NYフィルの北朝鮮公演ーベネチア在住の・チェスキーナ永江洋子が足りない資金を援助 | 日本のお姉さん

NYフィルの北朝鮮公演ーベネチア在住の・チェスキーナ永江洋子が足りない資金を援助

NYフィル平壌公演の別世界…歪んだ反人権タクト

(東アジア黙示録)さんの記事の紹介です。

http://dogma.at.webry.info/200802/article_8.html

NYフィルの平壌公演は鳴物入りで中継された。資金を出した日本女性に謎の黒幕…しかし“真の主賓”は会場に現れず失敗に終わった。北鮮プロパガンダのタクトを振った者の罪は深い。


平壌の異空間に米国国歌のメロディーが流れた。『星条旗』が北朝鮮国内で公式に演奏されたのは、初めてだという。それは北朝鮮のプロバガンダに色を添える歪んだ調べに他ならない。

2月26日、大同江沿いの東平壌大劇場で予定通りNYフィルの北朝鮮公演が行なわれた。米朝両国の国歌を始め、ドボルザークの交響曲第9番『新世界より』や、ガーシュウィンの『パリのアメリカ人』などが演奏された。アンコールでは半島民謡『アリラン』が奏でられたという。
▼整然と起立する観客(ロイター)

2時間弱にわたるオーケストラの演奏。反人権のタクトが振られた、という意味では画期的だ。

NYフィルの破廉恥な公演は、北の国営テレビで放映された他、韓国のテレビ局、米国の泡沫チャンネルでも同時に中継された。特に韓国MBCは現地からの実況を交え、お祭り気分で伝えたようだ。
▼公演に招待された特権階級の観客(ロイター)

わが国の一部メディアも歓迎口調で公演の模様を報じていたが、ラヂオプレスによると北国営テレビの中継中、国営ラジオでは米国を非難する論評を流していたという。

「現在、米国の対朝鮮戦争戦略は危険な段階に入っている」

よく知られているように、北朝鮮国内のテレビ普及率は低く、21世紀の今も、ラジオ(チャンネル固定)がメーンだ。NYフィルの演奏を聴いた庶民がごく僅かだったことは言うまでもない。
▼劇場に向かう着飾った女性たち(AFP)

東平壌大劇場の観客席は北の特権階級で占められたが、その中に、著名な日本女性の姿があった。

【資金難を“救った”日本女性】

NYフィルの演奏中、観客席をパンしたカメラに一人の女性が写り込んでいた。イタリア在住の日本女性・チェスキーナ永江洋子である。

NYフィルのメータ代表は会見で個人名をあげて感謝の意を表明した。

「ヨーコに感謝します」
▼会見するNYフィルのメータ代表(JNN)

チェスキーナ永江洋子は、イタリア留学後、ハープの演奏家として活動する間に、ミラノの大富豪レンツォ・チェスキーナ氏と結婚。82年の夫の死亡で100億円を超える財産を相続した大富豪。現在もベネチア運河畔の豪邸に暮らし、音楽家のパトロンとして世界的に有名な人物だ。

今回は、最高額の個人スポンサーだったことから、北朝鮮に招かれて歓待され、影の“立役者”などととクローズアップされた。投じた資金は推定で数千万円にのぼるという。
▼平壌に到着した永江洋子:手前左(読売新聞)

彼女は資金提供について昨年、こう答えている。

「政治のことは分からないけど、音楽の力で平和につながるならと二つ返事で引き受けました」

無邪気な印象も受けるが、カネを提供したタイミングも問題だったのだ。

今回のNYフィル平壌公演には複数の韓国企業がスポンサーになっていた。判明している限りでは、韓国内での独占放映権を獲得したMBCテレビが最大5,700万円。団員と機材の搬送を受け持ったアシアナ航空が約8,000万円を提供した。
▼豪邸内で取材に応じる永江洋子(JNN)

ところが、それでも必要経費の全額に及ばず、公演実現が窮地に陥った所で、チェスキーナ永江洋子に白羽の矢が立てられた。彼女がポンと差し出した数千万円が資金不足を補う結果になったのだ。

その一方で、米オーケストラの北朝鮮公演には正体不明の人物が当初から黒幕として動いていた…

【黒幕は香港在住の謎の投資家】

米国楽団の北朝鮮公演をめぐって暗躍していたのは、裴卿煥(ぺ・ギョンファン)なる謎の人物だ。

裴卿煥は、香港に拠点を構える大豊(デプン)国際投資グループの副総裁という肩書きを持つ。この企業グループは北朝鮮の主導で香港に設立されたが、韓国紙によると裴卿煥は韓国籍なのだという。
▼金日成肖像前で記念撮影する楽団員(AP通信)

米国政府部内の要人にパイプがある一方で、北朝鮮高官とも直接対面できる典型的なフィクサーだ。

裴卿煥は、これまで海外のメディアに対し、米楽団の北朝鮮公演について進捗状況を語っている。それによると、裴卿煥がアイデアを北朝鮮側に提示したのは一昨年の暮れ。核実験強行の後、米国が北に急接近し始めた頃だ。

翌年になって金正日のゴーサインが下り、朝鮮労働党関係者が公演の実現を求めてきたという。

一方で、裴卿煥は第1期ブッシュ政権で朝鮮半島平和担当特使を務めたリチャード・プリチャートに打診。それが昨年6月、ヒル国務次官補の電撃的な北朝鮮訪問での公演決定に繋がったと明かす。
▼昨6月ヒルの電撃訪朝(AP通信)

「姜能洙(カン・ヌンス)文化相から、米交響楽団の平壌公演と平壌国立交響楽団の米公演に関連した承認を受けている」

「米の楽団は公演後に休戦ラインを越えてソウルに向かう」

裴卿煥は、VOAや韓国メディアのインタビューに応じて度々発言している。大言壮語の感があって額面通り受け取れないが、観測気球をあげつつ、既成事実化を狙っていたのは確かだ。
▼写真撮影に興じる楽団員(AP通信)

問題なのは、裴卿煥のようなパーソナルデータに乏しい人物が暗躍していたことである。「音楽は国境を越える」などと、今回のNYフィルの公演を手放しで歓迎する連中は、北朝鮮が影で舞台を整えてきた黒い経緯を直視すべきだろう。

そして、NYフィルの平壌公演を力技で実現させた張本人は、何よりもヒル-ライスに代表される米国務省の対北融和派である。仕掛けは実に巧妙だった…

【平壌公演の興行主は米国務省】

NYフィルの平壌公演は、米朝融和を内外に印象づけるプロパガンダの一環として計画された。当初の見込み通りならば、米朝国交正常化の前奏曲として劇的な効果をあげただろう。
▼20日北京入りしたヒル次官補(AP通信)

前述した通り、平壌公演が国家間のテーブルに正式にあがったのは、昨年6月平壌での米朝会談だった。ヒル次官補と金桂冠による合意である。その頃は、米国務省も融和路線で突破を図れると踏んでいた。

昨10月にはNYフィルの平壌入りが確定していたが、なお国歌演奏をめぐって駆け引きが続き、公式発表が行なわれたのは12月11日だった。
▼昨年9月ヒルと金桂冠(ロイター)

しかし、その頃には、6ヵ国協議の合意文書に示された「第2段階措置」の年内履行は絶望視され、12月上旬に予定されていた首席会合も吹き飛んでいた。歯車は既に狂い始めていたのだ。

しかも12月11日のNYフィルの会見にはヒルも出席する予定だったが、直前にキャンセルする有り様だった。逃げ足の速い男である。逃げたのはヒルばかりではない。コンドリーツァ・ライスも同様だ。

2月26日のNYフィル平壌公演には壮大な仕掛けが施されていた。そして、それは見事に失敗した。
▼27日来日したライス(ロイター)

東平壌大劇場に金正日は姿を見せなかった。事前の報道では金正日の出現が真しやかに囁かれていたが、実際には金正日はおろか、最高位級の著名な幹部は軒並み欠席した模様である。確認されたのは李根(り・ぐん=6ヵ国協議北次席代表)と文化相の姜能洙ぐらい…

しかし当初、注目されていた来賓の筆頭は、金正日ではなく、米国務長官のライスだったのだ。その仕掛けを説く鍵が2月26日という日付である。

【幻に終わったライスの平壌入り】

NYフィルの平壌公演が2008年2月26日と判明したのは昨年11月の初めだった。なぜ、その日なのか?

表向きはNYフィルの台湾・香港・シナ公演が終わった後に連続して行なう、という理由だったが、別のスケジュールもあった。平壌公演の前日は、2月25日。即ち韓国大統領就任式の当日だ。
▼李明博の大統領就任式(ロイター)

韓国の大統領就任式は、新憲法制定によって1981年の全斗煥就以来、2月25日に行なわれている。中途退任がない限り、その日に大統領就任式が執り行なわれることは決まっていた。

就任式には、各国が要人を派遣する。わが国からも誰か行ったようだ。
▼大統領就任式のもよう(ロイター)

ヒルは、ライスが25日に式典に出席した後、その足で平壌に飛ぶことを計算し、外堀を埋めていたと考えられる。

米国のライス派遣は今年1月になって発表されたが、2003年の盧武鉉就任時には同じ国務長官のパウエルが米使節として出席している。例に倣えば国務長官クラスが派遣されるのは確実だった。
▼韓国大統領就任式でのライス(ロイター)

もし、昨年の計画通りに米朝の雪解けが進んでいれば、ライスは躊躇いなく平壌を訪れてホールに姿を見せただろう。そして、金正日がホスト役を務め、“歴史的”公演に毒を添えたかも知れない。

「公演のマイナス面はまったくない」

とヒルは強がっているが、政治ショーとしてのNYフィル平壌公演は明らかな失敗だった。

【マゼールは反人権のタクトを振った】

「『音楽外交』の任務は完了したと思う」

「将来、重要な転機として歴史に刻まれているよう望むだけだ」

公演終了後、NYフィルの音楽監督ロリン・マゼールは自画自賛した。タクトを振ったマゼールは、ザリン・メータ代表と共に、積極的に北のプロパガンダに加勢した張本人である。
▼平壌順安空港に降り立つマゼール(AFP)

昨年、平壌公演が持ち上がった際、NYフィルの団員の一部から懸念する声もあがったが、マゼールらが押し切ったと言われる。かつてチャウシェスク体制下のルーマニアでもタクトを振ったマゼールには、人権感覚が備わっていないようだ。

26日、東平壌大劇場を埋めた1,500人の観衆は、党幹部・軍幹部の家族などばかりで、庶民とは無縁のものだった。
▼党幹部らが並ぶ特別観覧席(AP通信)

北朝鮮メディアがNYフィルの公演を初めて伝えたのが、僅か4日前の2月22日。公演予告は劇場前の立て看板1枚だったという。チケット販売はなく全員が招待形式である。

もし北朝鮮の庶民が誰でも入場できる演奏会であれば、それは素晴しいことだ。しかし、実際は逆で、ごく一握りの特権階級の為の公演に過ぎなかった。
▼招待された北の女性ら(共同通信)

派手に着飾った金満夫人らが詰め掛ける演奏会で「音楽での親善」など、よく口に出来たものである。

舞台となった東平壌大劇場は、冷酷な程に豪華だ。A棟ホールは中央吹き抜けの作りで、巨大な大理石の柱が20本以上聳えているという。
▼終演後の東平壌大劇場内(AP通信)

完成は1989年。ソウル五輪に対抗して金親子が予算を湯水のように注ぎ込んで建築した遺物だ。有名な柳京ホテル同様、人々の暮らしを無視して独裁者の威光を示す為に築かれたものである。

NYフィル訪朝団と一緒に米国の報道関係者も平壌に入った。一部のカメラマンは果敢に郊外に赴き、庶民の暮らしを撮影していた。その中に、薪を集める女性の写真があった。日付は2月25日。
▼平壌郊外で薪を運ぶ女性たち(ロイター)

指揮者マゼールは、同じ日、豪華な食事を饗されていたが、劇場の扉の外にいた人々の暮らしを思い遣ることは出来なかったのか。本当の北朝鮮は、ショーウィンドー都市とは別の所にある。
▼指揮者マゼールへの饗応2月25日(AP通信)

チェスキーナ永江洋子にしても、韓国MBCやアシアナ航空にしても、カネの使い道は勝手だなどと言わせない。独裁体制のプロパガンダ支援は、北朝鮮の庶民を苦しめることに繋がる非情な行為なのだ。

別の写真では、独りで薪を集めている幼い少女の姿が見える。2月の寒空のもとだ。
▼平壌郊外で薪を集める少女2月25日(ロイター)

オーケストラの演奏が、果たして、このような少女にとって何の役に立つと言うのだ。特権階級に「優雅な時間」を与えただけではないか。

独裁者に追従する全ての行為、偽りの善意にNOを叫ぶ。そして、北の庶民が、人らしく暮らせる日が来ることを望む。


  〆
最後まで読んで頂き有り難うございます