その日、ギターは武器になったのか? | AFTER THE GOLD RUSH

AFTER THE GOLD RUSH

とおくまでゆくんだ ぼくらの好きな音楽よ――

AFTER THE GOLD RUSH-椛の湖フォークジャンボリー 昨日、全日本フォークジャンボリーが38年ぶりに「復活」し、岐阜県中津川市の椛の湖畔に、千人を超える聴衆が集まったらしい。それを報じた毎日新聞の記事を読み、思わず苦笑してしまった。
「正午から開かれたコンサートは、岡林信康の『友よ』の曲が流れる中でスタート」。
これは何か悪いジョークに違いない。
当の岡林は、この日、国営ひたち海浜公園で開催された「ロック・イン・ジャパン・フェス2009」で、孫の世代に限りなく近いロック・キッズを相手に、現在進行形のエンヤトットを演奏していたのだから。

 

「友よ」。岡林がこの歌を歌わなくなってから、一体どのくらいの時が経つのだろう。1971年7月に日比谷野外音楽堂で開催された「狂い咲きコンサート」の時には、すでに、「問題の歌」と揶揄し、「お互い恥ずかしい思い出がありますねえ」と思い切り照れながら、囁くように歌っていたから、もう40年近くこの歌を封印しているのかもしれない。

 

70年代になり、若者たちは「私たち」から「私」になった。いつしか、「友よ」と、肩を組み、声を合わせて歌うことは、時代遅れでとてつもなく格好の悪いことになってしまった。「♪ぼくの髪が 肩までのびて 君と同じになったら 結婚しようよ」と軽く口ずさみながら、それぞれの小さなトーチカで身を守るようになった彼や彼女たちにとって、フォークソングは、時代と対峙する「武器」ではなく、小市民的な幸せに浸るためのBGMに過ぎなくなっていたのだろう。


AFTER THE GOLD RUSH-新宿ジャカジャカ・リハ風景 その「友よ」の合唱が、40年の時を経て、新宿花園神社境内に響き渡った。先月上演された椿組の野外劇「新宿ジャカジャカ」。東京フォーク・ゲリラを題材にしたこの芝居には、「その日、ギターは武器になったのか」という実に思わせぶりな副題がついている。そして、開演前のテントからは、「腰まで泥まみれ」や「橋を作ったのはこの俺だ」の歌声が。これは、いやがうえにも期待が高まるではないか。しかし、その期待は、程なくして失望に変わった。

 

これはあくまでもお芝居であり、中島淳彦氏流のファンタジーであることは十分に承知している。だから、ディテールに拘るつもりはないし、ゲリラのリーダーが歌声喫茶のリーダーという設定にもあえて目を瞑ろうと思う。――花園神社の夏の祭りに、「べ平連」というフレーズは、やはり少しばかり重く、政治的で、観客の感情移入を拒む恐れがあるだろうことは容易に想像がつくから。

 

AFTER THE GOLD RUSH-新宿ジャカジャカ しかし、それなら何故、会場で「べ平連・フォークゲリラはこれからも新宿西口広場でフォーク・ソングを歌います~」というビラを配っていたのか? 小道具だからオーケーと考えたのか。少々理解に苦しむ。(加えて指摘すると、あのビラは、当ブログの画像を印刷したものだろう。歴史の廃棄物処理場から発掘したものなので、それについてどうこう言うつもりはないが。)

 

高田渡の「東京フォークゲリラの諸君達を語る」の使い方にも大いに疑問を覚えた。物語との関わりが全く意味不明な「高田馬場のネズミ達」が、あの歌をふざけた調子で歌うのだが、これが全く面白くない。大体、フォーク・ゲリラを論じる時、あの歌を得意気に引っ張り出してきて、「あのカッコイ エリートさん等をさ」とか「自慢するわけじゃないが 僕は逮捕状が出ている」というフレーズを引用しようとするお馬鹿さんがあまりにも多すぎるのだ。あれは、高田渡一流のサーカズム(Sarcasm)であり、高田渡以外の者が引用すると、単なるインサルト(insult)になり、自らにその刃の切っ先が向けられるということに何故気付かないのだろう。

 

貶してばかりではあんまりな気もするので、称賛に値する点も書いておこう。この手の演劇ではいい加減になりがちな、フォークソングの時代考証が丁寧に行われていたこと。そして、その、今や誰も歌わなくなった「いにしえのフォークソング」を、若い役者さんたちの歌で、瑞々しく生き返らせていたこと(一生懸命練習されたのでしょう)。文学座の浅野雅博氏が、良い演技をしていたこと。特にラストの「友よ!」の悲痛な叫びが良かっただけに、無駄の多いストーリー構成が惜しまれるところ。

 

劇中歌一覧(メモと記憶頼りのため、間違いの可能性あり)※8/5修正

俺の空は鉄板だ
おまわりさんに捧げる唄
アカシアの雨がやむとき(山崎ハコ)
自衛隊に入ろう
ウイ・シャル・オーバーカム
腰まで泥まみれ
ベトナムの空
拝啓大統領殿
新宿の女(唄奴)
恋のハレルヤ(唄奴)
主婦のブルース
橋を作ったのはこの俺だ
おいでよ僕のベッドに
かごの鳥のブルース(唄奴)
東京フォークゲリラの諸君達を語る
リンゴ追分(唄奴)
恋の山手線
あるオッサン云いはった
新しい日
一人の手
労務者とは云え
ラングリング・ボーイ
ウイ・シャル・オーバーカム(唄奴+全員合唱)
友よ(全員合唱)