We love you! | 大神Blog

We love you!


『ここで、この森で、たったひとりで死んだらどうなるだろう。
 彼の骨はどうなるだろう。砕けて地面に埋まり、そのまま保存され、
 ほかの種族の謎になり、やがて彼らが石を掘り返して謎を解くのだろうか。
 彼の人生にはまだやり残したことがある。
 彼が世界と---木の幹や、列になって行進するアリや、回転するように
 土から顔を出す緑の目と---分かちあっているものを、まだ目にしていなかった。
 それは生命だ。生命こそが、すべての生きものを日々世界に漕ぎ出させる
 最初の光だった。』

 (『シェル・コレクター』(アンソニー・ドーア著・新潮社刊)・“ムコンド”より)

『大神』は大自然という、捉えどころの無い大きなテーマを持って制作を開始しました。
鍛え抜かれたグラフィック制作のノウハウを活かして、
心癒される映像を持ったゲームを制作しようとしたわけです。

ゲームの映像というのは、小さなデータを集めて作るものです。
元はバラバラの『グラフィックの素』を指示通りに集めて、
0.02秒~0.03秒くらいの瞬間的な時間で絵を作り上げます。
その絵が平面のTVモニタ上に投影されて『ゲームの映像』の出来上がり。
こう書いてしまうと、味も素っ気も無いですよね。

では、『大神』と同じ『グラフィックの素』を使えば誰にでも
『大神』が作れるのかというと…そういうわけでもありません。
ウチのチームが特別だ、という事を言いたいのではなく、
僕達がヨソのゲームの『素』をもらっても、やはり同じモノを
作ることは出来ないでしょう。

昔、何かのインタビューで『デジタル農場』という言葉を使ったことがあります。
ゲーム制作は最先端の技術を駆使した人々が活躍するハイテク産業的なイメージが
ありますが、実態は非常に泥臭い。
確かに、職場で使うのは最先端のPCと最先端のツール類。
ゲームの開発機材の中には、非常に高価な物もあります。
しかし、やってることは『種を蒔いて芽を出させて雑草をむしってあげて…』
というような非常に根気と時間のいる作業です。
しかも、オリジナルコンテンツなどという誰も育てた事のないような
動植物を育成・栽培しようとすると、まさに手探りの状態。
芽が出るかもわからなければ、育つかどうかすらわかりません。
当然の如く…手を抜けば育つわけがありませんし、
間違った育て方をすればそれは結果に跳ね返ってきます。

どんなに道具が立派でも、やってる事は本当に泥臭いのです。
そして、何かの結果が出るまでには数ヶ月かかることなんてザラ。
まさに農場です。

やりたい事を見失わずに、少しずつ手探りでノウハウを集める。
それを挫折することなく試し、全精力とも言えるだけの熱量を注ぎ込む。
そうやって初めて、コンテンツには生命が宿ります。
同じ『素』を使っても同じ物が出来ない。
それは
『このコンテンツを面白いモノに作り上げたい』
という熱量が、そのまま生命力になるからです。
たとえデジタルで組み上げられるデータの集合体であっても、
それに触れたプレイヤーが『何か』を感じられるかどうかは
この生命力の強さによって決まります。

『大神blog』という試みは、このデジタル農場の中で皆がさまよっている
姿をそのまま見せてしまおうというものです。
それによって何が得られるのか、という事すら手探りで始めたモノです。
後でまとめて苦労談にしてしまえば都合の悪い話はカットできますが、
リアルタイム性に重きを置いているのでごまかしが効きません。
農場の風景をリアルタイムで見ていた人たちにとって、
その栽培物である『大神』というモノに対しての見え方が普通とは
違っているでしょうし、より好き嫌いがハッキリ分かれたのでは
ないのかな…と思います。

『大神』に生命力を吹き込んだのは制作したチームですが、
『公式サイト&大神blog』というコンテンツに生命力を吹き込んだのは
応援し続けてくれた方々の力だと言えるでしょう。
さっきも書きましたが
『このコンテンツを面白いモノに作り上げたい』
という気持ち。
その気持ちは、公式サイトの植花やブログのトラックバックに表れていると思います。
興味を持って毎日ブログを見ている方や、毎週の更新を楽しみにしてくれた方々。
そんな人たちが見に来てくれていた、という事そのものがコンテンツの
生命力になっています。

今日で『大神blog』は最終回です。
これで、更新は終わりです。
200回を超える更新をしてきたコンテンツを終わらせる。
その行為そのものに物凄いパワーが必要だと言うことを、つくづく感じています。

『大神blog』に長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。
何かプラスになったかどうかはわかりませんが…
それぞれの人にとっての、無駄と潤いに貢献できたのであれば嬉しいです。

では、またいつか!

2006年7月31日 稲葉敦志