」 を無視し、「 逆配膳 」 にしているのです。

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『東京物語』(1953)では、

 

志げが 「 逆配膳 」 になっています。

 

 

以下の朝食場面。

 

▼ 「 ごはん茶碗 」 を、「 右手側の端 」 に置きます(志げ)。

                                               ↑かなり端に置きました

▼「 真ん中 」 あたりから  「 汁椀 」 を持ち上げます(志げ)

 

 

▼動画で確認してみます(食事場面から開始)。

 

↑「 ごはん茶碗 」 は極端に右手側、「 汁椀 」 は真ん中の位置ですね(志げ)。

 

 

夫の庫造は普通の配膳です。

      汁椀が 「 右手側 」↑になっています      ごはん茶碗↑が 「 左手側 」 です

 

 

何故、志げだけが 「 逆配膳 」 なのでしょう。

 

 

それは、「 浴衣の袖 」 が食卓に触れるからです。

 

志げは、食卓の上に何度も右手を伸ばします。

 

「 癖 」 になっているのです。

         ↑唐辛子を受け取る             ↑煮豆の小鉢を引き寄せる

 

上の画像で、志げの 「 浴衣の右袖 」 が食卓に触れているのが分かります。

 

もし、汁椀が 「 右手側の位置 」 だと、汁椀は倒れてしまうでしょう。

 

 

だから 「 汁椀は真ん中あたり 」 で、

 

「 ごはん茶碗が右手側 」 になっているのです。

 

変則的な 「 逆配膳 」 です。

 

( 庫造は 「 左手 」 を伸ばすので、「 汁椀は右側 」 の方が好都合です )

 

 

 

志げは、尾道での会食場面でも 「 逆配膳 」 です。

 

「 汁椀は左手側 」、「 ご飯茶碗は真ん中あたり 」 になっています。

↑黒い汁椀が手前(左手側)にあります。      ↑着物の右袖が食卓に触れています。

 

 

実利的な志げは、

 

着物の右袖が 「 汁椀 」 に触れるのを避けるために、

 

 「 和食の作法 」 など無視してしまうのです。

 

 

 

次回は、『お早よう』(1959)の 「 逆配膳 」 です。

 

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『晩春』(1949)の食事場面で、

 

「 味噌汁の位置 」 に違和感を覚えませんでしたか?

 

 紀子の「 味噌汁 」 が左側で↑、 「 ご飯 」(左腕に隠れ気味) は右側になっています。

 

普通の配膳とは 「 逆 」 ですね。

 

 

何故なのでしょう?

 

 

実は、父親である周吉が 「 逆配膳 」 なのです。

 

▼汁椀を、かなり左手側に置こうとしています(周吉)

▼ごはん茶碗を、真ん中あたりから持ち上げました(周吉)

            紀子のごはん茶碗↑が見えます(左肘と体の間)

 

                  ↑紀子が汁椀を置きます(かなり左側)

 

父娘の二人が、ともに「 逆配膳 」 だったのです。

 

 

茶会に通ったり、能を観たり、京都の寺社を訪れたりする父娘。

 

多喜川(日本料理の店)の常連だったりします。

 

そんな二人が、 「 和食の作法 」 を知らないはずがありません。

 

 

では、なぜ 「 ご飯 」 と 「 味噌汁 」 の位置が逆なのでしょう。

 

 

その答えは、以下の場面にあります。

 

周吉が、紀子のために 「 味噌汁 」 をよそっています。

                 周吉の着物の袖↑が、食卓に触れていますね。

 

もし周吉の 「 汁椀 」 が右側にあったら、「 汁椀 」 は倒れてしまうでしょう。

 

味噌汁が零(こぼ)れてしまいます。

 

 

だから、周吉の 「 汁椀 」 は左側に寄せているのです。

 

紀子もそれに倣(なら)っています。

 

 

娘に味噌汁をよそってあげる「 父親の愛情 」 が、

 

「 和食の作法 」 よりも勝(まさ)っていたのです。

 

 

以下の動画で確認してみてください(食事場面から再生されます)。

 

 

次回は、『東京物語』(1953)の 「 逆配膳 」 です。

 

 

 

 

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よく言われるように、

 

小津作品の 「 ある場面 」 は、

 

以前の 「 自作品のある場面 」 に似ていたりします。

 

 

前回述べた『早春』(1956)の 「 トラック場面 」 も

 

『晩春』(1949)の 「 サイクリング場面 」 や、

 

『東京物語』(1953)の 「 はとバス場面 」 に似ています。

 

 

こういう場面どうしが呼応して、共鳴するのです。

 

上3枚が『晩春』、次の2枚が『早春』、その下が『お茶漬けの味』、下2枚が『東京物語』

 

 

             これで『早春』に関しては、とりあえず終了です。

 

 

 

-------------------------- 以 下 は 予 告 --------------------------

 

次回からは、

 

「 逆配膳 」 の謎を解明します。

 

この二つの場面で、ご飯と味噌汁の位置が違いますね。

           『お早よう』(1959)               『お茶漬けの味』(1952)

 

 

下の場面での志げ(杉村春子)は、

 

『お早よう』の男の子と同じ配膳です ( この画像では見づらいですが )。

                 『東京物語』(1953)

 

 

「 逆配膳 」 が見られるのは、

 

『東京の女』 『生まれてはみたけれど』 『晩春』 『麦秋』 『東京物語』 『お早よう』。

 

 

「 逆配膳 」 を解明すると

 

小津演出の緻密さが分かります。

 

 

もしかしたら小津安二郎は、

 

「 逆配膳 」 で食べていたのかも・・・

 

 

次回から3回連続の予定です。

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小津作品の特徴のひとつに、「 正面顔の対話 」 があります。

 

カメラが180度切り替わり、

 

対話者それぞれの正面顔が、映画館の観客に向けられます。

小津安二郎『東京物語』の謎解き小津安二郎『東京物語』の謎解き

 

『早春』(1956)では、

 

この手法がダイナミックに展開される場面があります。

 

 

海岸線をハイキングしている正二と千代(金魚)が、

 

トラックの荷台に乗っている場面です。

 

 

「 ハイキングしている仲間 」 と 「 トラックの二人 」 が交互に映ります。

 

 

移動撮影の切り返しがダイナミックで、

 

見るものを惹きつけてしまう場面。

 

小津監督がこの手法を使った理由が、よく分かります。

 

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前回の、『早春』(1956)の 「 味付け 」 の続き。

 

『早春』は 「 水 」の他に、 「 煙 」の味もするのです。

 

 

作品冒頭で、まずは 「 蚊とり線香 」 が映ります。

 

 

寝ている夫婦の真ん中で、

 

蚊取り線香が 「 煙 」 を上げています。

(クリックすると拡大し、蚊取り線香が見えます)

 

とにかく、

 

あちこちで蚊取り線香が 「 煙 」 をあげています。

   夫婦の自宅            葬儀会場             昌子の実家


    正二の先輩の家      正二の友人のアパート   昌子の友人のアパート

 

昌子の怒りが燃え広がる場面では、

 

蚊取り線香の煙が、めらめらと沸き上がります。

 

(静止画だと分かりづらいですが)。

 

 

そして、

 

作品中で、「 タバコの煙 」 が立ち上ります

 

小津作品の中で、最もタバコを吸う作品です。

 

その大量に吐き出された煙に、

 

小津監督は照明を当てています。

 

タバコの煙だけではありません、

 

炊事の湯気や煙も上がります。

 

  おでん鍋の湯気               うどん鍋の湯気       ガラス窓の向こうの湯気

 

七輪(立っている男の足元)        路地の七輪     アパートの七輪(しゃがんでいる男)

借家から立ち上る、炊事の湯気

 

向こうの空で、黒い煙が動いています。

 

場面が、

 

耐火煉瓦工場のある三石に移ると、

 

煙突から黒い煙が沸き上がっています。

エントツが黒い煙を吐き出し続けています。

 

 

作品中に現れた、

 

すべての 「 煙 」 や 「 湯気 」 は、

 

この 「 エントツの煙 」のためにあったのです。

 

 

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