日本を買い始めた台湾 | 日本のお姉さん

日本を買い始めた台湾

「尖閣買う日本」を買い始めた台湾
配信元:
2013/01/26 21:09更新
【国際情勢分析 吉村剛史の目】
 日台間の経済協力といえば、これまでは日本から台湾への投資が主体だった。しかし協議の行方が注目される鴻海(ホンハイ)精密工業とシャープの資本提携をはじめ、台湾の大手銀行、中国信託商業銀行(台北市)による、首都圏を地盤とする第二地方銀行の東京スター銀行(東京都港区)の買収の動きも表面化したように、最近は台湾から日本への投資も注目を集め始めている。台湾を中国市場進出の足がかりとしたい日本の思惑に対し、経済を軸に中国との関係を改善し、中国市場で成功した企業が増える一方で、対日関係強化でリスク分散し、バランスを保ちたい台湾。双方の思惑が絡みあっている。
 ■経済に「尖閣」影響せず
 沖縄県・尖閣諸島に関しては中国同様に台湾も主権を主張しており、日本政府による国有化の動きを受け、活動家らの抗議デモなどが展開された。
 昨年9月には台湾の抗議漁船が、親中派企業家の支援を受けて尖閣に押し寄せたが、台湾の総合雑誌「遠見」の10月号は「日本(政府)が釣魚台(沖縄県・尖閣諸島)を買う今、台湾は日本を買う」という刺激的な見出しで特集を組んだ。
 遠見の世論調査では、尖閣騒動による日本への旅行や、日本製品の購買などへの影響に関し、60・7%が「影響しない」と回答。また経済協力については48・7%が「現状を維持」、21・2%は「むしろ増加する」と回答。「減少する」という17・1%を大きく上まわった。
抗議デモの暴徒化で日本車などが攻撃対象となった中国と違い、「政治は政治、経済は経済」という台湾社会の冷静さが際立ったわけだが、遠見は台湾の企業が世界へ乗り出す上で、日本企業のブランド力や技術力、また不動産資産などが有効と分析。ハイテク産業を中心とする「日本買い」への勢いを紹介した。
 台湾の経済部(経産省に相当)によると、台湾の対日投資は2011年の21件、2億5230万ドル(約224億円)から、12年には35件、10億8900万ドル(約966億円)に伸長した。
 ■円安も「影響ない」
 台湾の中央通信社は今月17日、台湾の不動産大手「信義房屋」の日本法人に、台湾からの不動産購入に関する問い合わせが殺到している、と報じた。
 円安で物件価格が台湾元換算で2カ月間に10%下落。問い合わせは2週間で200件以上と平時の10倍以上を記録し、実際に日本を訪れる顧客も一カ月で50組と従来の40%増に。今後は70組程度に増加が見込まれ、休日返上の状態という。
 台湾から日本の不動産への投資は、台湾での不動産取得が制限されるようになった金融や保険会社が、東日本大震災後に東京都心のオフィスの空室増を受け、一足先に日本の不動産に注目していた矢先でもあった。
 経済紙「工商時報」は21日、経済・金融などを担当する管中閔・行政院政務委員(閣僚級)の訪日後の談話として、日台の産業連携は円安の影響は受けない、との見方を伝えている。
 管政務委員は、尖閣問題で日中間の緊張がたかまる中、日台が連携して中国市場を開拓する重要性は増す、と指摘。円安が日本から台湾への投資に与える影響にも楽観を示した。
 ■対中投資から分散の傾向
 事実、経済部のまとめでも日本の対台湾投資は11年に441件、4億5000万ドル(約392億円)、12年は619件、4億1400万ドル(約367億円)と順調に推移している。
 台湾は10年、中国と自由貿易協定に相当する経済協力枠組み協定(ECFA)を締結。一部品目は対中輸出関税がゼロとなるため、対中輸出拠点として台湾の存在感が増大した。
 最近ではシチズンのグループ会社など、工作機械メーカーが台湾の工作機械会社への生産委託に乗り出している。
 順調な日台連携とは逆に、台湾からの対中投資は経済部によると、11年は575件、131億ドル(1兆1610億円)、12年は454件、109億ドル(9663億円)と3年ぶりに減少に転じている。
 中国政府が、最低賃金を年13%以上引き上げる方針を打ち出していることや、契約上のトラブルの多発などから、対中投資の魅力が減少したとみられており、ベトナム、マレーシアなど東南アジアへ分散する傾向も浮上。こうした流れは、日台の経済面での補完関係の一層の強化にもつながっていきそうだ。
(よしむら・たけし 台北支局)http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/china/625339/