“迷い”と“願い”の街角で

確固たる理想や深い信念があるわけではない。ひとかけらの“願い”をかなえるために、今出来ることを探して。


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“つまらなさ”が面白い映画、それが、私が『ジョゼと虎と魚たち』を観た感想でした。インターネット上に掲載された感想は、愛に共感し、切なさに感動して書かれたようなものが多かったので、その意味では、私の捉え方は変わっているのかもしれません。


雀荘でアルバイトをする大学生の恒夫(妻夫木聡)は、あるきっかけで、乳母車に乗り包丁を振り回すジョゼと名乗る少女(池脇千鶴)と出会います。ジョゼは足が不自由で、世間体を気にする祖母はジョゼの存在を隠し、乳母車で散歩に連れ出していたのでした。恒夫は、二人の家を何度も訪れるうちに、次第にジョゼに惹かれていくのです。


これから、結末も含めて感想を書いていきますので、これから観たい方は読まれないほうがいいかもしれません。


この物語は、恒夫と障害を持ったジョゼが惹かれあいながらも、現実の壁に阻まれて別れていく切ない純愛の物語と、そう言えると思います。


しかし、私はそうは観られませんでした。恒夫とジョゼの愛が、軽薄なラブストーリーにしか思えなかったのです。いえ、これだと誤解を招きそうですので、言うなれば、若さゆえの情熱的だけれども過ちに満ちた愛、成熟して振り返れば愛とも呼べないであろう未熟な愛、私が感じたのはそれでした。


恒夫は、ジョゼと出会う前、ノリコ(江口徳子)と体だけの関係を結びながら、香苗(上野樹里)に近づくなど、女性との関係を軽く楽しんでいました。ジョゼとの出会いの後は、真剣に向き合う様が随所で見られますが、ジョゼに迫られた際に、躊躇しつつも押し切られるように体の関係を結んでしまいます。


恒夫は、ジョゼと最終的に別れることとなった理由を「僕が逃げた」と述懐します。恒夫は、軽薄さを捨てきれず、覚悟を決められなかったということなのでしょう。なぜ真剣さを随所に見せつつ、そうなり切れなかったのか。もう一つうかがわれたのは、恒夫の鈍感さでした。


ジョゼがゴミ出しをしてもらうために、近所の男性に胸を触らせていると告げられた恒夫は、中途半端に「おかしい」と言うだけで、口では「仕方ないだろう、帰れ」と言いつつも苦悶するジョゼを残して、その通り帰ろうとしてしまいます。ジョゼは追いすがり、二人は結ばれますが、その際、「胸を触る近所の男性と自分とは違う」と体の関係を躊躇する恒夫でしたが、「どこが違う」と問うジョゼに、何も答えられませんでした。


また、ラブホテルのベッドで、ジョゼは、自分を魚に例えて、寂しささえ感じない暗闇から今いる明るい場所に泳いできたと言いますが、恒夫の返答は眠気もあって気のないもの。さらに、ジョゼは、恒夫との別れの予感を口にしますが、もう恒夫は眠っていました。その恒夫の唇に、ジョゼは静かに唇を重ねます。


一方のジョゼも、気持ちとは裏腹のことを言ったり、車椅子を使おうという恒夫の言葉を拒み、恒夫におぶさるなど、恒夫に対して子供のように甘えていました。その依存もまた、恒夫の決心を揺るがせていました。


ジョゼの持つ障害は確かに二人の関係の負担とはなっていましたが、最後は、特に、その障害への向き合い方を含めた、二人の見解の不一致が、別れへと誘っていったように思えました。愛は確かにそこにあったのでしょうが、すれ違いゆえに伝わらず、表に出てきたものだけでは、軽薄なラブストーリーにしか見えなかったのかもしれません。そのような意味では、ジョゼの持つ障害ゆえに、単なるラブストーリーと一線を画するものではないと感じました。


それゆえ、映画の中で、ジョゼ以外の「健常者」が、障害について語る場面は、とてつもなく大きな違和感を抱かせるものでした。


恒夫の弟隆司は、ジョゼと話した後、「リアル身障者と初めて話した」などと発言します。


そして、恒夫に思いを寄せる香苗に至っては、福祉を志していましたが、ジョゼとの接触により、心の奥の偏見や鈍感さが噴出することとなります。恒夫に、ジョゼが椅子等から飛び降りることについて聞かされていた香苗は、障害に適応して生活の一場面として行っているだけにもかかわらず、「見てみたい」と見世物のような発言をします。さらに、恒夫がジョゼと結ばれると、「身障者のくせに」と悔しさに心を奪われた挙句、ジョゼに「足が動かないあなたの武器がうらやましい」と言い放って叩き、福祉への情熱も消え去ってしまいます。


障害者を聖者のようにとらえる固定観念が、かえって現実を知った際の強烈な差別意識につながるということを聞いたことがありますが、その一場面といえるのでしょうか。


切ない終わり方ですが、私は、これからの長い未来への序章として、決してアンハッピーエンドではないと思いました。


ジョゼが、恒夫との別れの後、電動車椅子で街に出て、寂しくも大人びた表情で家事をこなす場面が出てきます。「甘え」を捨て、「自立」へ踏み出したその様子は、まさに未来へと向けた「成長」にほかならないのではないかと思いました。今は寂しさの中にいても、ジョゼには、次の幸せが必ずやってくると、私はそう感じました。


一方、恒夫も、別れの後、ジョゼを想い号泣します。ジョゼによってもたらされた真剣さゆえに、もとの軽薄な世界には戻れません。その「気づき」が、新しい明日をいずれ招くことでしょう。ただし、恒夫は、ジョゼとの別れの後、香苗のもとに行きますが、香苗のそばで号泣する恒夫と、恒夫の様子に気づかず一方的に話し続ける香苗では、うまくいかなくなるのではと思えてしまいます。「気づき」ゆえの飛躍には、ジョゼ以上に時間を要するのではないでしょうか。


私自身、人を愛するのは苦手です。気持ちをいつからか押さえつけ、自分の心のはずなのに分からなくなり、自分も人も愛せなくなってしまったのではとも思います。そんなコンプレックスが、この映画について、ひねくれた見方をさせているのかもしれません。


それでも、自分を生き続けるしかなく、そこにしか、そして、その先にしか答えは無いのでしょう。ジョゼが一歩踏み出し、恒夫もいずれ歩みだすように、自分でありきるための旅を進めるしかありません。

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