“インドネシア”で売れた:配って、売れて、パクられて | 日本のお姉さん

“インドネシア”で売れた:配って、売れて、パクられて

仕事をしたら“インドネシア”で売れた:配って、売れて、パクられて――ポッキー海外物語 (1/7)
江崎グリコの「ポッキー」が、海外で広がりつつあることをご存じだろうか。インドネシアでは2012年から本格的に展開しているが、売上目標を軽く上回る勢いだ。その理由は……。
[土肥義則,Business Media 誠]
2020年、東京オリンピック開幕――。
一流アスリートの姿をひと目見ようと、海外からたくさんの人が日本を訪れるだろうが、スーパーやコンビニではちょっとした“異変”が起きるかもしれない。日ごろから食べているお菓子を「お土産」として購入する外国人たちで溢れかえっているかもしれないのだ。
ん? どういうこと? と思われるかもしれないが、現在「ハイチュウ」「じゃがビー」「堂島ロール」など、日本を代表するお菓子の海外ラッシュが起きている。中でも、とりわけ海外展開に積極的なのが江崎グリコの「ポッキー」だ。
ポッキーの海外展開は、1960年代後半に香港でスタートした。40年以上経った今、約30カ国で販売されていて、2013年の売上高は前年比3割増の約400億円。新興国の中間層の所得拡大を背景に、2020年には約2.5倍の1000億円を目標に掲げている。
“世界のロングセラー商品”と言ってもいいポッキーは、どのようにして現地の人たちの胃袋を“とりこ”にしたのか。2012年に本格的な展開を始めたインドネシアの事例について、同社広報部の中原修さんに話をうかがった。聞き手は、Business Media
誠編集部の土肥義則。
現地の嗜好に合わせた工夫が必要
土肥: ポッキーは現在、タイ、上海、フランス、カナダ、米国、ベトナムの6拠点を中心に展開していて、年間5億個も販売しているそうですね。海外展開を始められた1960年代後半は、日本で生産したポッキーを輸出されていた。しかし「現地の嗜好に合わせた工夫が必要」と判断して、現地法人の設立にチカラを入れられた。
その第一歩として、1970年に現地法人「タイグリコ」を設立。その後、米国、フランス、中国などにも現地法人を設立していったわけですが、2012年から本格的な展開を始めたインドネシアが好調のようですね。売上目標は3年間で10億円だったのに、1年目でいきなり5億円も稼いでしまった。インドネシアのお菓子市場ってどんなところなのでしょうか?
中原: 日本国内の菓子市場は、少子高齢化や人口減少などで「先細りするのではないか」と言われていますが、インドネシアは違います。
土肥: インドネシアの菓子市場をみると、2012年は2473億円ですが、2013年は2963億円まで拡大していますよね(富士経済調べ)。
中原: なぜ急成長しているかというと、日本に比べて子どもの数が多いことが挙げられます。あと、都市と地方の経済格差はありますが、その差がだんだん縮まっています。こうした背景があって、お菓子を購入できる層が増えているんですよね。
土肥: ポッキーの価格は60~70円ほどなので、現地の所得水準からすると“少し高め”ですよね。ボリュームの多い中間層の子どもたちに手にとってもらうためには、少しハードルが高いのではないでしょうか。
中原: まず「ポッキーってどんな味がするのか」を知っていただかなければいけません。そこでサンプリングを行ったのですが、日本では考えられないことをしたんですよ。
土肥: ん? 街中で配ったのではなくて?
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「Pocky」のロゴが入った赤いポロシャツ姿の「赤ヘル部隊」は午前9時30分に出動する。行き先はスーパーなどの量販店
中原: ポッキーのデザインをラッピングしたワゴン車を小学校や中学校の校庭にどーんと停めて、そこでポッキーを配ったんですよ。
土肥: え? そんなことが許されるのですか?
中原: もちろん学校の許可は得ています。さらに、授業中の教室にどーんと入っていって、ポッキーを配ったんですよ。学校の先生は事前に聞いているので、グリコのスタッフがやって来ても「どうぞ、どうぞ、ご自由に」といった感じ。
授業はそこでストップして、残りの時間はポッキーに関するクイズを出したりして。正解した生徒には、商品をプレゼントしたりしました。
土肥: 日本の学校ではありえない光景ですね。それにしても、授業中にいきなり知らない人がやって来て、お菓子をくれたら子どもたちも大喜びでしょうね。弊社でも先日、某メーカーがサンプリング用のジュースを配っていたのですが、みんなキャッキャ言いながら飲んでいましたから。
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学校の校庭でポッキーを配っている(左)、授業中にもかかわらず、教室に入ってポッキーを配る(右)
ポッキーの原料を変えた
土肥: インドネシアといえば、赤道直下に位置する暑い国ですよね。気象庁によると、首都ジャカルタの平均気温は年間を通して28~29度くらい。そんな暑い国なので、チョコレートが溶けたりしませんか?
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インドネシアの首都ジャカルタの平均気温など(出典:気象庁)
中原: 日本で売られているポッキーをそのまま現地で販売すると、常温の状態でも溶けてしまう。なので、原料を変えて“溶けにくく”しているんですよ。
土肥: ほー。門外不出かもしれませんが、レシピを教えていただければ。
中原: もちろん、門外不出です(笑)。
土肥:ちょっとだけでも。
中原: では、ちょっとだけ。現地のポッキーは、日本のモノとは違う油脂を使っているんです。そうすることで、融点が変わってくるんですよね。
日本のポッキーは、口の中に入れるとすぐに溶けるので、チョコレートの香りをすぐに感じることができます。一方、インドネシアのポッキーはすぐに溶けないので、チョコレートの香りがすぐに広がりません。その代わり、後味が残るんですよね。
土肥: 昔から海外でやってきているので、そうした工夫ができるのでしょうね。
中原: だと思います。
土肥: 海外展開を始められて40年以上が経っているのですが、いろいろな苦労があったと思います。一番苦労されたことはなんでしょうか?
中原: やはり競合との勝負ですね。日本では日本での勝負があるのですが、世界に出ると日本のメーカーだけでなく、グローバル企業の商品がたくさんあります。M&M'S、スニッカーズ、キットカットなど。また、現地メーカーの商品もたくさんあります。
そうした環境の中で、ポッキーの認知度を上げなければいけません。先ほど申し上げたようにサンプリングなどをして認知度を上げていって、ようやく売り上げが伸びていくわけですが、そうするとよく似た商品が出てくるわけですよ。パッケージを見ると「なんやこれは!?」と言いたくなるようなモノが。
土肥: 要するに、パクられたわけですね。
中原: はい。ただ、グローバル企業は真似しないんですよね。というのも、彼らは生産効率を重視するので……ポッキーのような生産効率が悪い商品は興味がないようで。
土肥: どういうことでしょうか?
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現地のスーパーには、ポッキーの類似品が並んでいる
現地のスーパーでは類似品が並んでいる
スーパーでは類似品が並んでいる
中原: グローバル企業の商品は、単純な工程で作ることができるモノが多いんですよ。金型にチョコレートを流し込んで終わり――といった感じで。ウエハースが入っている商品の場合でも、金型にチョコレートを入れて、ウエハウスを入れて、またチョコレートを入れて、冷やして――といった感じて、ひと手間加わるくらい。
一方のポッキーは、軸になる棒(プリッツ)を焼かなければいけません。そして、焼いた棒にチョコレートを付けて、冷やす。できあがったらそれを箱に詰めなければいけないのですが、ポッキーは折れやすいのでていねいに梱包しなければいけません。
土肥: 運んでいる間に折れてしまったら、商品になりませんからね。
中原: ひと手間、ふた手間かかってしまうので、ポッキーのような効率の悪い商品は、グローバル企業はなかなか真似ができないんですよ。ということで、ポッキーの類似品はなかなか出てこなかったのですが、インドネシアで売れ始めると、現地メーカーなどがよく似た商品を出してきたんですよ。
土肥: ちょっと待ってください。インドネシアで本格的な展開を始めたのは2012年ですよね。2年やそこらで、そんなことができるのでしょうか?
中原: 「ポッキーが売れるんだったらウチも……」という感じで、商品が開発されたのでしょう。現地のスーパーなどで、ポッキーとよく似た商品が並んでいます。味を比べるとクオリティの差を感じていただけると思うのですが、パッケージがよく似ているんですよ。なので、買い慣れていないお客さんからすればなかなか区別がつきにくい。
土肥: そこが狙いかも。
中原: そうなんですよ。インドネシアでポッキーの認知度はまだまだ高くありません。スーパーの棚でよく似た商品が並んでいたら、そちらの商品を購入されるかもしれない
安かろう、悪かろう商品の結末
土肥: 話は少し変わりますが、「AKB48」の人気がぐーんと伸びていったとき、よく似た名前がたくさん出てきましたよね。「なんとかなんとか48」とか「なんとかなんとか100」とか。そうした名前を付けた人たちは、「人気のある『AKB48』にあやかれーーっ」と思っていたのでしょうが、結局は本家本元の「AKB48」を越えることはできなかった。むしろ、本家のイメージをアップさせる“脇役”に過ぎませんでした。
ただ、ポッキーの場合は「AKB48」のようにまだまだ認知されていない状況なので、ちょっとツラいですね。
中原: 安かろう、悪かろうの商品が出てきても、過去の経験から言って「にぎやかし」で終わることが多いので、それほど心配していません。最終的には味や品質で淘汰される世界なのですが、今後、クオリティの高い商品が出てくるかもしれません。実際、そうした商品が出てきていて、売り上げも伸ばし始めているので、注意が必要ですね。
ただ、そちらのほうばかりに意識がいっていてはいけません。同時に、グローバル企業とも戦っていかなければいけませんから。彼らは資本を投下して、一気に攻め込んできます。テレビCMを大量に流したり、スーパーの売り場を買ったり。
土肥: 日本でもありますよね。スーパーの目立つところに、オレオだらけになっていることが(笑)。
中原: 弊社ではそこまで資本を投下することが難しいので、そうなるとアイデアで勝負しなければいけません。
類似品が出てくるのは、マイナス面ばかりではない
日本の常識がなかなか通じない
土肥: 話を聞いていると、海外で商売をするのは大変ですね。グローバル企業とも戦っていかなければいけませんし、現地企業とも戦っていかなければいけません。また、ちょっと売れ始めると、すぐに類似品が出てくる。こうした厳しい環境の中で、今後どういう方針で戦っていくのでしょうか?
中原: 基本的には、グローバル企業と勝負しなければいけないと思っています。ポッキーの認知が高まれば高まるほど、類似品は“真似たモノ”として認知されていきますから。そこからどんどん差をつけていけば、淘汰されていくのではないでしょうか。
一方、類似品が出てくるというのはマイナス面ばかりでもないんですよ。スティックタイプのお菓子が増えてくると、スティック市場ができるかもしれません。いままでなかった市場なので、その中でトップに立つことができれば、さらに売り上げアップにつながるのかなあと思っています。
繰り返しになりますが、とにかくライバルが多いので、日本の常識がなかなか通じないんですよ。
土肥: どういうことでしょうか?
中原: 日本で経験して、通用したノウハウ……成功体験をそのまま持ち込んでもあてはまらないことが多いですね。今の時代は、変化のスピードがものすごく速いので、それに対応していかなければいけません。意志決定や施策などに遅れが出ると、海外で生き残るのは難しいでしょう。
他社よりも先行してやっていくには、とにかくスピードが大切。しかもそれを続けなければいけません。インドネシアでの初年度の売り上げは5億円でしたが、それで満足しているわけではありませんので。
土肥: 全体の目標は、2020年に1000億円ですからね。海外に行った日本人がお土産にポッキーを買って帰る、逆に日本にやって来た外国人がポッキーを買って帰る――こうしたサイクルが生まれると……。
中原: いい感じですね。
(終わり)

日本のお菓子は超うまい!
日本人は美味しい物が大好きだから
お菓子の会社も一生懸命美味しい物を作る。
不味い物は売れませんからね。
できれば、ショートニングなどの体に良くない物は省いて作ってほしいな!