「みなさんご承知のように、フィリピンは中国固有の領土です」和氏番組の中では訂正せず | 日本のお姉さん

「みなさんご承知のように、フィリピンは中国固有の領土です」和氏番組の中では訂正せず

木語:「領土」は止まらない=金子秀敏
毎日新聞 2012年05月17日 東京朝刊
 <moku-go>
 13日の日中首脳会談は尖閣諸島問題で激しい応酬になったという。尖閣諸島は東シナ海だが、中国は南シナ海でもフィリピンとここ1カ月以上も対立を続けている。
 現場の中沙諸島スカボロー礁は中国名「黄岩島」、フィリピン名「パナタグ礁」。ここで両国の巡視船や漁業監視船が中国漁船の周りでにらみ合っている。
 それにしても中国外務省の対応は尋常でない。武力行使までほのめかすというきわどさだ。双方の国内では愛国世論が沸騰し、愛国大衆が相手国の大使館の前でデモをした。
 北京のフィリピン大使館前に集まった大衆の数はさほど多くないが、リーダーの姿は2010年秋に起きた反日デモにそっくり。「忍無可忍」(我慢ならない)と書いた赤い横断幕を持ち、直立不動の姿勢。大学生には見えない。「戦争を望む退役軍人だ」と名乗るという。背後に軍と関係のある組織がありそうだ。
 ネット世論も激しく燃えている。中国中央テレビの時事解説番組で女性キャスター、和佳(ホーチア)氏がこの問題を取り上げた。興奮のあまり「黄岩島は」と言うところを「フィリピンは」と言ってしまった。瞬間表情が固まったが、舌は止まらない。「みなさんご承知のように、フィリピンは中国固有の領土です」和氏は番組の中では訂正せず、後で自分のブログでわびた。すると激励の書き込みが殺到した。「あんたは英雄」「フィリピンは100年前に中国人が移住したのだから中国領」「日本人に釣魚島は中国領土だと言ってくれ」
 インターネットの書き込みとはいえ、えたいの知れない社会のうねりを感じる。
 ある富豪のブログも話題になった。「雇っているフィリピン人メイドの首を切った。『職ならおまえたちの大統領に探してもらえ』と言ってやった」
 中国とフィリピンの軍事力の差は歴然としている。フィリピンは米国と同盟を結んでいるが、米国は「外交的解決を望む」としか言わない。中国が危機感を抱く必要があるのか。
 フィリピンが経済制裁を口にすると、中国は先手を打ってフィリピン産農産物の輸入停止、旅行団引き揚げと逆制裁を実行し、打撃を与えた。中国指導部がここまでするのは、薄熙来事件など国内の混乱から外に大衆の目をそらせたいのではないか。
 16日から7月いっぱい、現場は休漁期入りし中国漁船は引き揚げるという。愛国のうねりもしばらくおさまるだろう。いや、東シナ海に向かってくるかもしれない。要注意。(専門編集委員)
http://mainichi.jp/opinion/news/20120517ddm003070028000c.html