国際通貨化のプロセスは必然的に既得権益のほぼ解体的な再編を意味する | 日本のお姉さん

国際通貨化のプロセスは必然的に既得権益のほぼ解体的な再編を意味する

情報BOX:尖閣問題で打撃を受ける日中の経済関係
2012年 09月 26日 15:26 JST
[26日 ロイター] 尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題をめぐる日中関係の悪化を受け、トヨタ自動車(7203.T: 株価, ニュース, レポート)や日産自動車(7201.T: 株価, ニュース, レ
ポート)、スズキ(7269.T: 株価, ニュース, レポート)が中国で減産に動き出すなど、アジアの2大経済大国である両国の経済関係にも影響が出ている。
日本による尖閣諸島の国有化を受けて中国各地で広がった反日デモの影響で、日本と中国を結ぶ空の便も減便が相次ぎ、日系企業は臨時休業や工場の操業停止に追い込まれている。
日中間の摩擦が経済に与える主な影響などを以下にまとめた。
◎大和総研の試算によると、中国向け輸出が1カ月止まった場合、日本の製造業の生産額は2.2兆円減り、日本の自動車メーカーにとっては1445億円の損失となる。
◎SMBC日興証券は、反日デモが1カ月続いて中国国内の日本企業が営業を停止した場合、全産業の売上高は約1.5兆円落ち込むと試算。
◎中国は2009年に米国を抜いて日本の最大の輸出相手国となった。財務省の統計によると、2011年の中国向け輸出は、日本の輸出全体の約5分の1を占める。
◎中国にとって日本は、欧州と米国に次ぐ世界3位の貿易相手国。中国税関当局によると、2011年の日中間の貿易額は前年比11.7%増の3450億ドルとなり、過去最高を記録した。
◎2011年の日本の対中直接投資は、前年比で約60%増加し、初めて1兆円を突破した。 続く...
◎2011年の中国の対日直接投資は、前年の276億円から89億円に急減。ただ、13億円だった2005年の水準を依然として大幅に上回っている。
◎2011年10月1日時点で、中国本土と香港で操業する日系企業は子会社を含めると3万3400社以上と、前年同期比では75.4%増えた。
◎中国国家統計局によると、2010年末時点で、中国に進出する外国企業のうち、現地との合弁を含む日系企業が占める割合は16%で、約300万人の雇用を抱える。
◎バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの試算では、日本の自動車メーカーの純利益のうち中国事業が占める比率は、日産自動車が25%、トヨタが21%、ホンダ(7267.T: 株価, ニュース, レポート)が16%と
なっている
http://jp.reuters.com/article/jpchina/idJPTYE88P03X20120926?rpc=122&pageNumber=1&virtualBrandChannel=0

コラム:人民元国際化に政治の壁、通貨危機リスクも=竹中正治氏
2012年 09月 26日 16:41 JST

竹中正治 龍谷大学経済学部教授
[東京 26日 ロイター] 中国人民元の国際通貨としての台頭については、このフォーラムでも斉藤洋二氏、加藤隆俊氏が慎重ながらも将来的にその現実性は十分あると述べられている。
こうした比較的慎重な意見の一方で、「国内総生産(GDP)で日本を抜いて世界第二の経済大国になったのだから、人民元のプレゼンスが国際通貨として高まるのは自然」といった論調も中国内外で横行しているようだが、それは実に危うい俗論だ。

国際通貨化のプロセスは必然的に中国国内の経済・金融にまたがる既得権益のほぼ解体的な再編を意味するものであり、本気でそれを実現するならば「第二の革命」とでも呼ぶべき、高い政治的なハードルを乗り越える必要がある。
その過程において政治体制の不安定化や、制度・政策の不整合を原因にした金融危機的な状況すら起こり得ることを指摘しておこう。

<人民元先物為替市場の構造的問題>
まず、今日のドルや円、ユーロのような「国際通貨」とは、貿易、投資、金融などの国際取引に世界中で使用されるものだ。したがって、世界の外為市場で自由に交換、売買できる条件が満たされる必要がある。
たとえば、日本と中国の間で「ドルや円ではなく、人民元建てで契約しましょう」と言われた場合、為替相場の変動リスクは日本の契約者が負うことになる。当然、日本の契約者は人民元の為替リスクをヘッジできる環境がなければ、一方的に為替リスクを負うことを拒む。外国為替のリスクヘッジ手段としては、先物為替取引が最も一般的であり、先物為替取引で人民元相場の変動リスクを回避する反対取引ができれば問題はない。ところが、現在、人民元については十分な流動性のある先物為替市場はできていない。
一方、ドル建てで契約すれば、日本の契約者はドルと円の為替変動リスクをドル円の先物取引でヘッジできる。また、中国の契約者にとっては、十分な流動性のあるドル・人民元先物市場はないものの、中国政府が常時大規模な外為市場への介入で事実上対ドルでの為替変動リスクを抑制しているので、短期なら大きな為替リスクを負わずに済む。そのため、日中間でもドルで契約される場合が一般的になるのだ
では、なぜ流動性の高い人民元先物為替取引市場ができないのか。その理由は相互に関連した二つの事情による。
第一に、海外の金融機関などが中国の国内銀行に資金決済用の人民元口座を保有することを中国政府が禁じているからだ。

そのため海外の銀行は中国国外で人民元と他通貨の交換取引をしようにも決済することができない。これは中国政府が人民元相場をできるだけコントロールする目的でそうしているのだ。


第二の理由は、中国が内外の資金移動を規制しているからだ。

ドル、円、ユーロなど先進国通貨の間では居住者・非居住者の区別なく相互の交換、国境を越えた資金移動、各通貨建ての各種金融資産の売買が自由にできる。

一方、中国政府は海外との間でそうした取引を依然厳しく規制している。


少し専門的になるが、流動性の高い先物為替市場は二国間の資金移動が自由である条件の下で金利裁定原理に基づいた価格形成が行われて初めて可能になるのだ。


以上二つの事情の結果、海外では人民元の資金決済を前提としないNDF(ノンデリバラブル・フォワード)と呼ばれる外為相場取引しか利用できない。この市場は中国国内の外為市場と分離され、金利裁定原理も働かないので、流動性の乏しい狭隘なものにとどまっている。


なぜ中国は内外の資金移動を規制しているのか。

それを理解するために国際通貨制度におけるトリレンマ(不可能の三角形)の命題を理解しておく必要がある。それは内外の資金移動の自由、自国の金融政策の独立性、為替相場の安定、この三つを同時に満たす通貨制度は原理的に不可能であり、同時に満たせるのは二つまでであるという原理だ。


なぜ同時に三つを満たすことができないのか。たとえば、日本が米ドルに対して1ドル=100円の固定相場制を採用したとする。同時に日本銀行と米連邦準備理事会(FRB)は独立した金融政策を行っており、10年物日本国債利回りは1%、同じくアメリカの10年物国債利回りは3%だとしよう。


この場合、もし内外の資金移動を自由にしておくと、日本の投資家は、保有していた日本国債を売って、米国債に大規模にシフトするだろう。


固定相場制で為替リスクがほとんどないのだから、低利回りの日本国債から高利回りの米国債にシフトするのは当然だ。その結果、外為市場では投資家の円売り・ドル買いが殺到し、ドル相場は上昇しようとする。


それを抑えて固定相場を維持するためには、日本政府はドル売り介入をしなくてはならない。しかし、民間のドル買いの動きは、数百兆円もの日本国債が米ドルにシフトするか、あるいは日米金利差がゼロになるまで尽きないので、到底政府の介入では抑えることができない規模になる。


つまり、固定相場は維持できなくなるのだ。もし固定相場を維持するなら、内外の資金移動を規制するか(「内外の資金移動の自由」の放棄)、あるいは日米間の金利差をゼロにする(「自国の金融政策の独立性」の放棄)しかない。

<トリレンマの原理とアジア通貨危機の教訓>
このトリレンマの原理に反した制度・政策は最終的には厳しい市場のしっぺ返しを食らう。
その典型例が1997―98年のアジア通貨危機だ。

タイをはじめとするアセアン諸国は90年代に内外の資金移動の自由化を進めながら、同時に政府の外為市場介入で米ドルに対して固定的な相場を維持していた。一方、国内経済は日本を含む先進国からの直接投資の増加などもあって好況で、タイ・バーツの金利がドル金利を大幅に上回る状態となっていた。つまり、トリレンマの三つの条件を結果的に同時追求してしまった。
その結果、高金利の自国通貨と低金利のドルの金利格差に誘引されて、ドルで借り入れ、バーツに転換して国内投資に充てる取引残高(ドル・ショート・ポジション)が現地の企業や各種機関で莫大に積み上がった。

それに目を付けたのがヘッジファンドだ。

彼らの仕掛けたバーツ売りでバーツの対ドル相場が下落し始めるや、ドル債務(ドル・ショート)を抱える企業もリスクヘッジのためにドル買い・バーツ売りに殺到した。

途中までドル売り介入でバーツの下落を抑制していたタイ政府も外貨準備の底が見えてくると、介入を止め(97年7月)バーツ相場は急落した。

その結果、ドル債務のバーツ換算額が急拡大し、莫大な為替損で企業は債務不履行となり、融資していた銀行にとっては不良債権の山となった。
こうして通貨・金融危機に陥ってしまったのだ。

そして、インドネシアやマレーシアなど同様の構図にあった他国に危機は一気に伝染した。
当時、アジア通貨危機が中国に伝染しなかったのは、ひとえに中国が内外の資金移動を厳しく規制し、その意味でトリレンマの原理に整合的な制度をとっていたからだ。

現在の中国は、為替相場は完全な固定相場ではないが、一種のクローリング・ペッグ(じわじわと変動させる半固定的相場制)を採用し、為替相場の変動を抑制している。
その結果、内外の資金移動も規制している。

<人民元国際化は既得権益層の解体を招く>

ところが、中国人民元の国際化を進めるのであれば、必然的に内外の資金移動の規制緩和・自由化を進めることが必要となる。
では、内外の資金移動の規制緩和・自由化がどうして中国の現在の既得権益層の解体的な再編につながるのか。最後の論点を説明しよう。

ご承知の通り、中国では現在まで預金金利も貸出金利も当局によって規制・管理されている。現在、輸出や中国国内景気の失速によって中国系企業の利益は大きく減少しているが、国有銀行を中心とした銀行部門は規制された預金と貸出の利鞘のおかげで空前の高収益を上げている。中国の銀行部門の利益のほとんどは制度的に保護された利鞘(経済学では「エコノミック・レント」と呼ぶ)と言えよう。

そして、国有企業や地方政府は国有銀行から優先的な融資を受けることで、不動産事業などで莫大な収益を稼ぎ、国有銀行・国有企業・地方政府(その経営陣は党組織の官僚も兼ねている)に共通する強い既得権益構造ができあがっている。ところが、内外の資金移動を自由化すると、必然的に国内の規制金利体系は維持できなくなる。

人民元の海外市場での金利の方が国内規制金利より高ければ、資金は海外に流出し、国内の資金需給は逼迫する(金利上昇圧力)。

反対なら海外から資金が流れ込んで、国内の資金需給は余剰になる(金利低下圧力)。


規制金利と市場金利の格差を裁定する取引も活発になり、規制金利は市場金利に収斂(しゅうれん)せざるを得なくなるからだ。

その結果、中国銀行部門のエコノミック・レントとしての利鞘も消滅するだろう。
これは前述の国有銀行・国有企業・地方政府・党官僚の強固な既得権益を損なうことになる。
日本では円の国際化と金利の自由化は80年代に進んだ。
日本でこの動きが政治的に大きな変化なく起こったのだから、中国でも同様だと考えるのは、大きな間違いだろう。
当時の日本には今の中国のような国有銀行・国有企業・地方政府・党官僚の強い既得権益構造に相当するものはなかったからだ。

失脚した薄煕来一族が巨額の資産を海外に移転していたように、この既得権益構造で莫大な富を稼いだ超富裕層は、自らは特権的な地位を利用してその資産を海外に移す一方で、もし対外投資を自由化すればもっと大規模に富裕層の資産が海外に移転し、制御できない事態になる危険性をよく承知している。

したがって、現実に起こりそうなシナリオとしては、人民元の国際化の前提条件となる内外資金の規制緩和は、それが引き起こす「都合の悪い」変化が見えてくれば、既得権益層の政治的な抵抗で頓挫させられるだろう。

この既得権益層の利害に逆らって、経済・金融構造の変革(第二の革命)を成し遂げるような政治勢力は今の中国には見られない。

また、自由な市場機能にそもそも信頼を抱いておらず、官僚による指令主義的志向の強い中国政府は「管理された人民元国際化」を志向しているとも言われる。
しかし、それは概念矛盾に他ならない。
既述の通り、トリレンマの原理が示す選択肢は「管理されたローカル通貨」か「取引自由な国際通貨」しかあり得ないのだ。

あるいは、国内の規制金利を維持しながら、「人民元国際化=内外資金移動の規制緩和」という政策的に不整合な路線を志向してしまうかもしれない。

政治的な理由で経済原理に反した制度・政策の大きな不整合を犯した場合、最終的には巨大なしっぺ返しを引き起こすことは、すでにアジア通貨危機を例に述べた。また、現下のユーロ圏のソブリン金融危機が見せつけてくれていることでもある。

同種の過ちを中国が将来犯す危険性は、筆者は決して低くないと思っている。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職、経済学博士(京都大学)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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