ニセ科学 ① | 鬼川の日誌

 ニセ科学 ①

  「ホメオパシー」、こんなものが流行る!



  これだけ先行きが見えず政治的に混乱を極め、また
 経済的にも若者が就職すらままならず、仕事をしても
 生活保護を受けたほうがましな給料しか出ないなど、
 社会が閉塞感に満ち、不安、不満が渦巻いていると
 ニセ科学が跋扈する。

  占いが流行り、「霊界チャネリング」とか江原と美輪
 なんとかの「スピリチュアル」とか「超能力捜査」だとかとても
 怪しげなものがテレビでもてはやされる。
 最近は「パワースポット」とかいって、神社仏閣詣でが
 大流行らしい。伊勢神宮は最高の参拝客だとか。

  神社仏閣の数百年に及ぶ大木や巨大な建造物に
 囲まれると「荘厳な」というような形容詞を与えたくなる
 ほどで、その雰囲気に圧倒される思いがするのは私だけ
 ではないだろう。
 それはそうだろう。それだけの技術・芸術が存分につぎ
 込まれているのだ。
 そして人はそこに癒しを求めたりする。

  しかし他面これだけの環境を整備し維持し続けるには
 随分金が掛かるし、掛かっただろうなと私は思う。
 一体その費用はどうやって調達されてきたのだろうかとか
 絶えず思わないわけにはいかない。
 
  民衆の救済を謳いながら、信仰によってであれ、権力に
 頼ってであれ民衆の血と汗を吸い上げなければこれだけの
 ものを造り、維持することは出来なかったはずなのである。

  これはヨーロッパ中世に次々と建造された「カテドラル」も
 同じであり、それが「どのような社会的、ならびに財政的基盤の
 上に作られたか」を分析した阿部謹也の「カテドラルの世界」
 (『中世の星の下で』)はとても大切なことを教えてくれる。
   (私のブログ、6月30日の、雑記帳(歴史)、
   西欧の中世②、③を参照してください。)

  *

  それはともかくニセ科学の最大の出所はやはり宗教である。

  日本では力を持ってはいないが、進化論を攻撃し「神による
 創造」を科学的事実と教えるべきだとする、キリスト教原理
 主義者の「創造論科学」などというのがその際たるものだろう。
   (信仰の問題であって科学的事実などとしなければ
    問題ではない。)

  そして「神による創造」とすると「宗教」となるので、神の
 代わりに「高度な知的生命体」によって地球の生命は設計された
 とする「インテリジェント・デザイン説」なるものが、より科学っぽい
 体裁を整えて登場したりする。もちろんこんなものは神の単なる
 焼き直しに過ぎない。

  今の日本ではこうした潮流よりももっと漠然と「西洋的な
 物質文明に批判的で、スピリチュアル的なものや東洋思想
 への憧れが強い」ニューエイジ思潮のほうが根を下ろして
 いるようだ。しかしはっきりした運動体があるわけでもなく、
 ブームはとっくに去り、なんとなく現代文明批判といった
 「神秘主義的なユートピア思想」程度で影響しているに
 すぎないようだが。

  漠然としているだけに意外と環境運動家などには無自覚に
 ニューエイジ的な主張をしているものもいるようだし、「気孔」や
 「ヨーガ」に積極的な人たちにも浸透してるようだ。面白いのは
 最先端科学の解説でよくテレビに出てくる「知の嘘人」立花某
 の根っこがニューエイジ思想だということだ。

 (詳しくは『立花隆先生かなりヘンですよ』 谷田和一郎 洋泉社)
 

   *
 
  こうしたものの一環で現代的な医療へのアンチテーゼとして
 いろいろな民間療法や代替医療を好む人たちも多い。その
 代表例がホメオパシーである。

  ホメオパシー(同種医療)は200年ほど前にドイツのハーネマン
 とかいう人が言い出した代替医療。

  「ホメオパシーではそれぞれの病気にはその病気に似た
 症状を引き起こす物質の成分が効くと考える。そういう成分を
 花や鉱物から抽出して、飲み薬として使うのが「同種」という
 名前の由来。

  元の成分をそのまま飲んだのでは症状はひどくなるだけだから
 それをどんどん水で薄めていく。どれくらい薄めるかというと、
 例えば一ビンの中にはその成分の分子が一個も入っていない
 くらいまで薄めてしまう。

  そうやって薄めた水を砂糖に染み込ませたものがレメディと
 よばれてこれが病気に効くとされている。」

  有効成分が1分子も入っていないものが効くということは
 もちろん科学的にはナンセンス以外のなにものでもない。
 (分子という概念がなかった200年前ならいざしらず)

  危ないものが入ってないからホメオパシーには害はない
 とする人がいる。
 そんな馬鹿な!ただの砂糖飴を薬と高く売りつけられた害。
 効果のないものを信じたばかりに病気を悪化させたり、
 感染症にかかったりする害、こんなひどい害があるものか。
 (「1本0.5リットルが2万円の水を毎月26万円分購入した
  挙句、がんが転移してしまった肺がん患者」とか
  12,28朝日新聞)

  ただ病気に効いたようにみえることはある。病気は自然治癒
 することもあるから、ホメオパシーを始めたときとタイミングが
 一致すれば治ることもある。

  またいわゆる「プラシーボ効果」で治まる場合もある。いい薬
 だと信じ込めば体が反応して小麦粉を飲ませても治る場合が
 あることは今の医学では常識だ。

  あくまでこれは病気が好転したり、治る場合もあるというに
 過ぎず、ホメオパシーが効果あったことにはならないのは
 いうまでもない。
 
  ところが日本では「病は気から」という言葉があるように、
 意外に「気のもん」で治ってしまう体験をする人が結構いる
 ようで、その体験から信じ込んでしまう人もいるようだ。

  問題は先にも述べたように「気のもん」ではすまない深刻な
 病気で現代医療を拒否してしまい、病気を悪化させたり命を
 落とす事例が後を絶たないことにある。
 (「がん患者らが「効く」と信じ込み、通常の医療を拒否する例が
  相次いで発覚。死亡する人まで出た。」朝日新聞)
 
  22日の新聞にホメオパシー訴訟の和解金での合意
 という記事も載っていた。
 ホメオパシー医療をする助産師が生後2ヶ月の幼女に
 「出血症を予防するためのビタミンK2シロップを投与せず、
 ビタミンK欠乏性出血症による硬膜下血腫を発症して死亡」
 させたというものである。

  (この訴訟の和解金での合意について日本ホメオパシー
   医学協会なるものが、「ホメオパシーのレメディーは、
   ビタミンK2のシロップの代用にはなりません。」

    というコメントを出したそうである。
   つい先日までK2シロップは有害だからレメディーを
   使えと指導していたにもかかわらず。
)   

  この助産師は数千万円(?)の和解金を支払うことになって
 ホメオパシーに懲りたのだろうか?それは分からない。
 ホメオパシー医療の団体の中には現代医療を強硬に拒否する
 グループもいるとのことで、今後もこうした深刻な事態がおこる
 ことが予想される。

   ②に続く。